彼女と踊る場所は、決まっている。

うびぞお

とまれ彼女は映画を語るKAC20255

 ひなまつりのホラー映画を思い付かないと彼女が言った。


 

 ホラー映画は何でもあり、と常々言っていた彼女の苦渋の発言。もしかしたら ひなまつり以外にもホラー映画にないものがあるかもしれないなんて思ってしまった。

 

「天下無双」

「ホラーの殺人鬼は大概はみんな天下無双に強くて簡単には死にません。最近 北欧製のスラッシャー映画でいいのがありました」

 ぐぬ

「ダンス!」

「いつだかコンテンポラリーダンスのホラー映画を観ましたね。ああ そういえば、踊るとゾンビが発生するやつとか なんか殺人バレリーナのやつとか観たいのがあります」

 ぐぬぬ

「トリの降臨」

「鳥に人間が襲われる昔の名作 観ますか?」

ぐぬぬうう


「天下無双のダンスでトリの降臨!」

どうだ!?

 

合わせ技に彼女は一瞬キョトンとしたけれど、脳内映画検索は一瞬で終わったようだった。

「サイコホラーのバレエ映画。バレエですけど主人公は天下無双のダンサーって言ってしまっていいかな、んん、ちょっと苦しいかな」

彼女は首を傾げて苦笑いした。ちょっと待って、多少は無理があるとはいえ、そんなホラー映画あるの?


「天下無双の、比類ない黒鳥を舞うために主人公のバレリーナは」

言いながら彼女は棚から一枚のブルーレイを取り出した。


 生真面目な主人公は、純情可憐な白鳥を演じられても 妖艶な黒鳥を演じることができず、次第に追い詰められて 現実と妄想を行き来するようになる。

 そして、舞台には見事な黒鳥が降臨し、映画は終幕フィナーレを迎える。白鳥から黒鳥へ、そしてまた白鳥に戻り、主人公は……。


 ラストシーン、うめき声が出そうになって口を押さえた。

 典型的なホラー映画ではないけれど。凄まじく壮絶な それでいて美しいラスト。

「この女優さんの演技も天下無双ですね」

彼女はわたしを振り返った。

 ホラー映画マニアの彼女をギャフンと言わせるのは不可能に近い。

「わたしの負け」

 でしょと彼女がほくそ笑む。悔しい。でも その唇の形がわたしの体内に火を点ける。彼女に映画でしてやられると体が熱くなるのは 最早 条件反射だ。

 

「わたしは布団の中でダンスする方が得意だわ」

 彼女の顔が赤く染まる。


 さあ、天下無双のダンスをごろうじろ





★☆

ネタにした映画『ブラック・スワン』

 

 

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彼女と踊る場所は、決まっている。 うびぞお @ubiubiubi

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