人型重機リーゼンパンツァー火星侵略編
雪風摩耶
第1話 序章
国連事務総長、武井太郎は執務室の椅子に座り、一冊の古びた書類に目を通していた。一通りのページに目を通すと彼はそれをテーブルに丁寧におき、深く息を吐いた。
「これを使うべき時が来たということか」
彼は独りごち、席を立ちテーブルの背後にある窓の前に立った。
その窓の外には大きな山がそびえ立っていた。
ヒマラヤ山脈である。
西暦2028年の大災厄後、被災したニューヨークから比較的被害が小さかったチベットにその拠点を移したのは政治的な思惑も多分に含まれてはいた。しかし表向きの理由、裏の理由どちらを抜きにしても、武井がテーブルに置いた文章の影響が大であることはその資料を見たことがある物なら誰でも納得することだった。
「明石レポート」。
その資料はそう命名され、代々の国際連合の事務総長に引き継がれてきていた。
歴代の事務総長は最優先事項として申し送りされてきてはいたが、その内容故に常に先送りされてきた経緯がある。
しかし、人類の行く先に未来を見えない今、人類の団結を進めるための役に立てる時が来たと武井は判断した。
あらためて、武井は「明石リポート」に目を通した。
そこに記されているのは、人類以前の地球人の星間戦争の歴史、そしてその敵。星間戦争にまつわる兵器群、第二次世界大戦下で行われた戦闘、秘密結社「百目」と「石切場の賢人」。出来の悪いSFとしか思えない内容がぎっしりと詰め込まれていた。しかし、これが事実だということはフランスのオーブリオン財閥、日本の冷泉院財閥からも同内容の情報が提供され、かつ2034年のNASAの報告書、火星で回収された「ザ・ダイアリー」と呼ばれる日本語で書かれた日記、全ての情報をつきあわせればつじつまは合っていた。結果信頼できる情報として扱われていた。
文章に一通り目を通した武井は眼鏡を外し、疲れた眼をもみほぐした。そしてそのまま窓際に立ち再びヒマラヤ山脈を見上げた。
今武井太郎がたっている場所は「ポタラ宮」。かつてこの宮殿の地下には「鬼」と呼ばれた敵性兵器の残滓が眠っていた。それは国連という組織を維持するための資金を得るため、各国に切り売りされていた。
「人工筋肉」。鬼の内部に残されていた人類には未だ開発できない、効率的な駆動システム。それを兵器に転用されることを承知の上で国際連合は売りさばき、その組織維持に使用していた。人工筋肉は「人型重機」「リーゼンパンツァー(RiesenPanzer)」と呼ばれる人の形を模した兵器に使用され、人間と同等かそれ以上に柔軟性を持つ動きを可能とさせた。その人型重機を各国は戦車に変わる陸戦兵器の主力として配備を進めていた。
そしてその兵器は大災厄後の食料、資源を奪い合う世界戦争一歩手前の世界で間違いなく戦争の主役になるはずだった。武井はその戦争を防ぐために明石リポートを使い世界共通の敵を想定し、国家間の戦争を防ごうと画策していた。
すなわち、地球人対火星人。地球対火星。敵の敵は味方の論理を利用し世界各国共通の敵に意識を向かわせることで地球人同士の争いを防ごうというのである。
世界平和を期待して組織された「国際連合」は今や形骸化した原因になったあの日のことを武井は思い出していた。
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