許嫁、現る②

 八時四十分の本鈴が近づくと、何やら教室の外から男子生徒の叫ぶような声が掠かに聞こえた、直後。

 教室の後ろのドアから現れた長身の男子二人組に、クラスメイトの視線が一斉に向けられる。


「おいっ、見せもんじゃねーぞ」


 見るからに『不良』という言葉がマッチするような、制服を着崩した強面の男子がどすを利かせ、クラスメイトを威嚇する。

 そして、もう一人の男子が私を見つけるや否や、真っすぐこちらへと向かって歩いて来た。


「久しぶりだな」


 男子がふわっとした柔らかい笑みを私に向けた、次の瞬間。

 長い両手がスッと伸びて来て、気付いた時には彼の腕の中に。


 えっ、何この人?!

 ってか、こんな美男子、知らないんだけど。

 周りにいるクラスメイトが驚愕している。


「えっ、……ちょっ」

「あ、わりぃっ」


 身長百八十センチは優に超えてるであろう長身に、スッと通った鼻梁、薄い唇はキュッと結ばれ、芯がありそうな目力のある瞳、細身なのに筋肉質の体躯。

 テレビで観る売れっ子モデルや人気俳優より、遥かに整った顔つき。

 あまりにも息を呑む美しさに思わず見惚れてしまった。


、ご無沙汰しております」

「…………へ?」


 彼のすぐ後ろにいるどすを利かせていた強面の男子に『姐さん』呼ばわりされた。

 何、どういうこと?

 辺りが騒然となる。

 周りの子達の視線を感じながら、詠ちゃんに視線を向け、私は助けを求めた。


 キーンコーン、カーンコーンと本鈴を知らせるチャイムが鳴ると同時に、前のドアから担任(最上もがみ 夏樹なつき 三十四歳)が姿を現した。


「はーい、席に着いて~。HR始めるわよ~」


 小春は自分に何が起きているのかさっぱり理解不能のまま、いそいそと席に着くクラスメイトたちを眺めていると。


「また後でな」


 ポンと彼の大きな手が、私の頭を一撫でした。

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