プロローグ
第1話 霊斗
「“霊射”!!」
男の掌から放たれた霊力の塊は、人間のように二足で立ち、人間で言う胸の所から一本の腕を生やし、頭が身体と同等サイズまで肥大化している異形を葬り去った。
勝者である男に駆け寄るのは複数の女たち。その誰もが個性的で、美しい者たちであった。
女たちに囲まれる男もまた整った顔立ちをしている。
「ふぅ、かなり強い相手だったよ」
男は声までもが奇麗であった。
「なんか変な夢を見ていた気がするな」
自室のベッドで目を覚ましたのは、普通の顔立ち、一般的な体躯、平均的な学力といった何をやっても平均的なミスター普通と呼ばれるのが相応しい男だ。
学校へ向かうための支度を一通り終えた男は、自宅にある仏壇に手を合わせていた。
「父さん、母さん、今日も安全に過ごすよ」
男の両親は交通事故にあっている。
そのため男は人一倍交通事故に対する意識が高く、絶対に交通事故には遭わないと決意していた。
「うおっ!? 危ねぇな」
男は信号が青に変わったのを確認してから横断歩道を渡ろうとした。
しかし猛スピードのトラックがブレーキも踏まず、横断歩道に存在する物を全て轢き殺そうと迫っていた。
交通事故に対する意識が高い男は、歩きスマホといった危険行為は勿論のこと、周りの確認を怠らない。
(ああいうアホがいるから、世の中から交通事故が無くならないんだろうな)
「危ないっ!!」
そんな声と共に男の肉体は、四散するような感覚で吹き飛ばされた。
吹き飛ばされた時、彼の瞳に映ったのは信号無視のトラックを避けるため、急にハンドルを切った軽自動車が歩道に突っ込んでいるところだ。
あぁ、結局詰んでるじゃねぇか……。
男の嘆きは声として出ることはなく、意識と共に闇の中へと消えていった。
◇◇◇
「う゛ぅぅう゛ぅぅ」
女性の悲痛な声が部屋に響く。
それは陣痛の苦しみに耐えている声だ。
絶え間なくやってくる痛みは、新たなる生命の誕生を知らせているようであった。
「
そんな彼女を励ますのは髭面の大男。
男は妊婦の手を握り、声を掛けることしかできない。
しかしその言葉だけでも妊婦の力となる。
「霊華様、あと少しです」
そばに控える和服を着た女は優しく声を掛ける。
そして時代の変革者になりうる逸材の誕生を迎えた。
「おんぎゃああ、おんぎゃああ」
赤子の泣き声が和室に響き渡る。
その泣き声を聞いた男は安堵し、妊婦はそんな男を見て微笑みかける。
泣きじゃくる赤子を見て笑顔を絶やすことなく見守る三人の男女。
そしてそんな三人を見つめようと頑張っている二つの
しかし生まれたばかりの瞼は赤子にとっては重く、一ミリたりとも開くことができない。そんな眼に映るのは暗闇だけだ。
そんな彼にとって情報を集める
情報を得るために今だけは聴覚が大人以上の力を発揮していた。
(俺は軽自動車に惹かれて死んだはず……つまり俺は転生したのか!? 聞こえてくる声は、両親と思わしきものと、もう一人だけ、つまり病院での出産ではないってことか……最低でも現代転生ではないな)
赤子の身に宿った魂は、ファンタジーへの知識があるオタクの物だ。
そして彼の思慮深い性格が、転生というイレギュラーな事態に対しても冷静に対応させた。
「霊華様、こちらが赤ちゃんです」
「これが私の赤ちゃん……」
女は抱えている赤子を母の腕の中へと移した。
母の腕の中に抱えられた赤子は本能が動かしたのか、中にある魂が動かしたのか、近くにあった母の指を握った。
「
(これが母のぬくもりか……なんか懐かしい気がするな。前世で母と触れ合ったことなんてほぼ記憶にないはずなのに、懐かしいと感じるのは人間としての本能なのか?)
「そうか」
「そわそわしなくてもすぐに抱かせてあげますから」
そう言って母は煉斗と呼んだ男へと赤子を渡した。
男の手に渡った瞬間、赤子の泣き声が部屋の中に響き渡った。
(なんで泣くんだ!? 俺を抱いている男は父親のはずだろ? 流石に父親が可哀想だ)
魂は身体に泣き止めという命令を送るが、身体は拒否して泣き止まない。
身体は、魂では分からない何かを男から感じ取っているからこそ、泣くことでそのことを伝えている。
しかしその原因が何であるかは、五感の内の聴覚しか支配できていない彼には分からなかった。彼に分かるのは、父に抱かれている間は泣き止むことはないということだけだ。
(……諦めるしかないな。父親よ、俺の身体が拒否しているんだ。だから俺を抱くのは諦めて、母親に返してくれ)
魂の気持ちが伝わったのか、父は母へと赤子を返した。
母の腕の中に移ると共に赤子の声も止まっていく。
「れいと、この人は貴方のパパなんだから、あまり泣くのは止めてあげてね」
(れいと……漢字は分からないが、前世と同じ名前なんだな……眠くなってきた。これがゆめじゃないことをいのt――)
生まれたばかりの赤子の肉体は限界を迎えた。エネルギーが尽きた肉体は意識を強制シャットダウンさせた。
母と父、和服を着た女は優しい視線を眠る赤子に送っていた。
◇◇◇
転生した彼にとって一つの誤算があった。
それは、次に彼の意識が表に出てきたのが一歳になった時ということだ。それまでの間は、赤子の本能が身体を支配していて、彼の意識は一種の休眠状態に陥っていた。
目が覚めた彼の意識は肉体が急激に成長したと勘違いしていたが、親の雰囲気などから意識がなかっただけだと気付くことはできた。
しかし魂はからすれば、肉体は急激に大きくなったも同然であり、肉体を操るのに苦戦を強いられることになる。
(せっかく赤子のころから知識を持っていることをアドバンテージに使おうと思っていたのに、身体の掌握にここまで苦戦する羽目になるとは……)
「あら起きたの?」
「あー」
「はいはい、どうしたのかしら?」
肉体の掌握が済んでいないせいなのか、彼はまだ言葉を発することはできない。ただ遅れ過ぎているというわけではないため、悩む必要はないのだが、前世が高校生の魂は言葉を話せないことに対して悩んでしまうのは仕方のないことだ。
彼は母の霊華によって抱きかかえられた。母のぬくもりに包まれた彼は安心感から、言葉を話せない悩みなど吹き飛び、睡眠欲が肉体を支配していった。
(言葉はまたの機会でいいか――)
◇◇◇
「れい、準備はできたかしら?」
「はい、母上!」
彼は五歳になった。
今の彼にとって世界とは家の敷地内で完結しており、家の中に飾られているクナイや日本刀、家に出入りする人間の服装が和服であることから、転生先は戦国時代だと確信していた。
オタクな彼は戦国時代に対しても常人以上の知識を持ち合わせている。そのため、この四年間は記憶から情報を取り出す作業に費やしていた。
その甲斐あって彼は鎌倉、室町、戦国、安土桃山、江戸のどの時代だろうと、大きな出来事は把握できるようになっており、技術の面に関してもかなりのアドバンテージを取れるようになっていた。
そして本日、彼は世界を広げる。母は彼に家の外に出かけるとだけ伝えている。
その想像力を掻き立てられるような説明は、家の外にはどのような世界が広がっているのか、日本を統治しているのは源か、北条か、足利か、細川か、三好か、織田信長か、豊臣秀吉か、徳川かなどワクワクさせる。そして彼は誰が統治者であろうと自分の力で成り上がって、天下を治められる自信があった。
「これから行くのは東京にある江戸忍者スクールよ」
生まれた家がある山を降りた彼らを待っていたのは、真っ黒なアウディだ。
そして周りを見渡せば耐震設備がしっかりした現代の建物群が見える。
(まさか閉鎖的な家に産まれただけで、現代に転生したのかよ!!!)
彼の悲痛な叫びが声になることはなかった。
――あとがき――
忍者が好きな人集まれー
この作品は忍者同士の戦い、
皆様にお願いです。
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それだけで私は満足します。
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