執着系彼女と無表情ガール

カタリベツヅル

マヨウのピアスの話



「ピアスを開けて欲しい」



突然何を言うのか、と無表情ながらに困惑したヒナは、読んでいた動物の雑誌から顔を上げマヨウを見る。



ヒナの恋人である彼女は、気まぐれでマイペースな性格なので突然何かをしたいと言い出すことが多い。 



「もうそんなに開けてるのに?」



ヒナはピアスだらけの耳を見て言う。

それに対し片耳を引っ張りながら言うマヨウ。



「まだ開けれるよ。…それにヒナに開けて欲しいんだ」


「何で私…。自分で開ければいい」



無表情で声にも感情が乗りにくいヒナにしては珍しく、嫌そうな声色をしている。

そんなヒナに構わずマヨウは言う。



「自分で開けるのは慣れてるしやってもらいたいんだよ」


「それなら病院に行けばいい」


「ヒナに開けて欲しいの…!」



頑ななマヨウに押し問答が終わらない、と思ったヒナは何でと聞く。

彼女が引かない時は理由がある。大抵はそう…。



「ピアスを開けてもらうのって…えっちらしいじゃん」



こういう理由である。

また、しょうもないことを…と呆れたヒナは雑誌に視線を戻す。


彼女に度々訪れる発作の様なものである。えっちだからと理由を付けて、ヒナに何かしらをやらせるのである。


この前だって破れたタイツがえっちだと言い、突然ヒナのタイツを破ろうとしてきたのだ。まあ、マヨウは酔っ払っていたとはいえ、あの時ははっ倒して事なきを得たのだが。

しかし、酔いから覚めてもしつこく言うものだから、仕方なく古いタイツを引っ張りだし履いた状態で破かせた。その後、興奮した彼女に美味しく頂かれたわけだが。


少し前の出来事を思い出している間に、マヨウが寄ってきてヒナに抱きつく。


「だって友達が自慢してきたんだもん!彼女に開けてもらったのがよかったって!私だってして欲しい…!」


えーん、と女性受けする端正な顔を歪ませ泣く振りをするマヨウ。

他者から見たマヨウはクールで大人っぽいと評判だが、ヒナと接する時は大抵子供っぽくなる。

ヒナより年上だし確かに頼りにはなるのだが、こういう所は毎度めんどくさい。


しかし、なんだかんだ頼みを聞いてしまうのが惚れた弱みという所か。



「…仕方ない。そんなにいうならやってあげる」


「え、いいの…!?」


「うん。その代わり、新しくできたカフェのデザート奢って欲しい。動物がモチーフのかわいいやつ」


「いいよ、何でも奢ってあげる!じゃあさっそく準備してくる。

ヒナは手を洗って待ってて!」 



ドタバタと騒がしくリビングから自室へと行ったマヨウ。

ヒナは言われた通り手を洗い、リビングで待っていた。


数分経つとマヨウは戻ってきて、手には小さな箱を持っており、その中にはピアスを開けるための道具が入っている様だ。


横のテーブルに箱を置き、マヨウはヒナの前に座り対面する。



「そういえば私、手順とか知らないけどいいの?」


「大丈夫。私が教えてあげるから、その通りにやればいいよ」



ヒナは少し緊張していた。穴を開けるということは少なからず血が出るだろう。血があまり得意ではないヒナは今更ながら少し怖くなってきた。


少し震える彼女にマヨウは目を細める。そしてヒナの手に軟膏を塗ったニードルを渡した。



「じゃあ、お願いね。開けるところにマークしといたから分かりやすいと思うよ」


「うん…わかった。あの、目は閉じて欲しい。緊張するから」


マヨウは大人しく目を閉じる。

決意を決めたヒナはマヨウの長い白髪を掻き分け左耳に手を添えて、ニードルを近づける。


耳に触れるために2人の距離は近くなる。マヨウは薄目を開けヒナを盗み見る。

彼女は無表情だが、恐々しながらも真剣な顔をしている様だ。

いつも表情の動かない彼女をそんな風にしているのが、自分だと思うと優越感がくる。


マヨウは上がりそうな口端を堪えて、ニードルが刺さるのを待った。


そしてニードルが刺さる感触がした。耳に添えられたヒナの手がピクリと震える。


「針を刺したら、針を押し出す様にピアスを刺して見て」


言われた通りピアスを差し込むヒナ。差し込み終わるとヒナの顔が青ざめた。血が出ているのだろう。思ったより量が出ているのか、慌てている様だ。


「ど、どうしよう、血が…」


「大丈夫だよ」


マヨウはガーゼで血を拭き取る。

ヒナはまだ顔が青ざめている。そんなヒナを見てマヨウは…。



「ね、このまま…シちゃおうか?」







「で、怒った彼女に追い出されたわけか…」



賑わうファミレスの店内の中、マヨウの正面に座る友人が呆れた声を出す。コーヒーを啜りつつ、毎度こいつも懲りないなと思う。



「だってさ、普段表情一つ動かさない彼女が僕の事で怯えた顔をしたんだよ?そりゃあ、興奮しない方がおかしいと思うけど」


マヨウは叩かれた頬を撫でながら、悪びれず言う。



「それで興奮する方がおかしいっての…!ったく、彼女さんに謝っとけよ」


「それはもちろん。かわいい動物型のお菓子でも買っておけば、機嫌は戻ると思うし」




暫く友人と話していたらヒナからメールが来た。一言、ごめんと書いてあり、かわいい動物が誤っているスタンプも送られている。



「ごめん、これで失礼するよ。彼女へのお土産も買わなきゃだし」


「おうおう、末長くお幸せにな」



振り回されることになれている友人は軽く手を振りマヨウを見送る

。マヨウはヒナにメールの返信をしながら、開けてもらったピアスを軽く撫でる。




マヨウの友人リョウジは、去り行く彼女の執着くめいた顔を見て、いつものことだと見て見ぬフリをした。



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