第四章 アンニュイなオレのご主人様 3
「今のままだと、この戦争が終わっても、また別の場所で戦いに駆り出されることになるのう」
寝てるミシェリアに代わって、レオンが静かな声で答えた。
「うるせえ!」ってミシェリアがキレるかと思ったが、我関せずとばかりに目を瞑ったままだ。
これから戦闘だってのに、マジで寝てんのかこいつは?。
どんだけ図太い神経なんだ。
「まだ戦わされるにゃ?」
「オレサマは戦いが生き甲斐だが、ミシェリアも相当なもんだな」
「まったくだ。どんだけ戦争好きなんだって話だよな」
「そうではない」
呆れたように言うオレに、レオンは非難するような感じではなく、諭すような声色で言ってきた。
「お嬢はけして戦争好きなどではない。むしろ戦争や戦いを憎んでおるよ」
「はぁ? 矛盾してねえかそれ?」
「ちょっと待て」
フォーテルが何かに気付いたように話しに割って入ってきた。
「レオンはさっき「今のままだと」と言ったな? ということは、やはり例の目的とかいうものが関係しているのか?」
・・・そういや、確かにレオンは「今のままだと」と言ってたな。
オレなんてまるで聞き逃してたのに、さすがフォーテルだぜ。
「オレサマにゃ何のことかわからねえが、前に囮にさせられて死にそうになった時も、目的があるっつってブチギレるのを我慢したんだよな?」
「うむ。途中で傭兵契約を破棄したり問題を起こすのは、傭兵としての信頼に関わる。目的の為には、あまり得策とは言えないんじゃよ」
「その目的ってなんなんだ? そろそろ戦争が終わるっつ~ことは、その目的ってやつも果たせそうなのか?」
「戦争の勝敗とお嬢の目的は別じゃ。もしこのまま目的を果たせなければ、また別の戦場に出るだけ。なにもこの国にいなければ目的が果たせないというわけではないからの」
「そうなのか? オレサマはてっきりそうだと思ってたんだが」
オレもミノと同じだ。
だからこそ、囮にさせられても同じ国の傭兵を続けてるんだと思ってたんだが・・・。
オレたちは訳がわからず、唯一事情を知ってそうなレオンに視線を注いだ。
「・・・ふむ・・・」
そんなオレたちの視線に、レオンは話していいものかどうか、少しの間無言で悩んでいたが、目を瞑ったままのミシェリアを一目見てから口を開いた。
「・・・お嬢には、探してる者がおるんじゃ」
「探してる奴?」
「お嬢のことゆえ、わしが勝手に話すわけにはいかんのじゃが、傭兵をやっとるのも、そやつを探しておるからなんじゃよ」
「へぇ~。そうだったのか」
初めて聞く話しに、オレらは全員興味津々だ。
「そやつを見つけ、目的を果たせば、お嬢が傭兵なんぞをやる必要はもうなくなる。そうなれば、おぬしらも晴れて解放じゃ」
「目的ってなんなのにゃ?」
「探してる者を殺すことじゃ」
「穏やかじゃねえな。そいつとなんかあったのか?」 「・・・・・・・・・」
オレの質問に、レオンは無言で首を横に振る。
いくらミシェリアが寝てても、これ以上は話せないってところか。
・・・にしても、ミシェリアにそんな目的があったなんて初めて知ったぜ。
まあ、今までこいつのことなんて、知ろうともしなかったせいもあるが。
「随分とミシェリアについて詳しいんだな? もしかして知らねえのはオレサマだけか?」
「オレだってミシェリアのことなんてほとんど知らねえよ。レオンが詳しすぎるだけだ」
「そうにゃ。だからミノちゃんも拗ねちゃダメにゃ」
「拗ねてねぇよ! あと「ちゃん付け」は止めろ!」
「深く介入するつもりはないし、答えたくないならば答えなくていいが、お前とミシェリアはどんな関係なんだ? 前から思っていたが、お前とミシェリアは普通の召喚術者と召喚奴隷の関係とは明らかに違う。それはお前たちが言語を理解し合っていることでも明白だ」
それはオレも思ってた。
レオンは妙にミシェリアの肩を持つし、なんていうか、上手く言えねえが、なんとなくミシェリアの保護者的な雰囲気を感じることもある。
・・・いや、ありえねえけど、なんとなく。
「ボクも気になるにゃ。いつも一番早くいるし、信頼されてるにゃ?」
「信頼されてるかどうかはわしにもわからんが、少なくともわしは召喚されたことはないのう」
「召喚されたことがない? どういうこった?」
「わしは常にお嬢と一緒じゃからな」
「常に? イマイチ意味がわからないんだが――」
「・・・つまり、共に生活しているということか?」
「そうじゃ」
「マジで!?」
「そうにゃの!?」
レオンはなんの躊躇もなくあっさり答えたが・・・驚愕の事実だ。
稀に召喚術者と一緒に行動して、生活を共にする召喚奴隷がいるって聞いたことはあったが、どっか遠い場所でのことだと思ってた。
それが、まさかこんな身近にいたとは・・・にわかには信じられねえぜ。
「わしは元々、お嬢の父親の召喚奴隷だったんじゃが、故あってお嬢の召喚奴隷となってな。それ以来、行動はほとんど一緒じゃ。お嬢のような若いメスが一匹で生きていけるほど、ニンゲンの世界も安全ではないからのう」
「ニンゲンの世界なんぞどうでもいいが、信じられねえぜ。何か弱みでも握られてんのか?」
オレが言いたいことをミノが代弁してくれた。
ニンゲンに対して不信感と嫌悪感しかねえオレからすりゃ、それ以外の理由が考えつかねえ。
「ほっほっほ。そんなものはない。わしはわしの意思でお嬢に従っておるんじゃよ」
・・・・・オレ、絶句。
あまりの衝撃に意識が吹っ飛びそうだ。
いやオレだけじゃない。
レオンを除いた全員が呆然となってる。
今まで何体もの召喚奴隷を見てきたが、みんな手段や経緯は違えど、強制的に召喚契約されて、仕方なく従ってるだけだった。
それなのに、自分の意思で従ってるって・・・。
「・・・レオン、大丈夫か? ミシェリアに洗脳されてんじゃねえのか?」
「おぬしらには信じられんかも知れんが、お嬢は元来優しく、例え相手がモンスターであっても傷つけることを嫌い、どんな者にも分け隔てなく接することの出来る、優しい性格なんじゃ」
「・・・え~と、誰の話をしてんだ?」
「お嬢のことに決まっておるじゃろ」
「HAHAHA。面白い冗談だな。苛烈でぶっ飛んだ性格の暴君の間違いだろ?」
「・・・確かに、今のお嬢しか知らなければ、信じられぬのも無理はない。今は復讐にとりつかれ、それ以外何も考えられんようになってしまっておる。全てを奪われ、目の前が真っ暗になってしまった自分を保つ為には、そうなる以外なかったのじゃろう・・・」
「復讐?」
オレが聞き返すと、レオンは「口が滑った」とばかりの表情になった。
「おっと・・・すまん。今のは忘れてくれんか」
「いやでも――」
「うわあああッ!!!!」
「ななななんだ!?」
突然拠点が慌しくなったと思うと、少し離れた場所からは悲鳴や何かが破壊される音が聞こえてきた。
「ななななんにゃ!? 何が起きてるにゃ!?」
「敵の奇襲だ!! ぼうっとしてねえで行くぞ!!」
何が起きたのかすぐに理解したらしいミシェリアは、飛び起きてオレたちに向かって指示を飛ばしてきた。
そうしてオレたちは、悲鳴や怒号が聞こえる方へと向かって走り出したのだった。
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