第四章 アンニュイなオレのご主人様 8


「孤児だったあやつを受け入れてから数年後。あやつは持ち前の勤勉さで、召喚術者としての才能を発揮し、さらに合成モンスターを研究する助手になっておったんじゃが・・・」

「・・・嫌な予感がするな」

「・・・ある日。奴は合成モンスターを分離するための研究を逆手にとり、新たに合成モンスターを生み出した。そしてその合成モンスターを使い、お嬢の父親を殺し、さらにお嬢や母親、弟も殺そうとしたんじゃ」

「ヒデェなおい」

「それが、あのニンゲンか・・・」

「なんでそんなことしたにゃ? 仲良かったんじゃにゃいの?」

「なぜそんな凶行に出たのか、わしにもわからん。死の間際に、お嬢の父親から家族を守ってほしいと頼まれ、わしはすぐにその場から離れたからの」

「ミシェリアの召喚奴隷になったのも、その時か?」

「いや、わしと契約したのは、それから数年後じゃ。あやつに復讐するために、お嬢は力を求めてたようでな。そして傭兵になってからは、強さと情報と金を集め、戦いのない日は、ずっとあやつの行方を調べておった」

「なるほど。お前たちにそんな繋がりがあったのか。どうりでお互い特別扱いするはずだ」

「・・・じゃが、お嬢はわしを恨んでおることじゃろう・・・」


 そう言ったレオンの表情は、何処か痛々しい感じだ。


「恨むってなんでだよ? 感謝してるの間違いだろ?」

「・・・あの日、お嬢の父親から、家族を守って欲しいと頼まれたわしは、すぐにお嬢とその母親、そしてお嬢の弟の下へ走った。そこにも既に合成モンスターがおったが、お嬢と弟を逃がすために、母親はその命を使って逃げるチャンスを作った。わしはお嬢と弟を背中に乗せ、すぐに走りだした」

「じゃあミシェリアと弟ちゃんは助けれたにゃ?」


「・・・わしも焦っておってな。背中に2人を乱暴に乗せた後は逃げるのに必死で・・・弟が落ちてしまったことに、気付かなかった・・・気付けなかった・・・」


 その時のことは思い出すのも辛いのか、レオンは顔を俯かせ、見るからに後悔してる様子だ。


「お嬢は運良くわしの毛がからまって落ちなかったが、おそらく、お嬢はその時、必死に弟を助けてくれと叫んでたはずじゃ。じゃがその時は、まだお嬢の言葉を理解出来なかった。・・・結果的に、わしは弟を見捨てて逃げてしまった。弟を殺したのはわしなんじゃ・・・」

「それは仕方ないだろう。助けに戻れば全滅する危険性もあったはずだ」

「どんな理由があろうと、お嬢の弟を見殺しにしたことに変わりはない。お嬢が必死に何かを叫んでいたことだけは、今でもはっきりと覚えておる・・・。わしは、お嬢に恨まれても仕方ないんじゃ・・・」

「違うぜレオン」


 もうすっかり自分が悪いと思い込んでるレオンに、オレははっきり言ってやった。


「なにもかも悪いのはあいつだろうが。お前が恨まれる筋合いなんて全くねえよ」

「じゃが――」

「ミシェリアの事情なんざ、オレサマの知ったこっちゃねえんだけどよ」


 納得いかない表情のレオンが何か言う前に、ミノが割って入ってきた。


「つまりオレサマたちは、あのオスに復讐するために、召喚奴隷にされて戦わされてたってことか?」

「・・・すまんな」

「レオンが謝ることはない。例え召喚術者にどんな目的があろうと、召喚奴隷にされた以上は、復讐だろうと戦争の道具だろうとこき使われるだけ。それが召喚奴隷にされた者の運命だ」

「オレサマは召喚奴隷にされたのは今回が初めてだからよくわからねえが、別にあんたに謝ってほしくて言ったわけじゃねえぞ? ただ、今までなんで戦わされてたのかわからなかったから、それが知りたかっただけだ」

「そうにゃ! レオンちゃんは何も悪くないにゃ! ボクたちが召喚奴隷にされたのも、弟ちゃんが死んじゃったのも、レオンちゃんは全く悪くないにゃ!」

「おぬしら・・・」


 レオンは柄にもなく感動してるっぽい。

 っていうか、召喚奴隷同士で仲良すぎだろ。

 珍しいにもほどがあるぜ。


「おぬしらからすれば、お嬢の一方的な都合で召喚奴隷にされ、とんだ災難じゃろうに・・・わしは、何と良い仲間に恵まれたことか・・・」


 ・・・ま、レオンの傷が少しでも癒えてくれるんなら、それはそれで良いか。

 さてこっちの話しは一段落したが、ミシェリアの方は・・・まだ何か喋ってんな。

 周りじゃ合成モンスターが暴れまくって、味方勢は右往左往してんのに、ここだけまるで台風の目みてえだぜ。

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