夢であえたら

@d1098

第1話

夜が深まり、静寂が部屋を包む頃、俺はいつものようにベッドに横たわっていた。目を閉じると、暗闇の中で微かな記憶の欠片が浮かび上がる。

最近、夢を見る頻度が増えた。特に、あいつの姿が現れることが多くなった。あいつ――俺の幼馴染で、親友だった佐藤翔太。2年前、交通事故で突然この世界からいなくなったあいつだ。

その夜もまた、夢の中で俺はあいつと再会した。

目を開けると、そこは見慣れた場所だった。小学校の裏庭、古びた鉄棒と錆びたブランコが並ぶ小さな遊び場。夕陽が空をオレンジに染め、風が木々の葉を揺らしている。俺は自然と足を進め、ブランコの前に立った。すると、向かいのブランコに座る影が見えた。

「よお、拓也。久しぶりだな」

聞き慣れた声。振り向くと、そこに翔太がいた。変わらない笑顔、ちょっと伸びすぎた前髪、いつも着ていた緑のジャケット。まるで昨日まで一緒にいたかのように、自然にそこにいた。

「翔太……お前、ほんとにそこにいるのか?」

俺の声は震えていた。夢だとわかっていても、心が締め付けられる。翔太は軽く笑って、ブランコを小さく揺らした。

「夢の中くらい、会いに来てもいいだろ? お前、最近元気ないみたいだしさ」

その言葉に、俺は言葉を詰まらせた。確かに、翔太がいなくなってから、俺の毎日は色褪せていた。仕事もそこそこに、家に帰ればただ眠るだけの日々。笑うことも少なくなっていた。

「なぁ、覚えてるか? ここでよく遊んだよな」

翔太が指差す先には、鉄棒があった。小学生の頃、俺たちは放課後になるとここに集まっては、鉄棒にぶら下がったり、誰が一番長く回れるか競ったりした。俺はいつも途中で落ちて、翔太に笑われていたっけ。

「ああ、覚えてる。お前、いつも俺のこと馬鹿にしてたよな。『拓也、お前は運動神経ゼロだな』って」

「はは、だって事実だろ。でもさ、お前には別の才能があったじゃん。覚えてるか、あの絵」

翔太の言葉に、俺の記憶が一気に蘇った。小学6年生の時、美術の授業で描いた絵。テーマは「大切なもの」。俺は迷わず翔太と一緒にこの裏庭で遊ぶ姿を描いた。ぎこちない線と雑な色使いだったけど、先生に褒められて、校内のコンクールで賞をもらったんだ。翔太はその絵を見て、「俺、こんなにカッコよくねぇよ」と笑ってた。

「そういえば、あの絵……まだ実家にしまってあるよ」

「マジかよ。捨ててないんだな。嬉しいよ」

翔太の笑顔が、少しだけ寂しそうに見えた。俺は何か言おうとしたけど、言葉が喉に引っかかって出てこなかった。代わりに、翔太が口を開いた。

「なぁ、拓也。あの日のこと、覚えてるか?」

「あの日って……」

俺が聞き返すと、翔太は静かに目を細めた。

「俺が死ぬ前の、最後に会った日」

その言葉に、胸が締め付けられた。あの日――2年前の秋。俺たちはいつものように駅前の喫茶店で会って、他愛もない話をしていた。翔太は新しいバイクを買ったと自慢げに話して、俺は「危ないから気をつけろよ」と笑いながら言った。それが最後の会話だった。次の日、翔太はバイクで事故に遭い、帰らぬ人となった。

「あの日、もっとちゃんと話しておけばよかったって、後悔してたんだ」

俺の声は小さく震えていた。翔太は黙って俺を見つめ、それからゆっくりと立ち上がった。

「後悔ってのはさ、生きてる奴の特権だよ。俺にはもうできない。だから、拓也。お前は俺の分まで生きてくれよ」

「翔太……」

「なぁ、ちょっと歩こうぜ。昔みたいに」

翔太がそう言って手を差し出す。俺はその手を取って、一緒に裏庭を歩き始めた。夕陽が沈みかけ、空が深い藍色に変わっていく。俺たちは昔話に花を咲かせた。中学の修学旅行で迷子になったこと、高校の文化祭で一緒にバンド組んで失敗したこと、卒業後に初めて一緒に酒を飲んだこと。笑い合いながら、俺は気づけば涙を流していた。

「なぁ、翔太。お前がいなくなってから、俺、ずっと空っぽだったよ」

「バーカ、空っぽなわけないだろ。お前の中には、俺との思い出がいっぱい詰まってるじゃん。それに、これからも新しい思い出を作れる。お前にはその力があるよ」

翔太の言葉が、俺の心に染み込んだ。確かに、翔太との時間は俺の中で生き続けている。そして、これからも俺は生きていく。翔太の分まで。

「そろそろ行かなきゃな」

翔太がそう言って立ち止まる。見上げると、空はすっかり暗くなっていた。俺は慌てて翔太の手を握った。

「もうちょっとだけ……いてくれよ」

「悪いな、拓也。夢の中にも時間ってやつがあるんだ。でもさ、また会えるよ。俺、いつでもお前の夢の中で待ってるから」

翔太はそう言って、優しく笑った。そして、その姿が徐々に薄れていく。俺は必死に手を伸ばしたが、指先は空を切った。

目が覚めた時、枕が濡れていることに気づいた。涙だった。時計を見ると、朝の5時。外はまだ暗く、静寂が部屋を満たしていた。でも、俺の心は不思議と温かかった。

翔太との夢の中での再会は、俺に何かを残してくれた。あいつの笑顔、言葉、そして一緒に過ごした時間。それらは俺の中で生き続け、俺を前に進ませてくれる。

俺はベッドから起き上がり、カーテンを開けた。少しずつ明るくなる空を見ながら、そっと呟いた。

「なぁ、翔太。また夢で会おうぜ」

そして、俺は新しい一日を始める決意をした。翔太の分まで、しっかり生きていくために。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夢であえたら @d1098

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ