踊る物語は理解不能

白黒天九

踊る物語は理解不能

これはとある世界の、不思議な不思議なお話。


太陽の照りつける国、アムニヤ。

ダンスが大好きな国民たちが沢山いる愉快な国に、とある事件が起きようとしていました。


「なんで布団の上で踊っちゃ駄目なんだよ!」

「そう言われましても、この国には『布団がかわいそうだから、布団の上で踊っちゃダメ』という法律があるからですよ?」

「でも、それでも!俺は布団の上で踊りたいんだー!」

「そんなに!?」

背の高い細身の男、ファム。彼はこの物語の主人公で、どうしても布団の上でダンスがしたいようです。

そして、その友達のマルネ。彼は部屋に引きこもり本ばかり読んでいて、最近ストレートネックっぽくなっております。


そして早速、ファムは何かをひらめいたようです。

「そうだ!法律は守るか変えるもの!国王に頼んでみよう!」

「えっ?ちょと!?」

ファムはすごいスピードで走っていってしまいました。そしてマルネは王宮に呼び出されないかヒヤヒヤしながらファムの帰りを待っていました。


1時間後、ファムは帰ってきました。

「ただいま!」

何やらテンションが高め、まさか法律の改正に成功したとでも言うのでしょうか?

「え、ああ、おかえりなさい。それでどうだったんですか?」

「無理だった!」

そう上手くはいかなかったようです。

「じゃあなんでそんなにテンション高いんですか!?」

「実は、ある条件を達成すれば、改正してくれるらしい!」

「ある条件?」

ファム曰く、そのある条件とは、魔王討伐のようです。というのも、布団の上で踊ってはいけない本当の理由は、魔王は『布団の上でダンスするとすごくお腹が痛くなる』という呪いをこの国にかけているらしいのです。国王はそれを防ぐため、布団の上でのダンスを禁じていたらしいのです。

それをファムが知ったら、どうするかは考えずともわかります。

「マルネ!魔王退治だ!」

「えええええええええ!?」


魔王城までの道、踊りながら歩くファムの後ろを、なぜか連れてこられたマルネが追います。

そこでマルネが口を開きました。

「ファム。相手はあの魔王ですよ?僕たちだけで本当に大丈夫なのですか?」

「わかんない!」

質問者を一番不安にさせる回答です。

「わかんないって…魔王を倒す気があるんですか?」

「本気を出せば大丈夫だろ!」

「はあ…」


そこそこ歩いたところで、とある問題が起こりました。

何と、岩が沢山積み上がり、道を塞いでいるのです。それも水平線の向こうまで続いているではないですか。なにがどうなったらこんなことになるのでしょう。

「これは…どうしましょうか…」

「おいおい!こんなもんで俺が止まるとでも思っているのか!」

「え?それはどういう…?」

「こういうことだよ!」

ファムは突然踊りだしました。すると積み重なっていた岩が少しずつ浮かび、細かく砕け散っていきます。

しばらくすると、少なくとも道を通ることは可能になりました。

「いや、どういうことですか!?」

「さあ、先に進むぞ〜!」

面倒なことは無視する。それがファムという男です。


かなり歩いて来たため、マルネはだんだん疲れて来ていました。

「はあ…ファム、そろそろ休憩しませんか?」

普段引きこもっているマルネには、流石に厳しいようです。

流石のファムも、そのことは理解しています。

「そうだな…たしか、そろそろ街が見えるはずだから、そこで休もう!」

「ふう…そうですね」

どうやら2人は、近くにある街、ワハノミを目指すようです。


街についた2人は、まずはご飯を食べるようです。

お店に入り、席につきました。

ファムは料理人のおまかせ、マルネは魚料理を注文しました。

おまかせ料理を頼んだファムはすごい顔になっていましたが、マルネはおいしい魚料理を食べられて満足です。

次に、2人は道具屋に行きました。そこでファムは龍が巻きついたビカビカな剣のキーホルダーを、マルネは炎魔法の瓶を買いました。

「それ…なにに使うんですか?」

「かっこいいからとりあえず買った!」

「全く…」

そうしていると、日が暮れてきたので、2人は宿で休むことにしました。

そして宿屋に入り、別々の部屋で眠りにつきました。


次の日の朝、2人は起きて朝食を食べた後すぐに出発しました。

魔王は魔王城におり、この街からそう遠くはありません。半日ほどで行けるでしょう。


と、いうことで、特に問題もなく魔王城につきました。

「よーし!とうとう魔王を倒す一歩手前まできたな!」

「意外と魔王城って近いところにあるんですね…」

重厚な扉を開き、城内に入りました。正門から堂々と歩いてくる勇者を前に、魔王は何を思うのでしょうか。

「魔王!アムニヤにかけた呪いを解け!」

すると、魔王がトイレからでてきました。

「「え?」」

ファムとマルネは目を丸くします。

「だ、誰だお前たちは!」

「えーと、アムニヤの呪いを解いてほしいのですが…」

魔王は驚きを隠しながら、いいました。

「ふ、ふん!それは無理な話だな!」

「なせだ!」

「お前らはダンスが好きだろう!ならば、いつかはダンスの上で、踊るようなヤツが現れるだろう!そんなヤツは、お腹を痛くさせて踊れなくさせてやるのだ!」

「なんだって…?」

「いや、なぜわざわざそんなことをするのですか?」

待っていましたと言わんばかりに、魔王は寝具を取り出しました。

「それはもちろん!この布団の質を保つためさ!」

どうやら、魔王の持つ伝説の布団は、アムニヤに存在する布団の質の平均に応じて、質が変化するようです。

「えい」

なのでマルネは魔法の瓶を投げつけました。布団は燃え、灰になりました。

「おおおおい!!!」

魔王は当然ながら怒ります。そしてアンデッドの軍団を召喚しました。

「貴様らあ!許さんぞ!」

そこでファムはアクセサリーを手に、奇妙な動きのダンスを始めました。

「え?なになになに?」

魔王もアンデッドも困惑しています。当然ですね。


数分後


数分間踊り続けたファムは体力の限界を迎えていました。そして対する魔王側の戦力も限界を迎えていました。

よくわからない力でよくわからないうちに自分の軍がらやれた魔王は「もういいから…呪いも解除するから、帰ってくれ…」といい、アムニヤの呪いは解かれました。


その後、布団の上で踊る人は別に増えるでもなく減るでもなく。特に変化は起こりませんでした。法律が一つ減ったぐらいです。

ただしファムは、お腹が痛くなることなく布団の上で踊れるようになり、ものすごく満足しました。数日で飽きていましたが。


これが、最強の踊り子伝説の始まりであることは、まだ、誰も知りません。


めでたしめでたし

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踊る物語は理解不能 白黒天九 @tenku859

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