黄金の梯子と天空の工匠

まさか からだ

第1話 崩れゆく空の島

 黄金の梯子が、軋む音を立てていた。

 空に浮かぶ島々をつなぐその橋は、長年の修復にもかかわらず、深いひび割れを見せている。


 大地に降りた山羊座の工匠たちは、天空の安定を支える存在だった。彼らが紡ぎ続ける金の糸が、空と大地を繋ぎ、人々に繁栄をもたらしている。だが、その役割を担う者は年々減り、技術は失われつつあった。


 島の片隅に佇む工房。

 かつては多くの弟子たちで賑わっていたが、今は静寂が満ちている。青年は錆びついた工具を握りしめながら、床に散らばる金屑を見つめていた。


 「師匠……」


 彼の胸に去来するのは、まだ鮮明な師匠の最期の言葉だった。


 「黄金の梯子は、人の想いを紡ぐ橋だ。技術だけではなく、その想いがなければ決して架け続けることはできない。」


 師匠は、梯子の修復を続けながらも、その限界を悟っていたのだろう。

 それでも、彼は最後まで諦めず、青年に技を託した。




 そして今、その師匠はもういない。


 島の上空では、風が不吉に渦巻いていた。遠くの島々を繋いでいた黄金の梯子は、ところどころで輝きを失い、まるで空に溶け込むように消えかかっている。


 崩れゆく空の島。


 青年は静かに立ち上がった。震える手で、古びた設計図を広げる。そこには、師匠と共に描き続けた修復の夢が刻まれていた。


 「俺が……やるしかない。」


 覚悟を決めたその瞬間、青年の背中に風が吹いた。空の島を支える者として、師匠の遺志を継ぎ、黄金の梯子を繋ぐ旅が始まる。


 ――崩れゆく世界を前に、青年の使命が今、動き出す。

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