第6話 カルサリア王立学園


 カルサリア王立学園。ルヌアーヌ王国で一番の名門校と称され、王族から多額の支援を受けている。現在は生徒会長を王国の第二王子であるセオドルが務め、隣国の王子も留学で通っている。そのため知名度はさらにあがり、入学倍率はかなり高い。

 十二歳で入学し、十六歳で卒業するのが主である。十二歳になるまでに家庭教師などから教育を受け、ある程度知識を持った者が通うのである。稀に飛び級で卒業する者もいるが、五年間学園に通うことが基本。卒業後は、男子は騎士や研究者、商業主になり、女子は学園で出会った者と結婚し、領地経営や商業を行うことが多い。卒業パーティーは、パートナーを決めることが結婚相手を決まることと同等であり、年に一度行われるパーティーは出会いの場とも言われる。


 記憶が戻ってから六年が経ち、フィーリアは今年で十二歳となる。学園に通う年になった。四度目の人生を除くと、彼女は過去三度カルサリア学園に通っている。そのため、卒業レベルの知識は持っているのだが、彼女は目立たないためにもその知識をひけらかさないことを決めている。

 六年の間で、彼の姿を見たことはなかった。やはり四度目の人生の影響で彼と出会うことができなくなったのだとフィーリアは思い、寂しさを抱えながらも彼女自身の生活を送った。しかし、婚約者という存在はまだいない。


「制服姿のフィアも可愛いね」


 届いた制服に袖を通して、鏡の前で一回転したフィーリアの後ろで彼女の姿をにこにこと見ていたヴィセリオは、そう言って彼女の肩に手を添えた。

 ヴィセリオは現在十四歳。既に学園に入学しており、第二学年である。彼の美しさには磨きがかかっており、見る者全てを魅了する美男子となっている。妹のフィーリアですら、彼の顔を間近で見ると赤面してしまう程である。


 十二歳となったフィーリアも、あの頃からかなり成長した。身長はヴィセリオには遥かに及ばないが、背も伸びている。

 フィーリアは制服のスカートを摘まんで鏡の前で自分の姿を見る。サイズが合っているか、見た目に問題はないかを確認し、後ろを向いてヴィセリオに尋ねた。


「お兄様。おかしなところはないですか?」

「一つもない。寧ろ可愛すぎて寄り付いてくる虫をどう追い払うか考える必要ができたね」


 ……お兄様の発想が相変わらず物騒すぎます。

 フィーリアは苦笑いを浮かべて鏡の自分の姿に視線を戻した。兄は妹を溺愛しすぎているせいで、彼の意見は参考にならない。じっくりと自分の姿を見て、おかしな点がないことを確認した。その間も、鏡に映る、にこにこと笑みを浮かべたヴィセリオが気になる。彼の笑みは六年の間で凄みを増した気がする。


 記憶を取り戻した後は、ヴィセリオに毎日のように魔法を教わり、体も鍛え、勉学にも励んだ。十歳の時に一度魔獣に襲われかけた時には、一度目の人生で襲われた魔獣よりも遥かに弱かったので、魔法のお陰で対処することができた。その後、ヴィセリオの過保護さに拍車がかかり、家にいる間、彼は常にべったりとフィーリアの傍にいるようになった。


「……どうしよう。天才のフィアが学園に入ったら多くの者から声がかかるだろう。どう対処すべきか」

「わたしよりお兄様の方が天才なので、その心配はないと思いますよ」

「いいや。私は性格に難があるから、声をかけられることはなくなったよ。それに比べてフィアは純粋で可愛いから、フィアを手に入れようとする輩が増えるに違いない」


 ヴィセリオは堂々と言うことではないことを堂々と言い、性格に難がある人が浮かべるような笑みを浮かべた。フィーリアは再び苦笑し、彼と目を合わせる。


「お兄様がいてくださるので、わたしは心配していません」

「……嬉しいことを言ってくれる。ああ、必ず私が君を守るよ」


 フィーリアの頬に手を添え、ヴィセリオは優しく微笑んだ。この優しい微笑みは、あの頃からずっと変わっていない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る