好きな人の好きな人

時岡継美

ありがとう またね

 西校舎の階段。3階と4階の間の踊り場に、いつものように宮本は立っていた。


 窓の外を眺める横顔に夕日が当たって、髪がきらきら光っている。

 彼のこの姿も今日で見納めだろう。

 だってわたしたちは、明日卒業式を迎えるのだから。

 

「やっぱりここにいた」

 おどけた声色で言って、宮本の隣に並ぶ。

「うん」

 宮本は視線を動かさないまま短く返事をした。


 ちょうどこの位置から、学校の中庭の一角がよく見える。

 宮本の視線の先には、ベンチに座る遥香の姿。

 そして遥香の隣には彼氏がいて、楽しそうに笑っている。


 わたしは遥香の親友として、彼女の恋を一番近い位置で応援してきた。

 だからこそ、そんな遥香を熱く見つめ続ける宮本の視線にも気づいたのだ。


 遥香を見つめながら微笑む顔、ハラハラ心配そうにしている顔、切なそうに顔を背ける様子。

 わたしは宮本のそんな姿をずっと見てきた。


「一度ぐらい告白してもよかったんじゃないの?」

「あいつら、いつまでたっても別れねぇんだもん」


 遥香と彼氏はラブラブだ。たしかに別れそうな気配がまったくない。


「情けないよな。このまま、さよならなんてさ」

「そんなことないよ。一途にずっと想い続けるって、すごいことだと思うよ」


 わたしだって、あなたが遥香にフラれるのを待っていたんだから――そう言ったら、こいつはどんな顔をするだろうか。この野暮天め。


「そういうおまえこそ、好きなヤツいないのかよ」

「いるよ」

 

 宮本の目が、はじめて真っすぐにわたしをとらえた。


「誰?」

「教えるわけないじゃん」


「もう卒業なんだから、教えろよな」

 

 ふふっと笑って背中を向けると、リノリウムの床がキュッと音を立てた。

 階段を数段下りて振り返る。

 宮本は不思議そうな顔でわたしを見ていた。

 

「また明日ね。大好きっ!」


 豆鉄砲でも食らったかのような顔で固まる宮本を置いて、わたしは逃げるように階段を駆け下りた。



 新たな門出に、新たな恋の物語がはじまったとわたしが気づくのは、もう少し先のこと――。

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好きな人の好きな人 時岡継美 @tokitsugu

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