面倒見のいいお兄さん
――実は、うちの道具屋は評判がいい。
薬剤はあたしやミノリが作ってるんだけど、効果が高いって好評なんだ。
特に、傷を負うことの多い騎士団には。
「ユメ。そろそろ交代しましょうか。奥に居ていいわよ」
「あ、うん」
奥で作業していたミノリと店番交代の時間だ。
代わろうとした時、カランカランと音が鳴る――あ、お客さんだ。
「いらっしゃいませー」
「いらっしゃいませ! あら」
あたしとミノリが出迎えたのはアラタとは違う騎士だ。
「邪魔するぞ」
「カヅキ! いらっしゃい。久しぶりね」
「ああ、遠征に行っていた。昨日戻ってきたんだ。今日は薬剤をいくつか調達したくてな」
「そう。いつもありがとう。用意するわ。何が欲しいかしら?」
「そうだな……」
カヅキと名乗る彼はアラタの先輩騎士で、あたしとアラタ、ミノリと同じ孤児院出身でもある。
落ち着きがあって真面目な性格で、あたしもよく孤児院時代に助けられた。
あたしがお世話になった頃にはひとり立ちしていたものの、カヅキは孤児院によく手伝いに来てくれてたんだ。
面倒見のいいお兄さんで、血の繋がりがないあたしにも本当の妹のように接してくれる頼もしい人。
あたしもアラタも、よくお世話になったなぁ。
「? ユメ、どうした?」
「あ……ううん、何でもない」
考え込んでいたのが、ボーっとしているように見えたのかも。
首を横に振ると、ふふ、とミノリが笑う。
「ユメ、アラタが来なくて残念?」
「え?」
ミノリの言葉に、ああ、とカヅキも微笑む。
「アラタならそのうち来るぞ。ユメに会いに行く、と鍛錬を頑張っている」
「あ……そ、そっか」
予想していなかった返答に戸惑いながら、注文書が出来上がっているようなのでミノリから預かる。
「奥から持ってくるよ」
「あら、ありがとう」
そのまま注文書を片手に奥の倉庫で薬を探す。
――なんで、みんなアラタのことを話題に出すんだろう。
昔からそうだ。あたしを見るとアラタの名前を出す……特に騎士団の人たちは。
アラタ……普段、あたしの話ばっかりしてるのかな……?
そんなことを考えながら薬を集めて、持って行った。
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