第二章 アンニュイなオレの仲間たち 6
戦いが始まって、オレらはいつも通りの連携で次々敵を倒し続けた。
戦いはいつも死と隣り合わせだが、今回は味方側の戦力が充実してることもあって、いつもの戦場より楽が出来そうな雰囲気だ。
・・・ただ、ミノタウロスはオレらから少し離れた場所で1体で戦ってる。
まあ普通はこんな感じで、召喚術者の命令を基本にして各々勝手に戦うもんだし、ミノタウロスはモンスターのヒエラルキーの中でそこそこ強い部類だから、追い詰められてるって様子もないんだが・・・。
「ミノ、1人ぼっちにゃ・・・」
召喚奴隷ってのは協力するもんだと思ってるニャン吉は、戦いの合間に、1体で戦ってるミノタウロスを心配そうに見て、悲しそうにそう呟いてる。
ちなみに、ミノタウロスの固有名はミノになるのが今決まった。
「そうか。ニャン吉は召喚奴隷になったのは初めてだったな」
フォーテルもニャン吉と同じようにミノタウロスを見ると、
「召喚奴隷の戦いは本来こういうものだ。俺たちのように連携をとる戦術の方が珍しく、お互い必要以上に干渉することもない」
「そうにゃの? じゃあじゃあ、ミノとは一緒に戦えにゃいの?」
「ミノに共闘したいという意思がなければ無理だ。そして現状ではその意思は皆無だ」
「そんにゃぁ・・・」
・・・どうしたもんか。
ニャン吉の気持ちもわかるが、別に邪魔になってるわけでもねえから、このままでも良いっちゃ良いんだが・・・。
「何がなんでも共闘しなければいけないというわけじゃない。ミノくらい強ければ、逆に俺たちと別に戦ってくれた方が多方面の敵と戦えるようになり、これはこれで戦術の幅が出る」
「しかし、そうなると何かあってもすぐフォローが出来んから、少々危険にはなるのう」
「そんにゃのダメにゃ! やっぱりみんなで一緒に戦うにゃ!」
その後もオレたちは、ミシェリアにどやされない程度に戦いながら、ミノをどうするか色々と話し合ってると・・・、
「ミノタウロス!! そこはもういい!! こっちに来い!!」
突然、オレらの後方で、クロスボウを使って戦ってたミシェリアが大声を出した。
オレたちも敵と戦いながら話してたせいで、どうやら気付かないうちに、ミノが結構離れた場所まで行ってしまっていたらしい。
ただ敵の中で孤立無援ってわけでもなさそうだから、それほど危険ってわけでもなさそうで良かったが。
「聞こえねえのか!? そこはもういいっつってんだろ!!」
召喚奴隷にとって、主である召喚術者の声はどんな喧騒の中でも優先的に聞こえるはずだから、ミノにもミシェリアの声は聞こえたはずだ。
なのに、ミノはまるでそれを無視するようにこっちに来ようとしない。
「おいミノ! ミシェリアの声が聞こえてねえのか!?」
「うるせえ!! 敵を殺しゃそれでいいんだろ!! いちいち命令なんぞ聞いてたまるか!! つかオレサマのことを軽々しくミノなんて呼ぶんじゃねえ!!」
「そんなことより早くミシェリアの言うことを聞け! じゃねえと――!?」
「・・・どうやらあたしの命令を無視する気らしいな」
命令を聞かないミノに、ミシェリアがキレたのが見えた。
「いい機会だ。てめえが誰のものになったのかわからせてやる」
「早く戻れミノ!! 命令を聞け!!」
「うるせえ!! 召喚奴隷になったからってニンゲンにいいように使われてたまるか!! オレサマはてめえらみてえにニンゲンに媚びるなんざまっぴらだ!!」
「そんなこと言ってる場合じゃねえんだっつの!! 早くしねえと強制――」
「・・・我が忠実なる召喚奴隷 ミノタウロスに命ず」
「!?」
戦場の喧騒の中、ミシェリアの召喚奴隷にだけ聞こえる声。
小さい呟きのはずなのに、まるで耳元で言ってるように聞こえるくらい、ミシェリアの声がはっきり聞こえて来た。
「待てミシェリア!! ミノはまだ――!?」
「汝ミノタウロス! 契約のもと我が意思に従え! 強制契約執行(ディス・マインド・マリオネット)!!」
ミシェリアの言葉が響いた直後。
ミノの体が痙攣し、口から泡を吹き、そして・・・目から理性の光が消えた。
「・・・東にいる敵を殲滅しろ」
「ンモオオーーーーッ!!」
ミノはミシェリアの言葉通り東側に向かうと、まるで狂ったかのようにめちゃくちゃに戦い始めたのだった。
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