第14話

【アイ視点】



 ユリの元気そうな声が聞けて胸をなでおろす。


 万が一。


 ユリの親がユリの携帯端末を使って電話してきたのでは?


 そんな恐怖を押し殺しながらの電話だった。


 まぁ、あの感じだと。


 どうやら、ボクの本心に気付いてはいないようでなによりだ。


 なにせ、前代未聞の魔法を手にしている可能性がある以上。


 どんな代償を払わされるのか分かったもんじゃない。


 そして、おそらくだが、各地にある図書館にも似たような上級のスクロールがあるのだろう。


 その一部を誰かが何らかの間違いで手にしてしまい秘匿するようになった。


 そう考えた方がしっくりくるのだ。


 だからボクは、ボクが出来る範囲でユリを守っていかなければならない。


 それが例え――


 報われない愛の形だったとしても。






【ユリ視点】



 今日も、携帯端末のモーニングコールで目を覚ました。


 うわ、ねっむい……


 だるさなんて昨日以上だ……


 でも答えは分かっている!


 そう、胃袋を満たせば全て解決すること間違いなし!


 お父さん特製のカレーは文句なしに美味しい。


 しかも昨日おねだりした後。


 すぐに準備してたから期待度はマックス。


 お腹も、ぐーぐー鳴って、早く満たせと言ってるし。


「ふわ~~~」


 眠さとダルさを引き連れながら階段を下りようとすると!


 スパイシーな香りが私の鼻孔に直撃。


 私の中の暴食魔人が起き上がる。


 早く食べろととどろき叫ぶ!


 リビングに入るなり。


 おはようの代わりに、


「お父さん。お腹空いた~」


 と言うと。


 神々しい黄金のカレーが山盛りで私を待っていた。


 これはもう食する他あるまい!


 食べる前から分かってたけど。


「やっぱり、お父さんのカレーは正義だわ~」


「そうかなぁ。でもユリにそう言ってもらうと、なんだか自信がわいてくる気がするよ」


「うんうん。自信もてもて! このもて男め! 今なら世界が取れるじぇい!」


 私が、サムズアップを決めながらお皿を差し出すと。


 何杯でも来いといった感じで、おかわりを用意してくれるお父さん。


 わんこそばではなく、わんこカレーみたいな連携で私は五杯の大盛りカレーをたいらげた。


 その結果……


 登校時間ギリギリになってしまい。


 今日も、髪は好き勝手な方向にはねまくっていた。





 今日のランチも鬼畜と一緒。


 私が、何を注文したかは説明の必要が無いと思うが。


 一応、鬼畜が何を注文したのかだけは記しておこう。


 本日は、ステーキ丼だった。


 どちくしょうめ!





 放課後になると私は、トウヤちゃんの元へ一直線。


 今日もおさわり……


 ではなく治療をするためだ!


 おなじみとなった工程をへて――私は、トウヤちゃんの治療をしはじめる。


 もちろん頭のてっぺんからつま先まで丁寧に。


 トウヤちゃんから聞いた話だと、今日は昨日よりも食べられたそうだ。


 このまま順調にいけば、点滴頼りの生活からおさらばできるかもしれない。


 そう思うだけで、ワクワクで胸がいっぱいだった。







【ナナミ視点】



 今日のトウヤさんの状態をナースステーションで確認すると――


 昨日よりも食べられる量が増えていた。


 夜勤担当の看護師からは、


「やっぱり。本人の生きようとする力って必要なんですね」


 なんて言われてしまった。


「えぇ。私もそう思わされているところですわ」


 完全に公私混同してしまっているが、私は医院長の娘と言う立場を悪い形で使っている。


 それを自覚しているのは私だけではなく。


 トウヤさんの担当をしてくれている看護師の皆さんが知っている。


 お父様に口添えし、ほんの気持ちばかりなれど給金に色を付けさせてもらっているからだ。


 だからこうして、日々の経過報告もしてくれる。


 実に頼もしい人達だ。


 ノックをしてからトウヤさんの病室に入ると、


「う~~~~~~っ!」


 ここ最近で聞きなれた、小さなうめき声が聞こえてくる。


 だから私は、トウヤさんように用意したハンカチをスカートのポケットから出しながら様子をうかがう。


「こんばんわ。トウヤさん」


「はぁ、はぁ、はぁ、こ、ん、はぁ。ば、ん、わ。はぁ、はぁ、な、な、み、ちゃはぁ、ん」


 額に浮かんだ汗をハンカチで、そっと拭い去る。


「今日も、頑張ってらしたのですね。おかげんはいかがですか?」


 トウヤさんは息を荒くしながらも、


「て、手を、にぎって、くれる、かな?」


 今の状況確認をしたいとおっしゃってくださいました。


「はい。握りましたよ」


 そう言って、トウヤさんが見やすいように高さを調整する。


「じゃ、じゃあ、いくねっ」


「はい。どうぞ」


 ――すると!


 右手が二回。


 左手が三回ピクピクと動きました。


 嬉しい反面で、冷たい物が背筋を凍らせます。


 でも、表情には出さないように言葉を並べます。


「凄いですわ! トウヤさん! 昨日よりも動く回数が増えてます!」


「そのうち。ナナミちゃんの手をにぎり返すこともできるようになるかな?」


「えぇ。きっと。先ずは、それを目標に頑張りましょう!」


「えへへ。ありがとう。ナナミちゃん」


「それでは、また明日」


 そう言って、話を切り上げた私は――


 夜の街を歩きながら今後の事についてどう対処すべきか思考を巡らせていた。


 明らかに、回復の速度が上がっている。


 それも余命宣告までされそうになった患者の回復速度がだ!


 もう、確定してもいいかもしれない。


 ユリさんは、トウヤさんの身体すら治療してしまう可能性を秘めた魔法を手にしてしまっているのだと――

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