〜猫とお化けトンネル~エピローグ

「オバサンじゃねぇーわ、まずオジサンね」

いつものように、MC芸人の二人は、軽快なトークでスタジオ内のスタッフも含めて笑わせていた。



「はーい、一回止めまーす」

スタッフの一人がそう言って、撮影を一度止めた。スタッフ達は、カメラやマイクのチェックのために、忙しそうに走り回っている。今日は、私、高梨あさ美が所属しているアイドルグループの冠番組の収録だ。



週に一回深夜に放映しているこの番組は、私達グループのファンが視聴する事が多い。



今回は、お化けトンネルのロケ以来、初めての番組収録だったので、少し緊張している。結局あのお化けトンネルのロケはお蔵入りになってしまった。



あんな事件があったのだから当然なのかもしれない。今回の収録も、いつも通り企画に合わせてスタジオのセットが組まれている。



今回は、私達がMC芸人の前に列を作って座る形になっている。この番組では、よくあるセットだ。俗に言うひな壇と呼ばれるセットである。



私は、いつも通り、2列目のMCよりの位置に座っている。この場所で解る通り、バラエティー番組では、それ程活躍できる人間が座る場所ではない。



実際、私自身はバラエティー番組が得意というわけではなく、面白い発言を毎回できるわけではない。



「すまんかったなー、高梨」

撮影が止まったのを見計らって、そう私に声をかけてきたのはMC芸人の一人であった。



「高梨だけでなく、伊藤と伊本、秋越もだよな」

MC芸人の一人は、今回の事件に巻き込まれたメンバー全員に話しかけていた。



「俺がトンネルでロケしようとか言ったから、今回の事件に巻き込まれた訳だしな」

そう言ったMC芸人は、すまなそうな表情で頭を下げていた。



「そんな、誰かの責任とかではないですよ」

私は、MC芸人に言う。他の事件に巻き込まれたメンバーも、同じように答えていた。



実際、今回の事件は誰にも予測できる内容ではなかった。私達が事件に巻き込まれたのは、普通に考えれば不運としか言いようがない。



ただ、私に限っては偶然とは言えないのかもしれない。私達は、あの時ハッキリ見てしまったからだ。



犯人である浅井陽一とトンネルから湧き出た、この世のものではない何かを。撮影が決まった時にも感じた事だが、私達はトンネルに呼ばれたのだ。



あの時、大貫健吾と名乗る猫を連れた、風変わりな探偵が撮影に参加していた。少なくとも、私と彼にかんしては、あの場にいた事は偶然ではない。私達は、浅井陽一を止めるために呼ばれたのだろう。



あの時、私もサブトンについて話した。普段の私なら、あのような時に発言する事は少ない。咲ちゃんを助けるために必死だったからかもしれない。



私は、あの時に発言するために呼ばれたのではないかとも思う。



「撮影を再開しまーす」

そんな事を考えながら、MC芸人と話していた私に、スタッフから声がかかった。



「さあ、次の企画にいってみましょう」

MC芸人がそう宣言しながら、撮影が再開した。まだ、トンネルの話しを引きずったままで、すまなそうな顔をしているMC芸人を尻目に、撮影は続いていく。



何故だろう。いつもと同じ撮影風景のはずなのに、なんだか違ったように見えるのは。なんだか周りが明るく見える。私の中で、何かが変わったような気がした。



相変わらず面白い事を言える自信はないが、なんだか撮影を楽しめそうな気がした。あの風変わりな探偵のおかげだろうか?私は彼等を思い出していた。



「きっとまた会う事になる」

そう呟いた私には、そんな確信があった。





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