許嫁、現る⑥

「仁さん、ここは学校。約束を忘れたわけじゃないですよね?」

「ぁあ゛っ?」


 左隣りにいた詠ちゃんが、彼に画面が見えるようにスマホをかざした。


「小春に迷惑かけるような真似したら、写メ……送らないですよ?」

「なっ……」


 詠ちゃん、怖くないの?

 極道の若頭だよ?

 それも、極道でも泣く子は黙ると恐れられてる桐生組の若頭。


 一瞬、苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべた桐生さんは、詠ちゃんのスマホをロックオンした、次の瞬間。


「かっっっっ可愛いぃぃぃ~~っ」


 凄みのある顔が一瞬で蕩け、目尻を下げ、デレ顔で詠ちゃんのスマホを取り上げ、愛で始めた。


「頼むっ!コレ全部送ってくれ!!」


 何が映ってるんだろうと、ひょっこり詠ちゃんのスマホ画面を覗くと。

 なんと、仲のいい女の子同士でしたクリパの時の私のサンタコスの写真が。


「ちょっと、詠ちゃん!」

「まぁまぁまぁ~、平和な高校生活送りたいでしょ~?」

「ッ?!……何で私の写真なのよっ」

「仁さんにはこれが一番効果的なの(ほら、見てごらん。あんなにデレてる)」


 耳元に呟かれた言葉通り、真横にいる彼は完全に別人のよう。


「終わった人から教室戻っていいぞ~」


 学年主任の先生が体育館内に響き渡るように声を張る。

 列が少しずつ前に進み、遠目で先生の視線が私の右隣り(仁と鉄二)に向けられているのに気づく。


 どうして高校に入学したのかは分からないけれど、明らかに浮ている。

 そもそもその格好、制服検査……アウトでしょ。


「あっ、あの……」

「ん?」


 威圧感丸出しで腕組し、見下ろす彼の首元に手を伸ばした。


「ネッ、ネクタイくらいはちゃんと結ばないと指摘されますよっ。それと、そのピアス、今のうちに取っておいた方がいいです。絶対に先生に没収されちゃいますから」

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