【怪談実話】短編怪談『消して』

有野優樹

聞こえてきた声は

都内のスタジオで音声編集を深夜まで行なっていた木村さん。

時刻は2時。作業はまだあと少し残っていたので、自販機で缶コーヒーを買い一息つくことにした。


「よし」


トイレに行ってから残りの作業に取り掛かろうと、電気の消えた廊下を歩いて行く。トイレの電気がついていた。


「あれ?さっき消し忘れたかな」


この時間にスタジオに残っているのは木村さんだけだ。部屋を出る時には電気を消し、扉はきっちりと閉める几帳面な性格故え違和感を覚えたが、こんなこともあるだろうとあまり気に留めなかった。

用を足し電気を消してスタジオに戻る。残りの作業に取り掛かろうとしたとき、ある異変に気づいた。


変な音声データがある。


再生してみると、小学校低学年くらいの女の子の声で


「消して」


と、まるで自分に語りかけるかのように囁かれた。

驚きはしたものの怖い話が好きな木村さん。いいネタができたと思いその音声データを保存しようとした。すると左耳の後ろから


「消して」


今聞いた声と全く同じ声で囁かれた。


「だからデータは残ってないんですけど、たしかに聞こえてきたんです」


なぜ声を消して欲しかったのだろうか。

一回目に聞こえたとき、それは本当に音声データだったのだろうか。

あまり踏み込まない方がいいこともあるのかもしれない。


(※仮名を使用しております)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【怪談実話】短編怪談『消して』 有野優樹 @arino_itikoro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ