事実は小説より鬼なり
九戸政景@
本文
「犯人は……あなただ!」
とある一件の洋館。そのホールで探偵の男性が一人の男性を指差しながら言うと、男性は諦めきった様子でその場に膝をついた。
「くそ……くそ、くそぉ!」
男性が床を両手で叩きながら心からの慟哭を口にし、駆けつけていた警部が探偵の男性に称賛の言葉を口にする中、探偵の男性は犯人の男性に声をかけた。
「アンタ、犯罪作家という奴からトリックを提供されてないか?」
「犯罪作家……ああ、そうだよ。アイツを殺してやりたいと思った時に声をかけてきて、よさそうなトリックがあるからそれで殺してみないかって言われたんだよ……!」
「やっぱりか……」
探偵の男性が悔しそうな顔をする中で犯人の男性は連行されていき、警部は探偵の男性に声をかけた。
「また奴のようだね……まったく、どこのどいつなんだか」
「私でもその足取りは掴めていません。ですが、いずれはその正体を解き明かしてみせますよ」
「うむ、頼りにしているよ。では私達はこれで。あ、それと……」
「ええ、今度のお休みは楽しみにしていますよ。もちろん、夜も」
「……ああ、私もだよ」
警部が顔を軽く赤らめながら他の刑事達と去っていく中、探偵の男性もまた帰路に着いた。そしてそれから数時間後、とある一軒家の地下室には探偵の男性とメガネをかけた男性の姿があった。
「なあ」
「は、はい……」
「今回のトリックは結構単純じゃなかったか? あまりにも簡単すぎてアクビが出そうだったぞ」
「し、仕方ないじゃないですか……今回は僕が考えないといけなかったわけで――」
「言い訳をするな」
探偵の男性は拳でメガネの男性の頬を殴り、メガネの男性はその痛みと苦しみでうずくまった。
「あ、があっ……」
「新人で全然売れなかったお前を見つけてトリックを提供して有名な推理作家にしてやったのは俺だぞ? そしてお前は世間を賑わす犯罪作家という裏の顔もある。それなのに文句を言うつもりか?」
「そ、それは……」
「俺の中にある殺しへの欲求を満たしたいが実際に手を下したら俺が捕まってしまうし一々面倒だ。だが、俺が見つけてきた誰かを殺したい奴に仮面とボイスチェンジャーで正体を隠したお前が犯罪作家という姿でトリックを提供してその姿を見て俺は満足しながらしっかりと探偵として謎を解き明かす。そこに何の不満がある?」
「お、鬼だ……あなたは……!」
「よく言うじゃないか。事実は小説より奇なり、とな。まあ事実は小説より鬼畜という意味では事実は小説より鬼なりと言えるだろうなあ」
探偵の男性が高笑いを浮かべる。その声は地下室に響き渡り、作家の男性はその声を聞きながらただ項垂れるしかなかった。
事実は小説より鬼なり 九戸政景@ @2012712
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