月光に或る

楊ほらん@冬眠中

ニジュウの憧れ

生と死は、共存なんかしない。

だから、私はここで息ができない。

だって、死ぬのだから。


朝焼けが、私の顔を焼く。

目の前の太陽はおはようと言っているが、私はお休みと返してしまった。

顔を焼いて、私を醜くして、それでいてなぜ馴れ馴れしくなるものか。

空いていたビルの屋上で、私は掠れ気味に海に映っていた。

偽りを着ても、私は彼に成れないでいる。

顔を整えて、可愛らしく振る舞おうとも、私は世の中に馴染めない。

また、太陽の光が強くなる。私の顔を、私の嫉妬をまた燃やし、焼け焦がす。

太陽は、世の中に順応して、それでいて夜は星が回って、太陽は居なくてもいい。

必要とされていない。

太陽ですら、夜に必要はない。

じゃあ、私はもっと要らない子。


フェンスを掴んでいた。空を見る。

また存在を薄くした。

昨日の雨も、どこかに行ってしまった。

目の前の海も、水平線も、皆太陽に道を開いている。

……揺らした。フェンスを揺らした。

歯を食いしばって、また蹴り上げられた。

世界はびくともしない。

だから、私が回るのだ。

フェンスがどかなくても、私がどけばいい。

乗り上げた。風が強くて、勝手に飛び降りてしまいそう。

「死なないと、いけないから……」

を、かわいそうだと思った。


ふと、また太陽を見る。

完全に、今日一日を生きようとしている。

他人を、また荒い笑顔と日当たりで、元気にしようとしている。

でも、あなたみたいな乾いた心を太陽がどう潤すのだ。

風がまた吹く。

太陽は死なないでと言っていない。

対して、風は死ねと言っている。

「死なないと、いけないから……」

呪文のように繰り返した。水平線が譲った太陽への道は、また海に明け渡される。

偉そうなくせに、馴れ馴れしい。

太陽は平等に、挨拶を振りまき、顔を焼き散らかしている。

なのに、皆は道を明け渡す。

嫌われているから?

でも、私は太陽が羨ましい。

だったら、必要と、されている?

「なんで、死なないと、いけないの?」

風に対して、あなたは、なけなしの抗議をした。

死にたくないから……なんで死なないといけないの?

しかし、風はあなたを吹き飛ばした。

世界が回る。夜空が薄くなり、太陽にかき消され、刹那にビルの窓に反射する日光が私の目を追撃している。

あ、死ぬんだ。

目をつむった。

私も目をつむっているのに、経っている時間が長い。

あなたの走馬灯が見えない。

空っぽだったのか。

やがて、加速が止まる。

浮く感覚がなくなった。

死んだか……。

後悔は、なかった。



目を開ければ、目の前に太陽がいた。

咄嗟に判断し、心に激痛が走る。

ずっと、家から出ていなかったからだろうか。

体全体が焼ける。じわじわと、私の繊細な皮膚を苦しめている気がする。

「生と、地獄は似てるんだなぁ」

私はそう呟いた。

太陽の光は、基本無害な筈だ。

しかし、ここは灼熱。でも、日差しで焼くとは。私にとって的確な地獄だろう。

横になって、目を開ける。

どうやら、砂浜と海が広がっているらしい。

無駄に明るい、一見天国なような地獄だった。

その光景に度肝を抜かれ、息を吸い込む。

潮の満ち引きの香りという憐れみが、生の痒みをしばらくとった。

体が焼かれているからだろうか。麦わら帽子と、白のワンピースで格好をつけたい。

駆け出して、また途端に倒れ込むのだ。

きっと、この光景はいつも続いている。

そう希望を持たせるのが、最も地獄らしいと感じた。

立ち上がって、海に歩いていく。

太陽を撫でた。一度やってみたかったんだ。

ワンピースはないけれど、私は輝きたい。

顔も、凸凹だけど頑張って手入れをしてきたんだ。

その時、太陽は私から遠ざかり、あなたが後ろから話しかけてきた。

「私だって、太陽になりたいけど」

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