下
外はやっと日が落ちてきたくらいだったが、まだ日中の暑さが残っていた。店の前には、すでに3人ほどが並んでいた。チェーン店だと聞いていたが、この店は昔あったラーメン屋を居抜きしたような、狭い店だった。だからか、外装内装ともにお世辞にも綺麗とはいえなかった。
「はい、こってりお待ち。」
席に座った後しばらく待って提供されたラーメンを見て、絶句した。
表面に脂が浮いて乳白色に濁った粘性の高そうな液体は、スープというより泥と呼ぶほうが正しい気がした。チャーシューは、もはや脂身の塊かと思うくらい真っ白だった。麺には存在感がなく、おまけとしてついているようだった。
「私の知っているラーメンとは随分違うんだね。」
「そう?まあ食べてみなよ。」
私は箸で麺をつまみ上げた。スープが纏わりついてくるおかげで、細い見た目に反して重さを感じた。ゆっくりと滴り落ちる油分を眺めながら、トリートメントをした私の髪の方がまだ美味しそうだと思った。
恐る恐る、箸を口に運んで啜った。重たい、と思った。一口食べただけで満足感、あるいは拒否感を得られるほど、味が濃かった。豚骨の風味などどこにもなく、ただただ口の中には不愉快な脂が、鼻の奥にはニンニクのつんざくような匂いが流れ込んだ。これらは咀嚼している間どころか、飲み込んだ後も消える気配がなかった。
チャーシューを一口齧った。おそらく豚だとは思うが、それすら定かではないほど脂の味しかしなかった。唯一褒める点があるとすれば、とても噛み切りやすかった。
レンゲにスープを掬って、口に含んだ。味が感じられなかった。強烈な味が混ざり過ぎて、とうとう私の舌が情報伝達を拒絶したようだった。私はほっと胸をなでおろした。このまま味を感じたままだったら、今にも箸を置きかねないところだった。
半分ほど食べ進めて、周りを見渡した。ああそうか、と思った。皆黙々と、無表情で麺とスープを啜っている。ここにいる誰一人、私と同じように味なんて感じていない。エネルギーと満腹感を腹に流し込んでいるだけなのだ。
「どうだった?」
完食して店を出た後、彼は私に尋ねた。
「天下無双の名に恥じないと思ったよ。頭を空っぽにして、カロリーを急速に摂取する。あれは食事というより、点滴に近いものを感じた。」
「ご満足いただけたようで何より。」
「もちろん、一生分ね。」
彼は苦笑した。
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