第13話
夕方になり、生徒が全員帰宅。あとは片付けをすればアルバイトは終了となる。
「二人とも、片付けは私がやっとくから。おつかれ〜」
結羽が近づいてきてにこやかに俺と胡桃の背中を押した。
「や、別に一緒にやるけど……稜太郎はもう大丈夫、ありがと」
「今日、2人で出かける約束してたんでしょ?」
結羽が俺と胡桃を交互に見る。どうやらとっくにバレていたらしい。
「や、バレバレバレンシアガだ」
胡桃が照れくさそうに面白くないジョークを呟いて頭をかいた。結羽と2人でジト目で見る。
「ま、そういうことで。いってらっしゃい」
結羽はニカッと笑うと、俺と胡桃を夕焼けが眩しい外へと送り出してくれた。
外に出ると、夕焼けから目を守るために手を眉毛のあたりに当てる。隣を見ると胡桃も同時に同じことをしていた。
二人で目を見合わせて吹き出す。よく見ると胡桃は頬に青い絵の具がついていた。
「絵の具がついているでありますよ」
敬礼のポーズをしたままそう言う。
「や、これはフェイスペイントということであります」
胡桃は絵の具のついている場所も探そうとせずにそう言った。
さて、どこに行ったものか。そう思った矢先に駅の方へ向かって浴衣を着て歩く人を見つけた。
「今日ってどこかでお祭りあるんですか?」
「や、知らな――知ってる!」
胡桃は自身の脳内メモリにヒットした瞬間に目を見開いてそう言った。
「どこですか?」
「すぐ近く。花火大会だよ」
「そこにします?」
「ん。いいと思うであります」
胡桃はにやりと笑い、敬礼をして駅の方へと歩き出した。
◆
やってきたのは花火大会のメイン会場。海沿いの公園にはびっしりと花火見物の客がいて、僅かな隙間を人が互い違いに歩いていた。
「や……間違えた」
「間違えましたね……」
「闇営業をしたお笑い芸人が大人しく謹慎せずにYouTuberになるくらい間違えたね」
「そんなに間違えました!?」
「ふふっ、どうかな」
胡桃は少し視線を下げ、俺の手を見た。
「はぐれないように手を掴むけど、はぐれないように手を掴むだけだから。手を繋ぐという行為とは別」
「じゃ、はぐれないように手を掴みます?」
手を差し出すと胡桃は「ん」と喉を鳴らして頷き、俺の手を握ってきた。実質的には手を繋いで二人で人の波に流される。
花火はどこでも見られそうなのだが、問題は打ち上げ中の安住の地が見つからないこと。
「やー……これ、並んで見れるような場所ないね」
「完全に出遅れましたね」
「日本のジェンダーギャップ解消くらい出遅れてるよね」
「急に思想がつよつよですね!? SNSで暴れたりしてませんよね!?」
胡桃は「ふはっ!」と吹き出して口元に手を当て、「ないない。スピーチとスカートは短ければ短いほどいいんだから」と公式の場なら大炎上しかねないオジサンフレーズを口にした。
だが、笑っていた胡桃が急に真顔になる。
「や……やっぱりツイフェミですか?」
「や、バ先の人がいた」
「バイト先ですね」
「アルバイト先ともいう」
二人で顔を見合わせてにやりと笑う。
「で、バ先の人がどうしたんですか?」
「彼氏っぽい人と歩いてたんだけど……この続きはWEBサイトで公開しようと思う」
「せめてホラーなのか昼ドラなのかバラエティなのか教えてくれますか?」
「ざまぁ系かな」
「あ、じゃあいいです」
「やー……けど普通にショックだ……」
「彼氏が知り合いだった?」
「や、知らない人。その人さ、今日のバイトを『体調が悪い』って休んでたんだよね」
「あ……もしかして……」
「彼ピッピ、ダイナリ、アルバイト」
「えぇ……もっと前から調整できそうなのに……」
「ねー。お人好しは損ばかりだ」
「なら、俺といると損ばかりですよ
「そんな事言わない」
「損だけに?」
「ふはっ……ま、サボってくれてよかったよ。お陰で1日一緒にいられたわけで」
「デートバイトですね」
「それだとレンタル彼女みたいじゃない? バイトデートだよ、バイトデート」
「それもレンタル彼氏みたいじゃないですか? デートバイトデートにしましょうよ」
「DBDだね」
「だね、と言われましても……」
そんな話をしていると公園の真ん中辺りまで移動してした。これ以上進んでも場所は見つからないんだろう。
「あ、ここにしよ」
胡桃が見つけたのは花火の打ち上げ先に対して垂直方向に広い場所。横には並んで座れないが、縦なら並べそうな広さだ。
「縦ですか?」
「ん。肩車してくれる?」
「Z軸方向に行くんですか!? 迷惑すぎません!?」
「じゃ、Y軸で」
胡桃はそう言うと自分が前の方に座り、俺を手招きしてきた。
俺が胡桃の後ろに座ると、胡桃は俺の脚を開かせ、脚の間に入って俺の方に体重をかけてもたれかかってきた。チラッと振り返りながら流し目で胡桃が視線を送ってくる。
「Y軸方向に攻め過ぎじゃないですか?」
「
胡桃は悪ノリしているのが明らかでニヤニヤしながらそう言ってきた。
「多分ですけど、俺じゃなかったらドン引きされてますよ」
「じゃ、稜太郎だからいいんじゃん」
胡桃は頬を膨らませて前を向いた。
「ま……そうですけど……」
そのまま無言で花火が上がるのを待つ。数分もすると、最初の一発が上がり、周りの人は「おぉー」と歓声を上げてカメラを構えた。
俺と胡桃はぼーっと空を見上げる。
胡桃はふと周囲を見て、俺の方に身体を倒してきた。
「皆、スマホ越しに見てない?」
「本当ですね……」
「ま、いいんだけど。人は人、私は私」
胡桃はそう言い、また前のめりになって花火を見出した。
数発の花火が上がり、火花が夜空に消えていく最中、胡桃はまた俺の方に顔を近づけてきた。
「ね、稜太郎」
「なんです?」
「ムラムラしてきた?」
この人……やっぱり馬鹿か変態なのかな!?
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