第7話物理学者の魔法実習

 村長の家に行くようになって魔法について詳しくはなった。そう…、詳しくなっただけなのだ。


「なんでルイは魔法使えないんだろうね…」

「わかんない…」

「ふむ、魔法使えないこと自体が珍しいのう」


 村長にも原因がわからない上に、書物で調べても原因がわからないのだ。村長の家に通い始めて早一か月、魔法についてはあらかた調べることはできたが実際に使うことができなくて涙目を浮かべているのが俺だ。逆に魔法のセンスが良いと村長に評価されたのがメティだ。俺の隣で俺が魔法を使えない原因を真剣に考えてくれている優しい少女だ。


「魔法陣を手で書くことってできないんですか?」

「ふむ…魔法陣を書くことは理論上可能じゃな、いい所に目を付けたのう」


 魔法を使うためにはまず魔法陣を作らなければいけない。俺が魔法について調べて分かったことの一つだ。簡単な話、魔力を電気、魔法陣を回路ととらえればいいのだ。回路に電気を流すことで自分の使いたい形にするのが機械ならば、魔法陣に直接魔力を流せば使いたい魔法が使えるようになるのが魔法陣だ。

 そして、俺ができないのは魔法陣を自ら魔力で作り、それに魔力を流す行為だ。つまり、もともと用意されている魔法陣に魔力を流せば魔法は使える。そして、魔法陣は例えどんな物質であろうと描かれてさえいれば効果を発揮する。


「実際にここにある照明も魔力で動いているからのう」

「つまり内部に魔法陣が組み込まれているというわけですね?」

「そうじゃ。じゃが、正確に描くには結局魔法が必要という…」


 魔法を使いたいから魔法陣を描くのに、その魔法陣を描くのに魔法が必要というジレンマが起きている。いや、村長は今正確に書くことが必要と言ったか?


「もし、手で書こうとも正確に描けたのなら…魔法は使えるんですか」

「まぁ、不可能ではないのう」

「じゃあ、練習あるのみですね!」

「何事も経験からじゃな。難しすぎてできなくともおかしくない話じゃ、できないと思ったらすぐに言うんじゃぞ」


 というわけで俺は今、家に帰って魔法陣を書く練習をしている。その隣では俺の顔を見つめてくるメティがいる。やることがないからと俺の顔を見つめてるらしいが、正直気が散るので他のことをしていてほしい。


「メティ?」

「なに?」

「できれば少しだけおとなしくしていてほしいかなーなんて…」

「私ずっとおとなしいよ?」

「目線がおとなしくないんだよぉ」


 ニコニコ顔のメティは可愛いし、俺のやる気を上げてくれるのは確かだがそのメティが俺の集中力を奪っているのも事実だ。

 魔法陣を描く練習を始めて早五日、魔法陣の特徴をつかむことができた。例えば、魔法陣は必ず丸で囲まれている基本的なことから属性によってきまった形がある発展的なことまでわかることができた。ちなみに属性というのは、火、水、木、雷、土、光の6つのことだ。日本で言うところのゲームでよくあった設定だな。ただ、難しいことにここはゲームではないので、その6つで全ての属性を抑えられているわけではない。複雑な形の魔法陣を組めば、自分だけのオリジナル属性魔法が作れてしまうらしい。もちろん、そう簡単にできるわけがない技術らしいが…。どのように魔法陣と判定されているのかが気になってしょうがない。紙に描いただけでも、魔法陣は効果を発揮するし、オリジナル属性まであったらもう仮定なんかできようもない。この世界の理そのものが、俺の想像の外にあるのだろう。


「あ、もうお外暗くなってきた。パパとママも心配するから帰るね」

「なら、一緒に行くよ」

「毎日悪いよ!私が勝手に来てるだけなんだからさ」

「何が起こるかわかんないでしょ?待っててね」


 メティにそう伝え、お父さんのところに向かう。どの世界でも子供が一人で出歩くことが危ないのは変わらない。お父さんは「仕事も終わったし一緒に送るか」と快諾してくれた。まぁ、メティにも俺にも基本的に甘いのが俺の両親だ。俺の言うことにノーということ自体が少ない。

 三人で一緒にメティの家に向かう。世間話をしながら歩くこの道はすでに俺の大事な場所になっていた。それこそ前世の故郷よりも…ずっと。

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