✨祝・初陣✨

 やあ諸君!今日も余輩のところに来てくれたのだねぇ。素晴らしい心掛けだ!!これからは胸を張って、堂々と公言するが良い。余輩の大ファンだとね!!

 さて、せっかく来てくれたのだ。何か話でもしようじゃないか!そうだなぁ……そうだ!!先日余輩が初めて仮想戦闘とやらに行った時の話をしよう!いやああの戦いは、誰もが涙無しには見られないものとなったよ……


 あの日。余輩は名探偵アザミ君に連れられ、ガーデンの隣にある施設の地下へとやってきた。少々薄暗く、何人も入るには窮屈になるであろう場所だ。そこにはある者が住んでいた!アスナロ殿という名らしい。なんでもここの管理者なのだとか。アザミ君が『仮想戦闘をしに来ました!』と言うと、アスナロ殿はすぐに、不思議な、箱のようなものを持ってきてくれた。どうやら仮想戦闘とは、これを装着して行うものらしい。

 では早速、余輩の記念すべき初陣の相手を務める者を決めよう!としていた、その時!!余輩の大ファンであるヤクノジ君と、まだ言葉の交わしたことのないドールが扉を開けてやってきた!!いやはや、余輩がここに居るとわかるだなんて、流石は大ファンといったところか……もう1人の方は、リツ君というらしい。うむ、あれは中々良い目をしていたよ!

 彼等も仮想戦闘をすると言うから、4人でどの相手を選ぶかじっくりと話し合った。結果!ナナミというマギアビーストに決まったのさ!余輩の初めての戦いを見られるなんて、そのマギアビーストもきっと誇りに思っているだろうねぇ。

 設定?とやらを済ませ、我々は箱を装着する。いざ!仮想戦闘へ!!



























「はーい戦闘開始でーす」

 最初に目の前に広がったのは、非常に白く広い空間だ。これが仮想の世界というものなのだろう!…いやあの白さは、箱庭でも見たか。まあ構わない!それから、仮想戦闘での決まりなのだろうか?何かがずっと視界の端にあったね。そして!我々の前に立ちはだかったのは、大きな大きな食器の怪物だ!!

『生贄を捧げよ……』

 怪物はそれだけ言って、こちらの答えを待っているようだった。

「なるほど、これがマギアビーストという生き物なのだね!!なんとも珍妙な見目じゃあないか……して、生贄とは?」

「ナナミは私たちのエネルギーを求めてきます。捧げるとかなりの疲労感に襲われますが……苦痛に耐えられるのなら、捧げてください。攻撃が、通りやすくなりますから」

「ふむ、苦痛に?」

 それを聞いた時、余輩は思った。苦痛とは一体全体どんなものなのだろうかと。鋭痛だろうか?鈍痛だろうか?外側だろうか、内側だろうか?それを受けると、余輩はどんな表情をするのだろうか?そう考えていると、心の底から楽しさが湧き上がってきた!!

「良いではないか!!!是非とももらってくれたまえ。いくらでも差し出そう!!」

 余輩の宣言に続けて、他の者たちも己の答えをマギアビーストへ告げる!

「……僕どうしようかなあ、余裕がなくはないね。やろう、捧げてあげる」

「あたしはパス」

「なるほど、リツさんは耐えられない…と」

「あぁ?んじゃぁやってやらぁ!」

 むむ?どうやらリツ君とアザミ君はライバルなのかな?うむうむ、それもまた良いだろう。ライバルとは互いを高め合う存在!日々の生活に彩りを与えるものだよ。

「私も捧げます」

『……全員捧げるでよいのか』

 ふっふっふ。生贄と聞き、怖気付くような我等ではないのさ、マギアビースト君。

『供物として預かろう……』

 マギアビーストが我等に向けそう言ったその瞬間!!全身から急激に力が抜け、異様な疲労感に包まれた!!圧倒的な力を前に、思わず悶えてしまう余輩!

「ぐわああ!!!こ、これが、ヤツの力……なんたることだ……!……む、そういえば魔法が使えなくなるのだったね」

 すぐさま余輩の苦しみを表現しようかと思ったが、この時はできなかった。どうやら選んだ装備によっては、魔法が使えなくなるらしい。即座に仕様を理解する余輩。なんと頭脳明晰なのだ……

「オスカー君、包帯巻いた?」

 余輩の頭の良さに感心していると、ヤクノジ君が声をかけてくれた。包帯とやらを使うと、不思議なことに体力が回復するそうだ!余輩の初陣を記念して、仮想戦闘を始める前に彼から分けてもらったのだよ。

「包帯?ああ!そういえばいただいていたね。余輩の大ファンであるヤクノジ君の気持ちを無下にすることはできない!!使わせてもらおう」

 その包帯を取り出し、リボンでも操るようにして華麗に纏う余輩!これにはマギアビーストですら見惚れてしまうやもしれない……

「オスカーくん…なんて言うか…うん…元気だねぇ…」

 そう、リツ君の言う通り!!余輩はいつだって元気であり、皆を照らす光なのさ……

「すごく意識がオスカーさんに向きそうになる…」

「いくらでも観てくれたまえ。余輩はそれに応えよう!!」

 そして、かっこよくポーズを決める余輩!うむ綺麗だ……ここに鏡があれば、幾らでもこの素晴らしい姿を見られたというのに……

「……がんばらなきゃ!」

 余輩の姿に勇気付けられたのだろう。他の者たちも武器をとり、果敢に戦い始めた!

「んじゃ、あたしもちょっとはいいとこ見せなきゃねぇ」

 そう言ったリツ君は、突然!!何の道具も使わずに、光線のような攻撃をマギアビーストに放ったのだ!!光線が直撃したマギアビーストは、その威力に苦しんでいる!

「なんと!!君は素晴らしい技を持っているようだ。どうやったのだね?」

「あぁ…見るの初めてなんだねぇ…興味あるならまぁ話してあげられるけど今は戦闘に集中しようね」

 いやはやとても良いものを見せてもらった。あれを使えばきっと、余輩の美しさが一層際立つことであろう……ふっふっふ。

 と、話している間にもマギアビーストの攻撃は止まらない!!我々に向けて、巨大なスプーンのようなもので殴打する!

「ぬああああああ!!!」

 我々全員を狙ってくるとは、やはりマギアビースト、なんという手強さ!

「諸君!大丈夫かい!!」

「どっちかといえばあなたの方が心配ですね…」

「あぁ…大丈夫大丈夫、このぐらいはね」

「なんとか……オスカー君も心配だけど……」

 皆ああ言ってはいたが、悲惨な傷を、余輩は見逃さない!きっと心配をかけぬようにと、元気に振舞ってくれていたのだろう……

「ああ、なんということだ……皆に怪我をさせてしまうだなんて……!!」

「オスカーくん!?行動!行動しよ!ほら!カッコイイとこ見せて!」

「そこまで余輩のことを求めるだなんて……リツ君、君も隠れたファンだったのだね!!ならば応えないわけにはいかないなぁ」

 照れ隠しも含まれていたのだろうねぇ。リツ君の声援を受けた余輩はそれに応えるため、再び華麗にポーズを決めた!しっかりその目に収めてくれたと思っているよ。

 そして余輩の決めポーズを見たアザミ君は、なんと!狼のような姿へと変貌した!!先程の光線といい、彼等は良い技をたくさん持っているではないか……うむ、うむ。

 しかーし!!そう易々とやられる相手であるならば、我々は苦労しない!次々に襲い来るマギアビーストの強力な攻撃に、皆は疲弊してしまっていたようだ……

「大丈夫かなあこれ……」

「ちょーっときっついなぁ…」

「わふ…」

 そして、傷が増えていくのは、余輩も例外ではない!否、余輩は皆を守るため、自らマギアビーストの前にと立っていた!気づけばこの身はボロボロになっていたよ…!

「ぐあああああ!!」

 けれども、簡単に倒れる余輩ではない!自分自身を奮い立たせて、何とか踏ん張ってみせたさ!

「くっ……諸君、心配はいらないさ。君たちのことはこの余輩が守りきってみせよう!」

「まあ、実際盾使ってもらってるんだよね……」

「まぁ…彼は大丈夫そうだねぇ…」

 ああ、心配をかけさせてしまっている…!皆それほどまでに余輩のことを慕ってくれているのだね…!彼らのためにも、余輩は負けるわけにはいかなかった!敵の攻撃は全て受け、彼らには武器を振ってもらう!そして!!アザミ君のある一撃が当たったその時!!突如としてマギアビーストはその場に倒れ、動かなくなった……

「はーい戦闘終了でーす」


 こうして、余輩の初めての仮想戦闘は幕を閉じたのさ……いや、はや、今思い出しても感動モノだ!!何か本にでも書き留めて、語り継がなくてはならないねぇ。

 と、いうわけだ。今回はここまでにするよ!諸君、今日も聞いてくれてありがとう。またいつでも会いに来ておくれ。では!!

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