闇よりの文通者
ファラドゥンガ
闇よりの文通者
親愛なる、マサキ君へ
お久しぶり。何やら困っている様子だったので、手紙を書いた。
そちらの世界にもあるかどうか分からないけど、こちらの世界には「天下無双」って雑誌がある。あらゆる勝負事を取材した、総合エンタメ雑誌だ。その中の特集で、「先手必勝!マル秘呪術!」というのがあった。マサキ君は、同じクラスのタカシ君にカツアゲされて悔しかったんだね?何かの参考になればと思って、君にこの記事の内容を送る。
転送方法はこの手紙と同じだ。夜中の二時頃に「布団」を被って、懐中電灯の明かりを真っ白なノートに照らして祈るだけ。そうすれば私が念写した記事の内容が、そのノートに浮かび上がる。
良い報告を期待しているよ。
それでは、また。
魔界公爵・デボンデボン
* * *
魔界公爵・デボンデボン様へ
僕の些末な願い事を聞いてくれて、本当にありがとうございます。
コウタローの時と同じく、タカシに対しても助力をくださるなんて、デボンデボン様は本当に心の寛大な方です。
さて、デボンデボン様が送ってくださった「天下無双」の記事ですが、はっきりと申し上げて、効果バツグンでした!
「呪いの対象者を中心にぐるりと三周した後で『マカラバナナバカナ』と唱える」
読んだ時は困惑しました。
こんなことで、 何が変わるというのでしょうか……と。
しかし、恥を忍んで(タカシの注意を引くためにパンツ一丁になりました)、勇気を出して三周して唱えてみると、タカシの奴、目を見開いてガクガクと震えだしたのです!
そして、その場で固まったまま動かなくなってしまいました!
呼吸も脈もありましたが、どうも眠っているような状態です。
結局、その日の夜からタカシは緊急入院しています。
一つだけ質問があるのですが、コウタローの時はだいたい三日後に呪いが解けましたが、タカシはどのくらいの期間、呪われているのでしょう?
カツアゲされた身としてこんなことを言うのもなんですが、貴重な中学校生活を奪っていると思うと、どうも寝つきが悪くて……。
それでは、お返事待ってます!
* * *
親愛なるマサキ君へ
お手紙、ありがとうございます。
今は亡きデボンデボン公爵に代わり、お礼申し上げます。
タカシ君への呪詛、効果テキメンとのことで嬉しく思います。
その呪いはあまり強くありませんが、代わりに持続力があります。対象者は短くても一週間、呪われ続けるか思います。
しかし、気になる点がひとつ。「天下無双」の11ページ目を読んだのであれば気が付かれたことと思いますが、「マカラバナナバカナ」の呪いは、対象者の意識を昏倒させることではありません。
そのページに書かれている通り、その呪いの効果は「夕闇迫る帰り道などで2メートルほどのバナナの幻影に追い回され、捕まった場合にバナナ・ベルトをプレゼントされる」というものです。
呪われし者は、翌日からバナナ・ベルトを着用することになり、「これ、良いだろ?」とクラス中に見せびらかしてしまうのです。
しかし、バナナ同様そのベルトも幻影であるため、「こいつ何言ってんの?」とクラス中から失笑を買い、クラス・カーストの順位をかなり下げると期待される呪いです。
しかし、タカシ君の反応はかなり特異なものです。ひょっとしたらバナナの幻影に恐怖し、自我が崩壊したのかもしれませんが……。
お手数をかけしますが、明日の夜までにタカシ君の様子を知らせていただけるとありがたい。
原因が分かれば、また連絡します。
それでは、良い悪夢を。
魔界僧正 ジューラ
* * *
魔界僧正 ジューラ様へ
連絡が遅れて申し訳ありません!
これには、のっぴきならない理由があるのです!
タカシの状態を把握したいとのことだったので、病院に向かったのですが、そこにあの畜生コウタローが現れました!
「タカシは……相変わらず寝てるぜ」
奴は僕にそう言うと、怪訝な目で僕を睨むのです。僕と魔界との繋がりに感づいているかのように!
「タカシがあんなふうになったのさ、アイツの前でお前が変なダンスを踊ってからだよな?」
最後にそう言い残して、奴は去って行きました。
ちなみに僕は変なダンスなんか一切踊っておりません!
デボンデボン様から送っていただいた記事を頼りに、必死にタカシの周りを三周しただけなんです!
(パンツ一丁になり、多少は身体を揺らしましたが!)
思えばコウタローのやつ、一ヶ月前にデボンデボン様から教えて頂いた呪いの言葉『イサク・イオニ・ノキワ』によって三日間、体臭ヤバ
僕は疑心暗鬼になり、数日間、何も知らないフリに徹しました。そのためにご報告が遅れてしまったわけです。
コウタローは危険な男です!
僧正様!是非とも、彼を闇に葬るための算段をお聞かせください!
僕は一生懸命に、そのとおりに致します!
そして
魔界の友・山田野マサキ
* * *
親愛なるマサキ殿
はじめまして。予は魔界の王・ハクアと申す者。
世事に聡いそなたならば気付かれたことと思うが、ジューラは死んだ。
実は、魔界は現在、戦争のただ中にある。
勇者を筆頭に、光の民たちが武器をとり、魔界城に攻めてきたのだ。
西の砦を守っていたデボンデボンがやられ、結界を張っていたジューラも亡き今、この世界を守るのは予をおいて他にはおらぬ。
そして、そんな予もまた、儚く散ろうとしている。
魔界城に向けて、昼夜を問わず光の波動が飛んできておるのだ。
城はガタガタである。
この手紙を書いている今も、城壁が崩れ、部下の数人が下敷きになってしまった。
もうじき予の部屋に、勇者一行がなだれ込んでくるだろう。
そんなわけで時間は無いが、魔界の友たるそなたの悩みを、できるだけ聞いてやりたい。
先ず、 ジューラも気にしていたタカシの状態であるが、その様子を見るにタカシは「待ち」の姿勢に入っているのかもしれん。
そなたは「マカラバナナバカナ」と唱える前に、パンツ一丁で妙なダンスをしたらしいが、ひょっとしたらそれは何か特別な呪術なのかもしれん。
そして、そなたを困らせているコウタローのことであるが……。
そいつは、そなたの
人生の中で、そういう関係を持てる者と出会える機会はあまりない。
予から贈る言葉は、
「コウタローから目を離すな」
これだけに留めておこう。
……そして、とうとう予の前にも「我が運命」がやって来た。
それでは、さらばだ。
魔王・ハクア
* * *
「……なあ、タカシ」
「ナンダヨ」
「いや、もうすぐ叶うんだなぁ……と思ってさ」
「何ヲ?」
「世界征服」
「ホントニ?」
「……そうだよ。『天下無双』を読み込んでから、それが僕の悲願だ」
魔王・ハクアの最後の手紙の後、僕はタカシに術をかけていることに気が付いた。
タカシは何でも言うことを聞いた。
しかし、みみっちいイタズラをさせる気はなかった。
タカシには、「なんでも相談できる右腕になれ」と命じた。
以後、僕らは目標達成のために修行をし、雑誌で魔術を学び、世界中の国を次々と制圧した。
特にタカシの活躍はめざましく、最高幹部として欠かせない存在になった。
この世界を統べるという目標まで、あと一歩。
デボンデボン公爵、ジューラ僧正、そして魔王ハクアの果たせなかったことを、僕はこの現代でやり遂げてみせる。そう心に誓ったのだ。
それは辛くて険しい道だ。
が、僕の心を救ってくれた三人の文通友達のためにも、諦めちゃダメなんだ……。
「マサキ……オマエノ望ミ、世界征服、ホントウニ?」
「……」
「オマエ、アイツト闘ウトキ、輝イテイル」
「うるさいなっ!そんなわけあるか!」
勇者と名乗る者は星の数ほど現れた。
その
一人だけ、何度も立ち上がり、挑戦してくる奴がいる。そいつは――。
「……オイ、マサキ」
「なんだよ今度は!」
「キタゼ、オマチカネノ「トリの降臨」……」
「今日こそ決着をつけよう。そしていい加減、タカシを解放してやれよ。パンツ野郎」
「ふん、相変わらず口が汚いな、コウタロー」
「「行くぞ!」」
僕らは同時に叫んで、ぶつかり合った。
衝撃波が、肌をビリビリと伝わる。
ちょっとでも油断すれば命を落としかねない、「我が運命」、コウタロー。
ハクア様の言いたかったこと、今なら身に沁みてよく分かる。
これほど幸せなことはない。
闇よりの文通者 ファラドゥンガ @faraDunga4
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
夏の夕暮れ/ゆ〜
★119 エッセイ・ノンフィクション 完結済 2話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます