episode:3 脱出作戦

「アレの正体は──くねくねだ。」


「くねく・・・・・・」

「くねくね?!!」


尋ねようとすると葵が被せてきた。どうやらようやく視力が回復して落ち着いてきたらしい。


ちなみに、紬はどうなのかというと、ガチの心霊現象を目の当たりにしてさっきからずっと部屋の隅で丸まってフリーズしている。


「くねくねっていうのはね、畑とかに出る、くねくねと変な動きをしてる怪異の事。遠くから見るぐらいなら平気。けど、近くで見ると・・・・・・ダメ。その姿をはっきりと認識した瞬間、正気を失うの。一時期ネットで流行ってたの。」


葵はペラペラと捲し立てて話す。この状況でテンションが上がっているのか、前より早口だ。早口すぎて、気を抜くと何を言っているのか訳がわからない。2倍速で流れる呪文の意味を理解するために、俺の集中力をほぼ使い果たしてしまった。


「だいたいそれで合っている。さっき閃光弾を投げたのは、あの姿を間近で見られるとまずいからだ。」


なるほど、と頷くが、そこで俺はある事に気がつく。


「待って、それなら、春野はくねくねとかいう怪異だったってことですか?」


「そこが都市伝説と現実とで違う。俗にくねくねと呼ばれている物は、その本体によって精神を侵された物のことだ。一度でもその本体を見た者はそれに精神を侵され、くねくねと踊り出すようになる。」


「つまり、春野はその本体を見たから、くねくねな精神を侵されたってことなんですか?」


「それはわからん。怪談の方と照らし合わせるとわかると思うが、このミーム汚染は、くねくねと踊る人を見ることでも感染する。」


なるほど、大体分かった。

──ただ、そうなると、彼らの重装備の理由が気になる。


ミーム汚染されたとはいえ元は人。そこまでの装備が必要とはとても思えない。


「──なんでそんな重装備なんですか?」


俺は浮かんだ疑問をそのまま男にぶつけた。


彼は、はははと豪快に笑う。


「やけに勘がいいガキだ。」


彼はまたもやはぁとため息をつく。


「パニックとかになったら面倒だから、ここまでいうつもりなかったんだがな。」


彼は真剣な面持ちになる。


「この建物には、その本体がいる。」


隣フリーズしていた紬の顔が真っ青になっていく。発狂するのも怖くなってきたのか、無言でブルブル震えている。


「まあ、だからこそ俺らが来たわけだし、あんま怖がるなよ。」


俺はふと頭に浮かんだ疑問を投げかける。


「そういえば、あなた達って、何者なんですか?」


彼が答える前に、横にいた女性が待ってましたと言う顔で答えた。


「今回みたいな異常に対応する専門組織、ORDOの特殊機動部隊だよ。」


言われて見れば、彼の腰には刀が掛かっているし、戦闘員なのは間違い無いのだろう。だが、


「・・・・・・全く聞いたこともない組織なんですが。」


「そりゃそうだよ。外部に情報が漏れないよう徹底しているから。仮に知られたとしても、即記憶処理だし。後で君たちにもやるけど、痛みとかはないから、安心してね。」


・・・・・・安心して、と爽やかな笑顔で言わないで頂きたい。


断言しよう。今のを聞いて安心できる人間は誰一人いない。


「さて、今話せる情報はこんなところだ。これで満足か?」


「はい。」


「よし、なら、お前らは来栖と一緒に外に出て、記憶処理だけ受けてさっさと帰れ。くねくねは俺らでなんとかする。」


「なんとかするって、対抗、できるんですか?春野は、どうなるんですか。」


「安心しろ。俺たちは、人間だが、。餅は餅屋、だ。任せておけ。」


「話、終わった?じゃ、もう行くよ。」


さっきの女性が食い気味に話に割り込んできた。多分、この人が来栖、だろう。


「それじゃ、私についてきて。」


俺は恐怖で動けなくなっている紬を背負い、来栖さんの後に続いて歩き出した。



「私からあんまり離れすぎないでね、効果切れちゃうかもしれないから。」


来栖さんは歩きながら言う。


「効果、ってなんですか?」


「私、No.404 NOT FOUNDっていう異常存在アノマリーなんだよね。」


「異常って、人じゃないって事なんですか?」


「うん。人外だよ。」


呟きながらそう笑う彼女の顔は、なぜか一瞬だけ切なさを帯びたように感じた。


「No.404、ってどういう能力なんですか?」


「対象を、この世界に存在していない事にできる能力、かな。簡単に言えば、認識阻害と、物理攻撃無効の究極系だね。だから、こういうのには私が一番向いてるの。」


なんかこの人、戦闘向けじゃないんだよねー、みたいな雰囲気を出しているけど、普通にクソ強くないか?普通に無双できそうな能力なんだが。


「あの人達も、アノマリー、なんですか。」


「そうだよ。と言っても、私みたいに人に能力が宿ってるタイプじゃなくて、アノマリーを利用するタイプの人もいるけどね。」



「・・・・・・見つけた。」


この特殊機動部隊を率いているリーダー、長谷部克俊は、そう呟いた。彼の目の前には、ゆらゆらと揺れ動く半透明の霊がいた。


──そう、これこそがくねくねの


俺は前に出ようとする隊員を制し、くねくねに近づいた。


『ナンダ?オマエ。効カナイナ、ナゼダ?』


くねくねは困惑して、首を直角に折り曲げる。


なぜ俺たちに効かないのか──。

その秘密は、ORDO特製ミーム汚染対抗薬。ミーム汚染を防げる優れものだ。


「対象を発見。これより、鎮圧を開始します。」


無線に向かって、小さく呟き、深く息を吐く。


あのガキどもにはあんな事を言ったが、実際は今回の仕事はかなり危険だ。そもそもの話、くねくねというのは山の怪、元は山の神様として崇められていたような存在だ。弱いわけがない。


当のくねくねは、というと、空中で揺れながら、俺たちのことを嘲笑うかのように腹を抱えていた。だがその笑いには、人間のような感情が感じられない。


当たり前だ。


アレは、人間の感情を真似て遊んでいるだけだ。


『マサカワタシニ勝ツツモリカ?ニンゲン如キガ。』


その声すら人の形をしていない。


「あまり、舐めないで欲しいものだな。」


俺は、腰に掛けた刀に手を伸ばした。



────────


《ミーム汚染》


某財団をよく知ってる人ならわかると思いますが、一応解説。


超大雑把に解説すると、ミームとは、今回のくねくねみたいに精神汚染してきて、それを周りに広めようとするやつらのことです。


正式な定義を言うと、ミームとは「人の行動や思考に影響を及ぼす要素」で、ミーム汚染とはそれを強制的に他者に伝染することを指します。



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