5-16
「お疲れさま」
勇者たちから少し離れたところで、タマさんが静かに合流してきた。
この人、結局最後まで人前に出てこなかったな。楽してたんじゃ……という疑いは今さらだし、まあいいか。
「お疲れ様です。……さて、彼ら上手くやっていけるでしょうか」
「ん~、魔物側はね。ドラグノスがわりと前向きだったし、たぶん問題ないと思うわ。もう二千年の実績があるしね。ただ――」
タマさんは肩をすくめて、空を見上げる。
「人間側は……百年くらい経てば、また騒ぎを起こすかもね」
やっぱり、そうなるか。
まあでも、戦争が明日から百年後になるなら、私としては上出来だ。
「でもさ、元々この世界って種族とかバラバラでしょ? そういう場所って、逆に折り合いの付け方を知ってるものなのよ。魔物ともうまくやっていけるかもしれない」
それはきっと、タマさんなりの慰めだったんだろう。おまけみたいに添えられたその一言が、不思議と心にしみた。
「そういえば、タマさんの経歴。私のせいで傷がついたりしてません?」
なんたって失格だ。そうそう取れるような評価じゃない気がする。
「何それ、気にしてるの? そんなのいいのよ。わたくしだって、いつもピカピカの成績だったわけじゃないし。……失格は初めてだけど」
「ほんっっっと、すみません!」
顔を見合わせた瞬間、私たちは吹き出した。タマさんの笑い声は思いのほか軽やかで、私の胸のつかえも少しだけほぐれた気がした。
「それにしても、神様もケチよね~。あれだけ面白かったんだから、少しくらい色付けたって良さそうあのにね」
「……面白かったですか? あれ」
「ええ、武器を手にしたあたりから。あなたの本気が全開だったじゃない。わたくし、腹抱えて笑っちゃったわ」
そっか、笑ってたんだ……
「じゃあ、タマさんもエクスカリバカヤロー、いっちゃいます?」
「え、遠慮しておくわ。貴女は真剣だったのよね、ごめんなさい」
まあ、私も怒っているわけではない。お約束ってやつよ。
そんな事よりも、ここまで匂わされたのだ。この話題を振ってもいい筈――
「……あの、物語説って話。タマさんも知ってますよね?」
ファンファーレはとっくに鳴り終わってる。今はもう
「あら、あなたも? でも見習いでそこまで知ってるなんて……誰に聞いたのかしら?」
「シルバーさんっていうワーカーの人から。ひとつ前の仕事で一緒だったんです」
「あー、彼ね。……まったく、口の軽い男。あの調子じゃ、そのうち神様にバレるわよ、ほんとに」
知ってたんだ、シルバーさんのこと。
ていうか、あの人そんなに軽かったのか……。
「でもまあ、彼のことだから、考えあってのことだとは思うけどね。……とりあえず、今持ってる情報を少し整理してみましょうか」
ということで、私たちは互いの物語説に関する情報を共有した。
「ふむ、こんなところかしら。あとは……貴女はさ、今回の仕事が物語だとしたら、ジャンルは何だと思う?」
「ジャンル、ですか?」
「そう。たとえばファンタジーとか、ホラーとか、そういうやつ」
ああ、そういう意味か。
「タマさんが言っていたように、典型的なヒロイックファンタジーですかね?」
私がズタボロに壊したわけだけど。
「そうね。でも、それにしては能力が随分大盤振る舞いで、貴女が強くなりすぎたせいでパワーバランスが壊れて、ストーリーまで崩壊した」
誠に申し訳なかったと思っております。
――じゃない、まさか?
「素人が用意した物語……ってことですか?」
「そう。言い方はあれだけど、私も同じように感じたわ」
神様が一人じゃないことの新しい証明?
いや、未だ新人の神様が追加されているかもしれないという事実?
なんだろう、凄くぞわぞわする感じがする。
「本気で物語説を考えている連中は、こういう実例をすごく欲しがるのよ。だから、今回の仕事はちゃんと覚えておくといいわ」
覚えておくも何も……忘れようがない。とはいえ、恥ずかしいところだけカットした短縮版は作っておきたい。
「本気でって、タマさんは違うんですか?」
「んー、私はついでね。生き返ったときに、どうなるか気になるから、ちょっと情報を集めてるだけ」
その後のトーンは、少しだけ低くて――自嘲混じりだった。
「わたくしはただ、置いてきた子供たちに会いたいだけなのよね……」
「そう……ですか」
生き返りたい理由って、本当に人それぞれなんだな。
「だから、真面目に調べている連中言ってるスコープとか、そういうのどうでもいいのよ」
「スコープ……ってなんですか?」
「あら、シルバーから聞いてないの? スコープとか、範囲とか、領域とか……わたくしはよくわからないけど」
今回も領域に関するいざこざがあったけど、それとは関係ないよね?
「まあ、仕事を続けていれば嫌でも耳にするようになるわ。深掘りするのはそのときにでも」
それっきり、タマさんは話を切り上げてしまった。本当に興味がなさそうだ。
「さ、そろそろ帰りましょうか」
タマさんが端末を操作すると、帰りの扉が出現した。。
「あっ! このハリセン――エクスカリバカヤロー、持ったまま来ちゃいました。どうしましょう?」
私は右手の黄金のハリセンを掲げて見せる。
……これ、結構便利なんだよね。欲しいかも。
「持って帰っていいわよ。変なところに捨てるよりマシだと思うわ」
「え、いいんですか!?」
お、ラッキー……と思いきや。
「ただし、神様の街に異世界の物を持ち込むと、神様が勝手に処分するの。ある日気づいたら、なくなってるわよ」
なんだ、残念……
そういえば前、宇宙行ったとき借りた衣装もいつの間にか消えてたっけ……
「でもね。噂でしか聞いたことないのだけど、そういったものを持ち帰れるように、連絡端末を改造できる技術者がいるって話があるのよ」
「それって、本当ですか?」
「さあ? 私は眉唾だと思ってるわ。……さて、行きましょ」
タマさんが扉に向けて一歩踏み出す。
「はい。タマさん、またご一緒できるのを楽しみにしてます」
「ええ。わたくしも、貴女とのお仕事は結構良かったわ」
そう言って、私たちはこの世界を後にしたのだった。
【 第五話 ドラゴンバスター 了 】
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