魔王様は勇者がお好き【KAC20255】

神美

第1話

 俺の目の前にいるのはこの世界に並ぶ者がいない(俺以外)強さと魔力を持つ、魔族の王――つまり魔王だ。

 魔王は長い赤髪と長い角を持つ長身で見た目はなかなかのイケメンだ。


「勇者、お前は相変わらず可愛いな」


 一方、俺は魔王と並ぶ天下無双である勇者。魔王より背は少し低いが魔王には毎度『可愛い』と言われる。つまりは魔王が俺を好いているからだ。

 かく言う俺も宿敵である魔王が好きになってしまい、こうして仲間の目を盗んで魔王城に遊びに来てるわけだが。


(これじゃ、永遠に決着はつかないんだけどな)


 人間の世界を魔族の脅威から解放するために俺は勇者となり(でも強制的に仕立てあげられたとも言える)魔王を倒して世界平和を目指している。


「なんだ? 今日は私の膝に乗らないのか? ここはお前専用なんだぞ」


「ちょっと考えごとをしてんだよ」


 だがお互いがこんな感じだ。戦う気はさらさら起きないし、なんなら魔王が滅んだら俺がさびしくなる。


「さてはまたつまらん事を考えてるな? 別にいいじゃないか。周りは周りで戦い、私達はのんびりしていれば」


 魔王らしからぬ言葉に俺は吹き出してしまう。一応、罪悪感は抱いているのだ。勇者としては……。


(けど、俺は――)


「お前は勇者である前に一人の人間。私はお前が望む事をすればいいと思うが?」


 宿敵であるはずの魔王が、俺が一番欲しい言葉をくれる。罪悪感と嬉しさは俺をいつも悩ませる。苦しい、でも嬉しい。どちらの感情も湧き上がるといつも涙が出そうになる。


「……泣くな泣くな、ほら」


 魔王は豪華な玉座から立ち上がり、俺の手を取ると片方の手を腰に回させた。


「お前は考え過ぎだ」


 魔王はそう言い、笑みを浮かべて足を横に滑らせるようにステップを踏む。

 教養のない俺はそれにならうように動きを合わせ、ぎこちなく動く。この時間がいつもたまらない。この世界に魔王と俺だけ、二人だけという気がして、ひとときの幸せなのだ。

 そんな俺を見て魔王は「ふふっ」と笑う。


「お前のダンスはヘタだな」


「うるさい」


「だが私が一番心落ち着くパートナーだ」


 頬がカッと熱くなる。魔王はいつも俺を見透かす。そして俺を喜ばせてくれる。


“では次は布団ベッドでのダンスといこうか”

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