〜猫ときさらぎ駅~エピローグ

「フゥー、やっと回復しましたか」

私は、きさらぎ駅のホームのベンチに座って呟いた。駅から見える紫色の空を見る。私がここの駅員になって、このように空を眺めたのは初めてであった。



「回復するのに3日もかかるとはね〜」

私は、誰もいないホームで、また呟いた。これ程のダメージを負ったのは数百年ぶりだろうか。



あの大貫健吾という男は、私が想像していたよりも遥かに高い能力を持っていた。いや、それよりも私達と同じ力を持っていた事が驚きである。



「なるほど、管理者でしたか」

私は、また独り言のように呟いた。たまに現世に現れるという管理者。まさか、ここで会う事になるとは思いもしなかった。私は、そう考えていた。



「なかなか楽しいイベントでしたね」

私はさらに呟く。数百年に一度、このように世界が乱れる時がある。そんな時、生きたまま、ここに来る者達が増える事がある。



「川上詩織さんのおかげですかね〜」

そう、現在この世界が乱れている原因の一つが彼女である。厳密には、彼女の行動が世界を乱すキッカケとなったと言える。



「また会う事があったら、お礼を言わないといけないかもしれないですね〜」

そう言いながら私は立ち上がり歩きだす。そして、さらに言葉を続けた。



「川上詩織さんに、いえ、はすみさんにね〜」

私は、きさらぎ駅の出口に向かいながら、遠くで聞こえる笛や太鼓の音を聞いていた。また今回のような楽しいイベントがあるかもしれない。



「それまでは、彼等と遊んでおきましようかね〜」

途中から心の声を口にしてみる。そう、あのどちらの世界にも行こうとしない、ただ歌って踊って、現実を忘れようとする事しかできない人間達の相手を。



おそらく、私の顔は笑っているのだろう。それは、見ようによっては残忍に見えるかもしれない。



「ふふ、また会いましょう、猫さん達…」

私は、きさらぎ駅から離れながら、小さな声で呟いた。





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