第11話

【ユリ視点】



 携帯端末の目覚まし機能により朝をむかえるのは、ずいぶん久しぶりな気がする。


 って、いうか……


「ふわ~~~」


 まだ眠い。


 きっちり八時間は寝てるんだからじゅうぶんな気がするのに?


 アイちゃんみたいに部活とかやってるわけでもないのに……


 眠いし、だるい!


 昨日なんてアイちゃんと一緒に登校してるから普段よりも早起きだったのに……


 こんなにも眠気を感じたこともなかった。


 許される事ならこのまま二度寝をしたいところだけど。


 それは、許されない!


 なぜなら、ものすっごくお腹がすいてるから!


 なんというか。


 朝から、豚カツ定食を山盛りで食べたい気分なのだ!


 いったいいつから私は食欲魔人になったのだろうか?


 あの、鬼畜黒髪ショートボブのせいだろうか?


 昨日の夜ごはんもいっぱい食べちゃったし。


 それなのに……


 お腹は、ぐーぐー言って早く何か胃袋に入れろと訴えてくる!


 だから私は、着替えることもせず。


 パジャマ姿のままでリビングに行って、ご飯をねだる。


「お父さん。ラーメンと餃子とチャーハン大盛りでお願い!」


「おはようユリ。朝から、ずいぶんと威勢のいい注文だけど……時間的に餃子は無理かな」


 そうだよね、餃子は冷凍のものじゃなくて手作りが基本だもんね。


 って、ゆーか。


 ラーメンと、チャーハン大盛りは出せるんだ!


 さすが、お父さん。


 無駄に、ピンク色のエプロンを恥ずかしげもなく身に着けているだけのことはある。


 それと、おまけで今朝は、いつもの二割増しでカッコいいことにしてあげよう。


 ちなみに、お母さんは、すでに出勤しているからもう居ない。


 今頃は、家族を養うため電車に揺られているころだ。


 いつか私も、トウヤちゃんのために働く日がくるのかな?


 そうなった時のために、お母さんからは色々と教わらなくっちゃいけないことがありそうだ。


 でも、今は――


 それよりも、食欲を満たしたいし!


 お昼のことを考えると、夜ごはんの予約もしておきたい!


「じゃぁ、餃子は夜でも良いから! 量を多めでお願い!」


「あっ、ははは。分かったよ。何人前でも良いから言ってくれ。お父さん一生懸命作っておくから」


「ホントに! じゃあ、五人前でよろしく!」


「了解だ! それじゃあ、ラーメンとチャーハン作っておくから着替えておいで」


「は~い!」



* 



 ホントにラーメンとチャーハンの大盛りが出てきた!


 それを、がつがつとたいらげる私。


 まるで胃袋が異次元にでもつながってるみたいに食べれちゃうのだ!


 今までは、食べ過ぎると動けなくなるから朝はひかえめだったはずなのに……


 出された分を、ペロッとたいらげてもまだ胃袋には余裕があるみたいだった。


 そして――


 お昼休み。


 今日の鬼畜黒髪ショートボブは、焼肉定食を注文してくれちゃった。


 私の胃袋は、素うどんなんかじゃ全く満たされないというのに……


 実に美味しそうに食べちゃってくれてる鬼畜。


 それを、見ているしかない私。


 でも、これもトウヤちゃんのためだと思えば我慢できる!


 そう!


 全ては、トウヤちゃんのためなんだから!





 放課後――


 私の胃袋は餃子を欲していた。


 でも、それ以上にやらなければならないことがある!


 トウヤちゃんの身体にベタベタおさわりすることだ!


 場合によってはセンシティブな所も触っちゃうかもしれないけど……


 ごくり。


 これは、治療。


 誰がなんと言おうと治療行為のいっかんなのだ!


 いつも通り、カワムラ病院に向かい。


 エレベーターに乗って十階のボタンを押す。


 エレベーターは、途中で止まることもなく十階で止まり。


 おりてすぐの所にあるナースステーションでトウヤちゃんのお見舞いに来たことを伝え――1005号室のドアをノックしてから部屋に入る。


 そして、薄いカーテン越しに、いつも通りの言葉を並べる。


「こんにちわ。トウヤちゃん。そっちに行ってもいいかな?」


「うん。いいよ」


 なんだろう?


 相変わらず、声量は小さいけど。


 なんとなく生き生きとしてるような声色だった。


 いつも通り窓側に移動すると!


 トウヤちゃんの顔がいつもより血色が良くなってる気がした。


 色んなお薬のせいで白髪になり。


 ずっと病院のベッドの上だったから肌も病的に白くて。


 食事も満足に食べれないから、すっごくやせ細っていて。


 まるで、今にも消えちゃいそうだったトウヤちゃんの顔が私を見て。


 いつも以上の笑みを浮かべてくれていた。


「どうしたのトウヤちゃん? なんだか機嫌良かったりする?」


「うん。実は今日。いつもよりもごはん食べれたんだ」


「ホントに!?」


「あははは。ユリちゃんには、ウソつかないよ」


 もしかして、もしかすると、覚えたての魔法が効果を出してくれてるのかもしれない!


 そう思うと、言わずにはいられなかった。


「じゃ、じゃあ! 今日も手当しても良いかな?」


「もちろんだよ」


「え、えと、それでね今日から出来るだけ全身を手当してみたいんだけど、いいかな?」


「うふふ。そうすることでユリちゃんが満足出来るならいいよ」  


 やったよ!


 ありがとう神様!


 私、トウヤちゃんの身体をなでまくる権利を得られました! 

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