第2話
コリティは彼女をまたチラッと見る。
「そうねぇ。私は一ヶ月後にするわ」
「へえ。なんでそう思った?」
セインは楽しそうに笑うコリティを見て、下を向く。
しかし、すぐにこちらを見ると顔を真面目にさせる。
「多分、貴族家の女達は男達よりも力関係を上にしたまま一生保ちたい。それだったら、いくら魅了を使われたとしても男達はずっと頭が上がらなくなるという構図になるわ?男達の家に話がまだ少ししか行き届いていないところを見ると、女達の家が暗躍してる理由がわかるかもしれない」
この世界、基本的に男尊女卑。
しかも、平民ではない貴族にはその傾向が今もある。
自分の身の保証を保つための生存戦略。
「コリティ。さすが、お見事と称賛してやろう」
「こんなの情報を知れる人たちなら簡単にわかるわよ。男達の親が情報を得にくいのはここが学園という特殊なところだからだし、女達の方が上手だから」
「だからといって、王家や上から数えていいくらいの高貴な家がやらないとは信じられないけどな?」
彼の言いたいことはわかるけど。
でも、貴族よりも、平民の方が知っているということがあるのは不思議じゃない。
現場には現場にしか理解できないことがあるという、典型的な現実。
「でも、あの女、破滅したいってわけじゃないだろ」
「そこはあなたが男であるから、わからない感覚なのよ。女だから全部わかるというわけじゃないけど。やはり高貴な男達にちやほやされるのは一度味わうと抜けられない禁断の蜜みたいなものよ?」
「む、おれは一途な派閥だからそんな女は嫌だ」
「私だって、お金を払って叶えられるんならやってもらいたいもの」
「……ふーーーーーん?」
初めて聞くふーんだったので、飲み終えたジュースを置き相手をみやる。
「その含んだ声はなぁに?あなただってハーレムしたいでしょ」
「おれをそこら辺に、いいや……あそこにいる、将来は一夫多妻を叶えたいと常日頃、女子の前で言って冷たい目を女子達に向けられるやつとは違う」
セインは一人、噴水脇にあるベンチで空を見上げている男の子を指す。
「具体的ねぇ。それ聞いたことあるわ?二組隣の男の子が気持ち悪いと言われていたのを聞いたわ。確かに嫌われるわね、その言い草」
「そうだよな。好きな女子にいいところを見せたいからって、その子をチラッチラ見ながらおれは将来モテるとアピールする自爆行為に、みんなに馬鹿やったなぁと思われてるやつと同列にされたくない」
思ってるらしい。
止めてあげろ。
男子の友情ってよくわからなくなる。
「むむ。そのコリティは結婚願望あるよな。実はおれもお前とおんなじぐらいあって」
魅了の話はいつ、この話にシフトしたのであろうか?
「あの、セイン。話が散らばってるわ」
「は?散らばってない。あんな女捕まって卒業するころにはみんなコロッと忘れてる。つまりおれにはお前くらい強い恋愛の話をしてるんであって」
「セイン……」
セインを見て、目をキョロキョロさせるコリティ。
「な、なんだ」
「もうすぐ休み時間が終わるから行くわ」
どうやらキョロキョロさせていたのは、時計をチラ見してたかららしい。
「……そうだな。おれは少し噴水について考えるから先に行け」
「噴水?わかったわ」
言われるがままに席を立つ彼女。
「セイン」
最後に声をかけられたので、上を見上げた男。
「卒業式の後に話があるなら、私は絶対に行くわ」
ふふ、と優しく笑うコリティの柔らかな声音に男子は耳を少し赤くして頷いた。
その後、一ヶ月と半月で魅了の例の少女は退学になった。
来年試験に受かれば、また入れるらしい。
そういうところは、彼女が平民でよかった部分だと思う。
貴族なら、後妻にさせたりして再度世間の目に晒すのを許されることは、なさそうだ。
ただし、黒歴史を知る存在があちこちに点在してることを妥協しながら、通えるかはかなり苦しい点だろう。
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