源之助と健吾のフドウについての会話

「源之助」―人間の言葉を理解し話す猫。一種の化け猫の類で、悪霊と対峙できる力を持つ

「健吾」―悪霊を浄化する力を持つ男。源之助と組んで探偵のような事をしている。

興味のある方は、本編の「猫の悪霊退治」をご覧下さい。




源之助(以下、源)「おい!!健吾」


健吾(以下、健)「なんだよ」


源「前々から気になっていたのだが、あのオマエのフドウとはなんなのだ?」


健「何って、何が?」


源「実態のない幽霊みたいな存在で、人の形をしている」


健「そういうなら、オマエのあの巨大な猫の形したのも同じだろ」


源「ああ、結局この霊的な、形をなしたものは何なのだ?」


健「一般的には霊体と呼ばれる物の一種だと思うんだがな」


源「だが、普通に言われている幽霊だとかの霊体は、本人の姿をしているだろう」


健「たしかに、オレ達のは本人の姿とはかけ離れているな」


源「まったくの別人だ」


健「それに炎を出したり、特殊な技とかを使ったりするしな」


源「ああ、本人にできない事ができたりするだろう」


健「そうだけど、霊的なものにしか通用しないだろ」


源「どういう事だ?」


健「フドウが使う炎は、悪霊しか焼いていない」


源「そう言えば、周りの物も一緒に炎が包む事があるが、影響を受けていないな」


健「ああ、バラバラ殺人の時は、悪霊と一緒に屋上の柵とかも一緒に焼いてたけど、変わりなかったしな」


源「なんだ、そんな物まで焼いたのか?」


健「いや、悪霊を引き剥がした時に、柵の近くまで飛ばしたからな、たまたまだ」


源「悪霊を焼いた時に巻き込んだという事か」


健「ああ、お化けトンネルの時に悪霊を焼いた時なんかは、周りに雑草とかが生えてたのに、一切焼けてなかったぞ」


源「つまり、我々のアレは霊的なもの以外には影響がないのか」


健「たぶん、物理的な影響や物質的なものへの影響もないんだろうな」


源「本当に霊的なものにしか影響がないようだな」


健「だから、フドウとかは悪霊とかと同じ霊的なものだと言えると思うけど」


源「なら、フドウや私のアレはなんなんだ?」


健「オマエにわからないのに、オレにわかる訳ないだろ」


源「まあ、たしかにな」


健「ただ、人間の学問の中には、神智学というのがある」


源「なんだそれは?」


健「オレも詳しくはわからないが、霊的なものや神様、世界などの神秘的なものとかを研究する学問だな」


源「そんなものがあるのか?」


健「まあ、オレもよくわからない部分が多いんだけどな」


源「それで、それと私達のアレと何が関係あるのだ?」


健「神智学では、人間の霊体には複数の種類があるそうだ」


源「どういう事だ」


健「霊体っていうのは、複数の身体が重なり合ってできているって言われている」


源「複数の身体?」


健「提唱者にもよるみたいだけど、神智学では人間の身体には肉体、エーテル体、アストラル体、メンタル体、コーザル体、ブッディ体、アートマ体、モナド体という種類があるらしい」


源「その身体が重なり合っているという事か」


健「ああ、肉体はともかく、霊体は7種類の身体が重なり合ってできているんだそうだ」


源「なんかイメージわかないな」


健「たしかによくわからないよな。まあ、服を重ね着しているみたいな感じじゃないか」


源「そんな適当な感じなのか?」


健「知らないけどな。で、たぶんオレ達のフドウとかは、この複数ある霊体の一つとかじゃないかと思うんだよな」


源「その、なんとか体とかいうののどれかなのか?」


健「まあ、霊体の7種類だって証明されたわけではないし、他にも霊体を構成しているものがあるかもしれないからな」


源「つまり、7種類の霊体以外の何かだという事か?」


健「8種類目の霊体かもな」


源「新しい発見というわけか?」


健「いや、一応霊体には7種類あると言ったけど、いろんな説があるみたいだからな」


源「なんだ、ハッキリしないな」


健「まあ、仮説でしかないし、霊体の事なんて証明しようがないからな」


源「結局わからない、という事か」


健「まあ、そうだけど、オレ個人としては、複数ある霊体の一部が剥がれ落ちて形を成した存在って考えてるけどな」


源「つまり、重ね着した服の一枚を脱いで動かしてるって感じだな」


健「ああ、さっきの例えで言えばな」


源「私達本人と姿が違う理由はなんだ?」


健「さぁな、ただ、霊体とか霊的な物ってのは精神が大きく作用するものらしいからな」


源「だから何なのだ?」


健「本人の意識とか精神とかの影響を受けている可能性があるって事だ」


源「精神の形といったところか」


健「イメージの具現化みたいな感じか」


源「なんか、カッコいい言い方だな」


健「まあ、本当のところはわからないけどな」


源「炎を出したりなどの、特殊な能力もイメージによるものか?」


健「まあ、オレ達の特性みたいなのが形になっているんだろうな」


源「あのフドウの姿がオマエの性質だという事か」


健「まあ、そういう部分がオレの中にはあるって事だろうな」


源「あの姿がか?」


健「まあ、あの全身黒くて、黒いコートを着ているような姿はよくわからないけど」


源「けど、なんだ」


健「足のブーツぽい部分は、足先とスネの部分に甲冑の鉄板のようなものが付いてるし、両手も手甲のような金属っぽい物がついてるからな」


源「だからなんだ?」


健「まあ、素手の武術を主に訓練してきたから、主に使う部位が強靭になってるのかもしれないって事だ」


源「なるほど、素手で戦う時の強さの表現といったところか」


健「そんな感じかもな」


源「フドウの肩のあたりにも金属っぽい部分があるが、あれは体当たりのためか?」


健「そう言えば、たしかに肩の部分にも金属の部分があるな。オレの使う武術は八極拳だからな、八極拳の貼山靠という体当たりの技とかに対応しているって事かな」


源「顔にも仮面のような物をかぶっているな」


健「そう言えばそうだな」


源「仮面の真中には、変な文字のようなものが書かれているが、意味あるのか?」


健「俗に言う梵字ってやつだな、意味はわからないけどな」


源「自分でも、わかってないのか」


健「ああ、なんか意味があるかもしれないけど、わからんな」


源「両腕の炎も、オマエの特性か?」


健「それもわからんけど、悪霊を浄化するイメージが炎なんじゃないか?」


源「オマエのイメージという事だろう」


健「まあ、そうだけど」


源「左右の腕についている炎は特性が違うようだな」


健「ああ、右手首についてる炎の塊は、刀の形に変形するな」


源「当然、刀の用途と同じで斬るように使っているな」


健「ああ、これはオレが劈掛刀という中国の刀術や日本剣術を学んだ影響だろうな」


源「素手の武術以外にも、刀術も学んだのか?」


健「まあ、中国の武術では、武器術も並行して学ぶのが当たり前だからな」


源「だから、刀の形になるのだな」


健「形は明確に定まっていないから、違う形にする事はできるかもしれないけど、今のところは刀の形だけだな」


源「左腕の炎は、縄のように腕に巻き付いているな」


健「そうだな、使い方も縄やムチのような感じだな」


源「実際には、ヘビのように動いてたようだがな」


健「オレの意思で自由に動かす事ができるな」


源「巻き付いた後、悪霊を焼いたりもしていたな」


健「まあ、おれのイメージに合わせて、ある程度使い方に幅があるって事だろうな」


源「なるほど、フドウという名前はなんだ?」


健「ああ、名前は不動明王からとった」


源「不動明王とは、仏教の仏だな」


健「フドウの見た目が不動明王に似ていたからな、そう名前をつけた」


源「ただ似てたから名前をつけたのか?」


健「ああそうだな」


源「その割には、呼び出す時に不動明王の印を組んだり、真言を唱えているな」


健「フドウという名前を付けた後からなんだが、ああいう事をした方が呼び出しやすくなったんだ」


源「名前を付けた後なのか?」


健「たぶん、オレの中に不動明王のイメージが刷り込まれたんだろうな」


源「じゃあ、不動明王という仏とは関係ないのか?」


健「神様や仏様が実際いるかどうかは知らないけど、フドウについては関係ないと思う」


源「不動明王を呼び出したりしているわけではないのだな」


健「実際のところはわからないけど、オレが印や真言を唱えるのは、スポーツとかのルーティンのようなものだな」


源「仏は関係なしか」


健「まあ、オレ自身が気付いてないだけで、もしかしたら力を貸してもらってるかもしれないけど、不動明王に会ったり感じたりした事はないな」


源「つまりは、フドウが何なのかについては、仮説止まりといった事だな」


健「まあ、そういう事だ」


源「ただ、霊的な存在だという事はたしかなようだな」


健「ああ、悪霊のような霊的な存在は、物理的な肉体では、触れる事ができないけど、フドウなら直接攻撃ができる」


源「霊的な存在だという証明という事か」


健「まあ、そうなんだけど、実際的に悪霊に対処できる唯一の方法だな」


源「霊力や除霊というものを、ビジョン化した感じか」


健「そうだな、霊能者が除霊しているところとかはテレビとかで見た事あるけど、見た目には何やってるかわからないからな」


源「たしかに、御経を唱えてるだけにしか見えないな」


健「明確に悪霊に対して、何をしているのかがわかるし、悪霊と戦って浄化させているのが見ていてわかりやすい」


源「それは、読者がか?」


健「読者ってなんだ?」


源「いや、なんでもない」


健「もっとも、霊的な物が見えない人間には何をやってるかわからないだろうけどな」


源「印を結んで真言を唱えた男が、ただ突っ立っているだけだからな」


健「まあ、そうだな」


源「それって、テレビとかの御経を唱えてる霊能者の除霊と変わらないんじゃないか?」


健「たしかに、逆にあの霊能者達も本当はフドウみたいなのを出して戦ってるのかもな、見えないだけで」


源「結局フドウなどが、どういう存在なのかはわからないが、悪霊と戦っている事のイメージみたいなものか?」


健「実際に戦っているから、イメージとは少し違うんじゃないか、ただ」


源「ただ?」


健「細かい姿はともかく、人間の形をしていると戦いのイメージはしやすいな」


源「本体であるオマエが操っているからか?」


健「まあ、オレが武術を習得しているからってのが強いんだろうけど、武術の技とかをフドウで使いやすいからな」


源「たしかに、八極拳などの技を使っているな」


健「ああ、人間の形をしてないと、どう動かしたらいいかわからなくなりそうだ」


源「生身では使えない炎や縄とかはどうなのだ」


健「縄については、流星錘という武器があるんだよ、あんまり練習した覚えはないけど、使い方のイメージはできる」


源「縄のような武器があるのか」


健「ああ、炎についても、刀の形にしてから使ったりしてるからな、オレ的には刀を振っているだけのイメージで、炎を使ってる感じじゃないな」


源「なるほど、あの炎には浄化の力があるのだろう」


健「たぶんな、オレの中の浄化のイメージかもな」


源「浄化のイメージが、炎で焼くという事か」


健「ああ、たぶんな」


源「そう言えば、周りの人間がフドウや悪霊を見る事ができるようになる時があるな」


健「ああ、戦いの時には見れる事が多いみたいだな」


源「何故だ?」


健「前にオマエも言ってただろ、結界の影響だろうな」


源「結界か?」


健「一般的な結界については知らないけど、悪霊の力が高まると周りの霊力が高くなって、周りが霊的な場所に変化するみたいだな」


源「それが結界なのだな」


健「結界という言葉がそれを指す言葉かは知らないけど、霊力が高い場所では、普通の人でも一時的に霊的なものを知覚できるようになるみたいだな」


源「だから、周りの人間が悪霊やフドウを見る事ができるのだな」


健「そういう事だ」


源「結局、私達の力が何なのかはわからないって事だな」


健「まあ、今のところはな」


源「だが、悪霊にたいしては強力だ」


健「ああ、だから今まで通り、この力を使っていくしかないな」


源「なんか、モヤモヤするな」


健「まあ、仕方がないさ、それにこれから先わかる時が来るかもしれないからな」


源「そうなる事を祈るしかないな」


健「ああ」


源「それはともかく、チュルルをくれ」


健「いや、なんでいきなりそうなる?」


源「なんか頭を使ったらカロリーを取りたくなった」


健「なんだよそれ!カリカリでがまんしろ」


源「チュルルが良いのだ!ニャ〜!!」







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猫の悪霊退治<第一部完結> 坂道冬秋 @huyuakisakamiti

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