誰かの為に
千
第1話
「アマルドさんおはよう」
「あぁ、おはようフリーナ」
小さな女の子と迷彩柄の服を着た男が朝の挨拶を交わした。
「フリーナちゃんおはようー」
「今日でこの献立も終わりだなー。来週はパンとジャムだってよ」
たくさんの男の人がアマルドとフリーナのいる席につき、今週の献立であるウインナーとチーズにかぶりつく。
「フリーナちゃんウインナーやるよ」
「やったぁありがと」
男達は小さな紅一点にいつも朝食を分けていた。毎朝、フリーナが口いっぱいに朝食を頬張る姿を男達は皆、我が娘のように穏やかな目で見守っていた。
「おい、アマルド。何も食わないのか」
「あぁ。あまり体調がすぐれなくてな」
「お兄さん達、今日はどこ行くの」
フリーナは朝食でリスみたいな頬になりながら、目を光らせて聞いた。
「うーん」
「そうだな〜」
男達が目を見合わせながら、声を唸らせていた。「今日はでっかい原っぱで水鉄砲で遊びながら花に水をやるんだ」
「そうそう、アマルドは水鉄砲で水やりするのが本当うまいんだぞー」
男達はフゥーと胸を撫で下ろしつつ、時計を見て焦ったのか、残りの朝食をかきこんだ。
「フリーナちょっと来い」
「なにー」
アマルドはウインナーとチーズを隠しもち、フリーナを連れて寝床のある部屋に戻った。
「フリーナ、今日から学校だろ」
「うん!だから髪の毛を一つに結んでおしゃれしていくの。」
「そうだな」
フリーナはワクワクした様子だった。
「これを持って行け」
アマルドはさっき食べなかったウインナーとチーズを小包に入れてフリーナに渡した。
「学校にはランチがいるはずだ。行きと帰りの道はこの紙を頼りにしろ」
「もし迷ったらどうするの?」
「…迷彩柄の服を着ている人に名を名乗ってみろ」
━━━カンカンカンカン‼︎
フライパンを何かで叩いた音と、男の人の怒号があたりに響き渡った。
「じゃあなフリーナ」
「またねアマルド」
アマルドはでっかい原っぱへ、フリーナは学校へと向かいだした。
フリーナはアマルドからもらった紙を見ながら学校までの道を歩く。道端には灰色になった雪があり、空はどんよりと厚い雲で覆われている。街は荒んでいてそこら辺にゴミが捨ててあり、人は少ない。街の所々に謎の弾痕や赤黒く変色したところがあり、街には暗がりが広がっているが、フリーナの目は輝きを見せている。フリーナは昔に母に言われた言葉を唱えながら荒んだ街を歩いていた。「私は好きなことをして生きるんだ」
街に少女の陽気な声だけが響いた。
「皆さん。今日からこのクラスに新しい子が来ますよ。さぁ入ってらっしゃい」
フリーナは背筋を伸ばし、先生の隣までコツコツと歩いた。
「皆さんこんにちは。私はフリーナといいます。えぇっとオシャレをするのが好きです。よろしくお願いします」
フリーナはクラスにいる大半の子よりも歳が幼そうだったが、しっかりとした自己紹介をし、クラスの子達はフリーナを拍手で迎えた。
「皆さん。フリーナちゃんはみんなよりも知らないことが多いから、困っていたら手助けしてあげるんですよ」
「はーい」
フリーナは初めての学校に緊張していたが。それ以上に胸に好奇心を募らせていた。
「初めまして!私ダラっていうの。フリーナちゃん。次の授業なんだけど、もうすぐ
クリスマスでしょ。私たちみんなでクリスマスに教会でコーラスのイベントがあって、その練習がこれからあるんだけど、フリーナちゃんはお歌は得意?」
フリーナは新しいものを一つ発見したみたいに目を丸くし、歌は歌ったことがないが大きな声で得意と返し、ダラについていった。
「フリーナちゃん、これが歌詞ね」
クラスのみんながステージに集まり、ベレー帽を身につけていた。
「フリーナもあれ被りたい!」
「私の被ってみる?」
パンパン
先生が手を叩いてみんなに指示を通す。
「皆さん。コーラスはみんなで心を通わせて歌うものです。みんな一緒に楽しく歌いますよ」
先生が指揮棒を振り始め、みんなが心を通わせ始めたのか、ステージが静まり返った。伴奏が終わり、みんなが一斉に息を吸った瞬間、フリーナの大きな声だけが響き渡った。
コーラスの授業が終わり、ダラとフリーナは一緒にクラスに戻っていた。
「ダラ帽子ありがとう!私似合ってた?」
「あ、うん可愛かったよ。…初めてのコーラスはどうだった?」
ダラはどこか気まずそうに聞いた。あの後もフリーナはみんなと心を通わせることなく一人で気持ちよさそうに歌った。もちろんそれでは授業にならないのでフリーナは先生の横でただ見学するだけになった。「全然楽しくなかった!みんなに合わせて歌うよりも、自分の好きに歌った方が楽しくない?」ダラはフリーナのその言葉を聞いて、俯いた。
ランチの時間になった。教室は賑やかになりクラスのみんなは全員、教室の真ん中に円になるように座った。クラスのみんながそれぞれ自分の家から持ってきた食べ物を広げる。ピザやパスタなどを持ってくる人もいれば硬そうなパン一つの子もいる。フリーナもみんなと同じように持ってきたランチを広げる。
クラスの男の子のリカルドはフリーナの広げたランチを二度見した。リカルドはフリーナに近づいた。
「お前、なんで兵士が食う飯持ってんの?」
「兵士?どういうこと?」
フリーナは急に言われたことに対して首を傾げる。
「俺将来兵士になりたいから、いっぱい兵士について知ってるんだぜ。かっこいいだろ?」
「ほへー!兵士って何するの?」
フリーナは初めてのワードに興味津々だった。
「えーっと、なんか敵と戦う…みたいな…?銃とか大砲とか使って……まぁとにかくかっこいいんだ」
「敵?ふーん。あんまり興味ないや」
フリーナは目線をリカルドからウインナーに移す。
リカルドは上手く兵士のかっこよさを伝えられず悔しそうにしている。
「そ、それで、なんで兵士の飯食ってんだよ」
フリーナははっとして答えた。
「あ!じゃあアマルドも兵士なんだ!」
リカルドはフリーナの言葉を聞いて耳を疑った。
「えっ?!お前アマルド知ってんのか?!」
「え、い、一緒に住んでるけど」
「すっすげえええ!」
リカルドは興奮を抑えきれず大きな声を出した。
その後、ランチが終わった後や午後の授業中にもリカルドによるフリーナに対しての質問攻めは止まらなかった。
フリーナは学校を出て、リカルドに手を振った。
「おーい!明日の放課後お前ん家集合なー!」
「いやでーーす」
フリーナは手を振るのをやめ、ぷいっと帰り道の方を向いきアマルドにもらった紙を片手に帰路についた。
家に着いたリカルドはお父さんのいる2階の部屋へと階段を駆け上がった。
「お父さん!!」
「わっリカルド。びっくりしたよ。おかえり」
お父さんの部屋は本棚で埋め尽くされていて、一つの窓があり、そこから夕日が差し込んで部屋がオレンジ色に染まっている。
「今日の夜ご飯はお前の大好きなモッツァレラチーズのサラダだぞ」
温かく優しい笑みがリカルドに話す。
「そんなことより聞いてほしいことがあるんだ!」
お父さんはいつもならリカルドはモッツァレラの”モッ”を聞いただけではしゃぎ始めるのにそんなことよりとは何事だと思った。
「今日新しく学校に入ってきたやつがいて、それで、そいつの親?が兵士なんだ!」
リカルドのお父さんの笑顔は引っ込み真顔になる。
「それでそれで、それがアマルドっていうものすごく強い兵士なんだって!」
「…………やめろ」
「で、俺将来アマルドみたいなかっこいい兵士になりたいんだ!だから明日の放課後にそいつの家に行くんだ!いいでしょ━━」
「やめろっていってるだろう?!」
お父さんは顔をドス黒くし、リカルドを見つめる。リカルドはお父さんのこんな顔を初めてみて、興奮でお父さんの方に詰め寄っていた足が一歩二歩と後ろに下がった。
「兵士にもなるな。その子の家にも行くな。」
「なっなんでよ!」
お父さんはつけていた眼帯を外し、自分の手で指を指す。
「これがなんでこうなったかわかるか?なんでこの街がこんなに荒んでいるのかわかるか?」
リカルドはお父さんの低い声を聞いて息を呑む。
「すべては四年前、あの忌々しい隣国のガスド民族のせいだ。わかったか?わかったなら兵士を目指すのではなく海外移住を目指せ」
リカルドは何も言い返せず、深く俯いた。
フリーナはリカルドのことを思い出しながら歩いていた。
「兵士ってそんなにかっこいいのかな。リカルドによると敵?と戦うみたいだけど…それって何のために?自分のため?お金がいっぱい稼げる仕事なのかな?」
フリーナは深く考え込む。
「もし、兵士が自分のためのお仕事じゃなく、誰かの為に怪我をするお仕事なら、それって━━」
━━━ビュン
北風がフリーナに吹きつけた。
「あっ」
フリーナが持っていた紙切れは風に飛ばされていった。
「どうしよう!一旦学校戻ろうかな?」
フリーナは一瞬そう思ったが、アマルドさんとの朝の話を思い出し、辺りを見渡し迷彩柄の人を探した。この街にはよく迷彩柄の人が走り回ってるのでフリーナはすぐに二人のその男の人を見つけたが、二人は走っていた。
「ちょっとー待ってくださーい!」
フリーナの足はまだ遅く、当然迷彩柄の二人には追いつけなかったが、その二人が大きな建物の中に入っていくのを見て、フリーナもついていった。
ウィーン、ガコンガコン、ピピッ
「いやー上官に言われて焦って戻ってきたけど、何も異常ないじゃないか。探知されてないし」
「このレーダー探知機も古いしな」
フリーナは建物に入った瞬間どこか見覚えのある風景だと思った。
「家ここじゃん!」
フリーナは一安心したが、この場所は来たことがなかったため、ここがどこか聞きに迷彩柄の二人が入っていった部屋に向かった。
「なんか喋ってる」
フリーナは部屋の入り口で立ち止まり、聞き耳を立てた。
「それにしてもアマルドのやつ今日の射撃訓練も一番だったな」
「すげーよな。あいつだけ銃の反動がないみたいだ」
「じゅう……銃?」
フリーナは二人の会話を聞いて耳を疑った。
「訓練ってどういうこと?」
フリーナは入り口をまたいで二人に聞いた。
「嬢ちゃんはまだ知らなくていいんだよ」
二人は瞬時に優しい顔に切り替えていった。
「ふーん。私のお家ここなんだけど部屋まで連れてってくれない?」
「任せなさい」
「おいこの子家がここって言ったよな?ここって軍事基地だろ?どう言うことだ?」
二人はフリーナの手を引きながら薄暗い廊下を歩く。
「あぁー?この子はロディバ前元帥の一人娘だろ?知らないのか」
「えっそうなの!?」
「そうだ。確かアマルドが面倒を見ることになっていたはずだ。……これ以上はこの子の前で話すべきではない」
かちゃ
「おおアマルドいたのか。この子迷ってたぞ」
「フリーナ。ありがとうって。挨拶だ。」
フリーナは下を向いたまま小さな声で挨拶をして、迷彩柄の二人は戻っていった。
「フリーナ。道わからなくなったのか」
「紙が風でとんでっちゃったの」
フリーナの頭はさっきの二人から聞いた話がぐるぐる泳いでいた。
「アマルドさんはほんとは今日どこにいってたの?」
アマルドは少し驚いた様子だったが
「銃の射撃訓練をしていた」
と落ち着いて話した。
「フリーナ。いつの間に大人になったんだな」
アマルドは不器用な笑みを浮かべつつフリーナを見つめる。
「それって何のため?」
アマルドの笑みはひっこみいつもの冷静な顔に切り替わる。
「戦争で国が滅びるのを防ぐため。国のためだ」
淡々と説明するアマルドと裏腹にフリーナの顔は赤くなっていた。
「何で?何でみんなは自分の為に生きないの?自分の好きなことして自分のやりたいことだけたくさんすればいいじゃん‼︎そんなに人の為に人の為にって━━━━━」
「カッコ悪い!!!!」
フリーナは部屋を飛び出て暗闇の街に飛び出した。
「どうして、どうしてなの?」
フリーナは行く当てもなく暗闇に飲まれた荒んだ街を走る。
「だって、お母さんがそう言ってくれたんだもん!お母さんが、お母さんが、、、」
フリーナは立ち止まった。
「…お母さん?そうだ。お母さんのところに行こう」
フリーナは進行方向を変え、また走り出した。
「確かお母さんはよく暗いお城に行ってたって言ってた!」
フリーナは近くにある山にそのお城があるのを知っていたのでそこに向かう。
「はぁはぁ」
"DO NOT ENTER"
フリーナは規制テープを破り走っていった。
「こんな夜に何も起こんねえだろ」
「最近、隣国の領空侵犯が多発してるんだってさ」
「こんなおんぼろい要塞守ったところで…」
「馬鹿、ここは一応この国の重要要塞なんだぞ」
「ん?なんか声聞こえねえ?」
遠くから小さな女の子の声が近づいてくるのが分かる。
「お母さーーーん!!どこー!」
「あ?なんだあのガキ」
フリーナは兵士の人にしがみつき聞いた。
「お母さん知りませんか!」
「ここは女が来るようなとこじゃねえな」
フリーナは少しがっかりした顔をしたがすぐに進行方向を変え、
「ありがとう!」
そう言って走り去っていった。
フリーナは山を下る。
「お母さんがよく行ってたところはここだけじゃない。次は水の上に浮かぶお部屋だ!」
フリーナはそう思いながら山を下るが、小さな女の子の足ではそこまで辿り着ける力はなかった。
「きゃあ!」
━━ドサッ
フリーナは思いっきり転んだ。
「痛い…」
フリーナの足には擦り傷ができていた。
「お母さん…お母さん……」
フリーナは顔を歪ませ、目を赤らめて今にも泣きそうになった。
「おーい、さっきの子ー」
要塞にいた兵士がフリーナの元へ駆け寄って来た。
「ねえ兵隊さん。フリーナのお母さんはどこなの?ねえ知らない?教えてよ!」
兵士は息を呑み、苦しそうにしながらフリーナに聞いた。
「お前、名を名乗ってみろ」
「フリーナ・ロディバ」
「………そうか」
兵士は目を慎重に瞑り、下唇を噛んだ。
「…知ってるの?!」
フリーナはまた、兵隊にしがみつき聞いた。
兵士は口の隙間から息を吐き、次に息を大きく吸いあげ、
「フリーナ。君の親はもうこの世にはいない」
フリーナは荒んだ街の様に目が暗くなり、兵士から手を離した。
「そう…なんだ」
兵士はフリーナを見つめて居た堪れなくなり、フリーナを抱きしめた。
「ごめん。俺たちのせいだ」
ヒューーーー
━━━バンッ
「は?」
ドゴォオォン
フリーナ達のいるあたりが真っ赤に染まる。
「おいおいおい、さっきまであそこにいたんだよなぁ?」
もう一人の兵士が要塞の方向をみるとそこにはえぐれた山肌とドロドロに溶けている同僚達の姿だった。
「おぉ、おい!逃げるぞ!」
「了解だ!」
兵士はフリーナを担ぎ全速力で山を下った。
「っち、あの飛行船街の方に向かってるぞ」
フリーナは兵士に担がれながら赤く染まった空を見つめていた。
「お母さん…いないんだ。私が間違ってたんだ。自分の好きな様に生きてても、それを見てくれるお母さんはもういないんだ。」
フリーナは暗い声でぼそぼそと言葉を吐いた。
「おいおいおいおい。暗くなってる場合じゃねえぞ?!」
三人の真上から爆弾が降り注ぐ。
ドドドゴォン
「キャアーー‼︎」
フリーナは兵士達に身を覆われながら叫ぶ。
「がはぁっ?!」
一人の兵士の右肩が吹き飛んだ。
「お、おい、大丈夫かよ?!」
「ぐぁあああぁああああ?!ぎゃああああぁあ」
「くそったれ!血が止まんねえじゃねえか!!!」
あたりはさらに燃え上がり、焦げた草木の臭いと生臭い鉄の臭いで満ちていた。
フリーナはこの光景を見て言った。
「ね、ねぇ、、、兵隊さん。なんか、この空の色……私見たことある」
「お前何言ってんだ!!もういくぞ!」
兵士は一人の兵士を置いて行き、フリーナを担ぎ安全なところへと走り出した。
- ・ ・-・・ ・-・・ / -- ・ / - ・・・・ ・ / ・・・ ・・ - ・・- ・- - ・・ --- -・
「こちらS-17飛行船。第一攻撃目標クベッツァラ要塞破壊成功。予定通り目標をクベッツァラ軍事国家帝国都市部を攻撃します。」
「おい警報だ!」
━西側上空から敵襲、敵襲━
「おい早く支度しろ!」
「おいアマルド準備できたか?!」
「あぁ」
アマルドはフリーナとの写真と家族との写真の2枚をポケットに入れ、立ち上がった。
「上官からだ。アマルドはここから少し離れたゴガル第一軍事基地の屋上のあの砲台に配置だ!」
「了解」
アマルドはゴガル第一軍事基地までの地下通路を走る。ふと彼の脳裏に浮かんだのは、笑顔でウインナーをほおばるフリーナの姿だった。
「フリーナ……頼む、生きていてくれ。」
アマルドは走りながら懐にあるフリーナとの写真を強く握りしめていた。
━━━二度も大切な人を失ってたまるか
途中、倒れた兵士を見つけるも、彼の目にはもはや生気がない。
「すまない、後で迎えに来る。」そう呟き、アマルドは先を急いだ。
「撃ち方初めえぇーー!!!!!」
ここゴガル第三軍事基地には多くの兵が招集されていた。兵士たちは屋上へ駆り出された。
「な、な、なあ街が……」
兵士が指先を震えさせながら街の方に指を指す。
「落ち着け!今やるべきことをやるぞ!」
「…今……やるべきこと…?そ、そうだ俺には妻と娘がいる!会いに行かなきゃ」
「お、おい!!」
兵士達は屋上にある機銃を操作し、飛行船を迎撃する。
「無理だ…こんな戦力差で」
「少将……弾丸が………届いていません!」
ヒューーーーッ
バコオオォォン
飛行船は上空から爆弾を垂れ流すだけでクベッツァラ要塞とフリーナ達が住むゴガル第三軍事基地を消し飛ばした。
「こちらS-17飛行船。第三目標、ゴガル第三軍事基地破壊完了」
「戦力差がありすぎるな。こちらがリンチしてるみたいではないか」
「四年前のあの戦争からゲペナは復興が進まなかったのだろう」
「このまま余裕で制圧だな」
バコオオォォオン
「うわぁ?!」
妻と娘に会いに走り出した兵士は間一髪で今さっきの大爆撃から逃れた。
「早く、早く行かなきゃ」
ザッザッザッ
「おーい!!リアナーー!ダラーー!どこだーー!」
兵士は街に着いた。赤色の空の下、崩れ落ちた街には爆音が響き渡る。焦げた瓦礫と黒煙の中で、かすかに生き延びた人々が叫び声を上げながら助けを求めている。
「おとーさーーーん!!」
「ダラか!どこだ!」
「ここだよーーー!!」
兵士は娘のところへ駆け寄った。
「ダラ大丈夫か?!」
「ここから出れないの!」
ダラは爆撃で崩れ落ちた建物の下敷きになっていて身動きが取れないでいた。
「今出してやるからな!」
その瞬間、兵士の頭上から飛行船の巨大な影が覆い被さる。
ヒューーーーッ
ドカアアァアアン
「キャーーー!」
━━━「こちらS-18飛行船現地到着。これから17の援護に入る」
「お、お父さん?右腕が、、、」
「ぐっっ…」
兵士は飛行船を見つめ、操縦席にいる敵国の兵士達と目が合った。飛行船の大砲が兵士とダラに標準を合わせる。
「ごめん、ダラ」
兵士が瓦礫の下敷きになっている娘を抱きしめた。その瞬間、空から大爆発した音が聞こえた。
「こちらゴガル第一軍事基地アマルド。S-18撃墜。続けてS-17を迎え撃ちます」
アマルドは装置を制御し、誘導ミサイルを装填する。
「あまり舐めるなよ」
どぅんっ
ドパアァアァァアン
アマルドは続け様に二つの飛行船を撃ち落とした。
「S-17撃墜しました。避難民の援護に回りっ…」
パァン!
アマルドが装置から降り立った瞬間一人の歩兵がアマルドに銃口を向けていた。歩兵の弾丸はアマルドの耳を貫いた。
「避けっ…?!グハッ!」
アマルドは歩兵の胴体に蹴りを入れそのまま歩兵の拳銃を奪い歩兵の脳天を1発で撃ち抜いた。
「もう歩兵も来ているのか」
アマルドは奪った拳銃を携えてフリーナを探しに走り出した。
━━━━はぁっはぁ
「フリーナ、お前はここで隠れてろ」
ドゴォオォン
「次はなんだぁ?!」
二人が見上げると飛行船が撃墜されていた。
「おいおいスゲェな!!」
兵士は興奮した様子でガッツポーズをしている。
「遠くから誰か来てるよ」
「んぁ?」
遠くからは味方十数人と避難民たちが続々と来ていた。
「レルガなのか?!無事なのか!要塞はどうなった!?」
「要塞は1発でやられた。ルピアも俺ん目の前でいっちまった」
「そうか…怪我はない?」
「こいつの足が切れてて…」
兵士はフリーナを見てすぐにアマルドのところの子だと気づいた。
「今手当てしてあげる」
ドパアァアァァアン
「おいもう一機も撃墜したぞ‼︎」
「うぉーー!」
兵士たちや避難民たちが二つの飛行船が撃墜されているのを見て興奮している。
「おい、ここで声出して体力使うな!まだこれからだぞ!」
ある兵士はそう言った。
━━━これから使う体力などないぞ
パァンパンパンパァン
兵士十数人と避難民たちの背後から敵兵が大勢来ていた。
「お前ら!こいつらをやったらすぐに撤退だ!!手短に片付けろ!」
敵上官の指示と共に多くの敵兵士が動き出した。
「クソ歩兵も来てたのか。フリーナすぐそこの小屋に隠れてろ」
「うん」
フリーナが小屋に向かって走り出すと同時にこちらの兵士たちも敵兵達に立ち向かって行った。
「━━ザザッ。アマルド。街から近い北側の丘で大勢兵がやりやってる。そこに迎えるか」
「了解」
フリーナは小屋に駆け込み窓から兵士たちか交戦しているのを見ていた。
「あの人も、あの敵の人にも自分の国があって、それを守るために、戦ってるのかな…」
ドンッカチャ
「お前!!俺の妻を返せ!」
「ぼ、僕だって!四年前のあの戦争で娘を亡くしたんだ!!娘のために戦ってたのに!帰ったら!帰ったら……!」
「うるせえ!喋るな!いいな?!撃つぞ!」
「やっやめてくれ!」
パァン!
「大丈夫か!」
「はっ、はい‼︎」
フリーナが見ている戦いはただの殺し合いではなかった。
━━私思い出した。お母さんもこの真っ赤な空の中、私を抱えて逃げながら私を守ってた。私のために。私もなんかしなきゃ。何かのために!
フリーナは小屋の扉に飛び付き外に出ようとドアを開けた。
「えっ」
「こんばんわお嬢ちゃん。ここで隠れてたのかな?」
ドアの向こうには敵の上官がいた。
バァン!!
フリーナは瞬時にドアを閉め、鍵をかけた。フリーナは小屋に何か道具がないか見渡したが目の前からドアが飛んできた。
「こんなぼろっちい小屋の鍵をかけてもおじさんには意味ないよ」
フリーナは目の前にいる大柄で長い髭の生えた敵上官を前にして震えていたが、地べたに落ちていた藁を握り、目の前の敵上官に何度も投げつけた。
「勇敢だね。いい子だ」
敵上官は藁を投げつけられながらニコリと笑って続けた。
「私にもこんなに小さな女の子を痛めつける趣味はないんだよ。ここを簡易的な基地にしたくてね。君、戦争ってわかるだろ?今のこの戦争はこの国の領土を奪う戦争なんだ」
━━この人、えらい人なんだ。この人を止めていれば、さっきの兵隊さん達のためになるかもしれない。
フリーナはそう思い、藁に加えて小石を敵上官に投げつけた。
「うーん。逃すって言ってるのに。頭の出来が悪い子なのかな?」
敵上官はだんだん苛立ち始めた。
「あんまりしたくないけど、私たちの邪魔をするなら仕方ないか」
敵上官は重々しい大剣を片手で抜いて、フリーナとの間を一瞬で詰める。
「ごめんねぇ」
敵上官が剣を振り下ろそうとした瞬間、窓から
銃声がした。敵上官は銃弾を剣で軽く弾き、間合をとる。
「おおもしかして君がアマルド君か。強いって有名だよ」
「フリーナ、大丈夫か」
アマルドはフリーナの方に目をやったがフリーナは何か覚悟を決めた様子でアマルドと目を合わせ頷いた。
「フリーナ。目を瞑ってろ」
キンッキンキンッ
「さすが耐えるねえ」
アマルドは敵上官の大剣を上手く躱しながら拳を入れる。しかし大剣と拳では身体へのリーチに大きな差があった。
━━━ブンッッ
「アマルド‼︎」
敵上官の大剣がアマルドの右腕を両断する。
しかしアマルドはすかさず振り下ろされた大剣を蹴り飛ばす。
「痛くないのかいッ?!」
「痛い」
アマルドは左拳で敵上官の顔面を殴り飛ばした。
「カハッ」
敵上官は数メートル弾き飛ばされ気絶した。
「アマルド!大丈夫?!」
「あぁ大丈夫だ」
フリーナはアマルドの血が止まらない腕を見て髪をくくっていたリボンを解いた。
「これしけつ?ってやつに使って‼︎」
アマルドはフリーナの咄嗟の行動に思いが込み上げた。
「成長したなフリーナ」
アマルドはフリーナを左腕で抱き締めようとした次の瞬間、
━━━ブンッッ
グシャッッッ
アマルドの左肩に大剣が突き刺さった。
「うぐっっっ?!」
「君だぢば親子なのがいっ?!」
敵上官は最後の力で蹴り飛ばされた大剣のところまで這いつくばって移動していた。
「フ、フリーナ。け、剣を抜いてくれ」
「大丈夫なの?!死んじゃやだ!!」
「大丈夫だから早く!!」
キィイバァン!!
扉が開く音が聞こえ血だらけの兵士が小屋に入ってきた。
「じょ、上官!大丈夫ですかぁ!!よくも上官を!!」
兵士はアマルドに銃口を向けた。フリーナはハッとした。
アマルドは両手が使えず身を壁に擦り付けながら立ちあがろうとしたが、アマルドの前には小さな女の子が立っていた。
「あなたも守りたい人、娘さんの為に戦ってたんでしょ!!」
フリーナはそこにいる兵士が窓から見ていた兵士だと気づき、震えながら続ける。
「私気づいたの!誰かのために、国のために生きる人はかっこいいって!!だから私もアマルドを守るためにあなたと戦う!!」
兵士の腕が震え始める。アマルドは目を赤くしてフリーナに対して叫んだ。
「ダメだフリーナ!お前は誰かの為になんか生きるな!!自分の好きなように生きてくれ!お前のな、亡くなった母の遺言だ!!」
「知ってる!!」
「だ、ダメだフリーナ。お前の母と同じにしたくない…」
兵士は引き金に指をかけた。
「うっ、う、うるさい!!これは戦争だ!そっ、そうだ仕方ないんだ!う、打つぞ!死ぬぞ!良いのか!」
フリーナはアマルドを庇い続ける。
━━パァン
兵士は震えながら引き金を引いた。
銃弾はフリーナの心臓ではなく眼球を貫いた。
「フ、フリーナ??」
フリーナはアマルドの横に倒れた。
四年前の戦争でのことだ。四年前も同じ戦争が起きていた。俺はフリーナの実の父親の弟子だった。
━━━アマルド。お前はよくやった。お前だけで退避しろ。
━━でっ、でも!
━━━早く行け!!お前はこの先も生き続けてこの国の人の命を一つでも多く救うんだ‼︎
━━俺はロディバ元帥の命を救いたいです!
ロディバ元帥と俺と他数名で構成される特別部隊は国の防衛の要とも言われるほどの実力を有していた。けれど敵との数の差には敵わず塹壕に隠れながらも四面楚歌の状態になっていた。
俺はロディバ元帥を見捨てた。ロディバ元帥は俺を庇って倒れた。なのに俺は見捨てた。
━━━アマルド。一つだけ頼みがある。俺の娘のフリーナだ。あいつを立派な人間に育ててくれ。幹部たちには伝えてある。
━━元帥!!まだ二人で逃げれます!!!!!
━━━最後だアマルド。笑って生きろよ。
━━そんな…!元帥が生きてください!!
━━━皆の者!ここを爆破させる!覚悟はいいか?!国に命を捧げるのだ!!!
その後ロディバ元帥は躊躇なく自分もろとも一帯を手榴弾複数個で爆破させた。俺はその爆破で敵が動揺している間になんとか逃げ切った。
アマルドの頭に響く。
━━━笑って生きろよ
「ぎみぃちゃぁんとねらいをざだめなぎゃ」
兵士はフリーナを打った後、アマルドに銃口を向けたが敵上官は、拳銃を握っている兵士の手に自らの手を被せ、フリーナに銃口を向け直させた。
「━━━━クソったれええぇえ!!!!」
アマルドは大剣を引きずりながら走りだす。
「アマルドぐんっ!片手でば振りおろぜないぞ?!がははは!」
アマルドはズタズタになった右肩に構わず右手だけの片手で大剣を振り上げ、一気に振り下ろした。敵上官と兵士の首はまとめて吹き飛んだ。
あれから5日が経ち、静かなクリスマスがきた。アマルドは病院の病室でベットの横の椅子に、左腕にはフリーナのリボンを右腕には義手をつけて座っていた。今回の戦いは四年前の戦いに続き、第二次ゲペナ急襲と名付けられた。一夜で223人が亡くなったが、四年前の同じ一夜の戦いで亡くなった数の半分以下だった。敵国は飛行船を撃ち落とされ、上官を倒され、戦力が想定以上に削られたらしい。アマルドは最後の一振りで右腕もダメになり、この戦いで両腕を失うことになったが彼の首には名誉勲章がかかっている。フリーナは2日前に片目のみで目が覚め、病室から見える焼け野原になった街を見ている。
「アマルド━━この前カッコ悪いって言ってごめんなさい」
アマルドはフリーナを見つめた。
「間違ってないよ。フリーナ。俺はカッコ悪い。必死に人を痛めつけるための訓練をしてきたからな」
フリーナもアマルドを見つめる。
「人に飲まれず、堂々と、笑って生きてくれ。フリーナ」
あれからまた2日が経ち、退院当日になった。
「フリーナ、学校が明日から再開するそうだが、手紙には午後から発表会で街の広場が会場とあるし、さっき廊下からフリーナが歌う声が聞こえたが、何かあるのか?」
「ふっふー来てからのお楽しみだね」
フリーナはさっき見ていた、ずっとポケットに入っていたコーラスの歌詞カードをアマルドに見えないように隠した。
数時間後アマルドとフリーナは病室を出た。この病院には戦争で負傷した人がたくさんいた。
━━俺は…戦士になる
一人病室でそう呟いている少年もいた。
フリーナは翌日、学校でコーラスの発表会の準備をしていた。クラスの子達は以前は23人いたが、今は9人になっていた。みんなの顔は深く沈んでいた。
「皆さん。今こそみんなの歌声をこの街に響かせる時です。この後の本番はみんなでもう一度一緒に楽しく歌いますよ」
そうは言ったが先生は、暗く沈んだ子供たちのことが心配でならなかった。
その子供達の中で一際、ダラが暗い顔をしていた。
「ダラ。元気出して。一緒に楽しく歌おう?」
フリーナはしゃがんでいるダラに声をかける。
「もういいよ。お母さんもお父さんももう戻ってこないんだから。それにフリーナはコーラス好きじゃないでしょ。みんな歌わないからフリーナだけで歌いなよ」
ダラはフリーナにそう言った。
子供達は、暗い顔のまま発表会の衣装を着て準備を終え、街の広場へ向かった。
教会は先の戦争で燃え落ちたが、ステージの一部分だけ残っていたのでそれが広場に用意されていた。アマルドは広場に着き、ステージの前に用意されたパイプ椅子に座った。周りに座っている保護者の人は多くはなかった。フリーナを含むクラスの子達がぞろぞろとステージに乗る。
━━やっぱり中止にした方が良かったのかしら…
先生はそう思いながら指揮棒を振り始める。
━━Ombra mai fù (かつて無かった
di vegetabile 樹木の影で
cara ed amabile かくも慕わしく
愛らしく
soave più. 快いものは)
フリーナの美しく、繊細な歌声が響いた。ダラは驚きながらフリーナの横で小声で歌いはじめた。
Ombra mai fu ━━━
フリーナはダラの小さな声を聞いてダラの歌に合わせながら歌い始めた。
di vegetabile
ダラはあのフリーナが自分に合わせて歌を歌っていて驚いている。フリーナはみんなと呼吸を合わせつつも、楽しそうにのびのびと歌っている。
ダラの歌声は少しづつ大きくなる。クラスみんなの声が少しづつ重なってゆく。重く暗かった雰囲気が柔らかく希望に満ちていった。
cara ed amabile
soave più.
パチパチパチ━━━。
「ダラ。コーラスって楽しいね‼︎」
「うん。そうだね」
いつ間にか兵隊達や保護者の人数も増え、
街のクリスマスが少し賑やかになった。
誰かの為に 千 @6121
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