やるき
陰陽由実
やるき
私は常々、いや少なくとも時たま思うのだ。
ダンスを踊りたいと。
j-popやボカロのような、若者向けのノリノリでイケイケで楽しい気分になるような音に合わせて、好きなように、決められた手順通りに体を動かしてみたいのだ。
誰かに振り付けを考えてもらったものでもいい。自分で考えたものでも、どこかの動画で見たものを真似てもいい。
とにかく踊りたかった。
思えば私はダンスの経験はあまりないものの、踊ることは周りよりは上手かったようだ。
真似ることが上手かったと言うのかもしれない。
運動会やら授業やらでしかダンスをする機会はなかったが、その中で私と同じ未経験者と比べて「うまい」とよく言われてもてはやされたことが楽しさに繋がったのかもしれない。
もちろん経験者だらけの中へ放り込まれれば明らかに破綻したものしか踊れないだろう。
それでも授業の中では天下無双と言わんばかりに周りに振り付けを教えていた記憶がある。
だからそうだな、ほんの趣味程度に、自分で曲を選んで、ネットで見つけた振り付けを覚えて、使用許可やらなんやら面倒なこともして、動画を撮影して動画投稿サイトにでも上げられたら最高だ。
再生回数など気にしない。スポーツをしなくなって鈍った体では大した持久力もなく、きっと1回、いや制作途中で飽きてしまう。
その程度でいいのだ。
とはいえ完璧主義的傾向のある私のことだ、ひとつを完全させるまでしっかりじっくり作っていくだろう。勢いだけで動けているならばいいが、それがなくなってはおしまいだ。
楽しければいい。私がやるのは単なる趣味だ。やれたらいいのだ。
……しかし現実は残酷なものである。
私はやる気だけを胸に燃やしながら、やりたいとばかり思いながら、実際は布団の中で指先だけを忙しなく動かしながらこうしてスマホを眺めている。
ダンスが十分にできるようなスペースは自宅にはなく、動画を撮影する道具も私が思い描くものを所持しておらず、そもそも撮影するならば背景を気にしなければならない。
ただそれだけでいいと言っておきながら、理想が高すぎるのだ。
だからこうして布団から出られずに、まともに体を動かすこともせず、ただ時間と興味とやる気を自分から無駄に削り取っている。
やるき 陰陽由実 @tukisizukusakura
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます