第8話……『レオの地図』

1️⃣レオの記憶


レオは川辺に自作の地図を描いてくれた。手作りの紙に、土と水で記された流路と岩の位置。


「ここ、昨日音が違った場所。深い音がしてた。あれは“空洞”の音だ」


その直感が、ただの勘ではないと俺は感じていた。与一に地図を見せると、彼も黙ってしばらく眺めてから言った。


「……試してみる価値はあるな。ただし、お前が責任を持て」


「責任……?」


「その少年を連れていくなら、安全も、成果も、お前が見届けろってことだ」


2️⃣アンヘラの過去


酒場の片隅で、アンヘラと再び会った。


「レオは小さいころ、両親を盗掘の事故で亡くしたの。だから、川と石の音には敏感なのよ」


彼女はタバコに火をつけながら、静かに語った。彼女の中にも、弟を守るための火が宿っている。俺はその強さを羨ましくも思った。


3️⃣与一と“パコ隊長”


翌日、鉱山の詰所に一人の男が現れた。がっしりとした体に傷だらけの腕、鋭い目つき。迷彩柄のシャツと重いブーツ。


「与一、久しぶりだな」


「……パコ。わざわざ来たのか」


パコ隊長──元特殊部隊出身で、現在はメデジン郊外で“ある訓練施設”を運営している男だ。


「ここ数ヶ月、ムゾー周辺のマフィアが動いている。裏の買い手も変わった。……対策、考えてるか?」


「頭では分かってる。けど、武装すると向こうも本気になる。緊張感が増すだけだ」


「そうか……お前がそう言うなら」


パコは立ち上がったが、その時ふと俺を見て、笑った。


「お前の坊や、目がいいな。もし気が向いたら、メデジンに遊びに来い。……教えてやれることがある」


「……は、はあ」


その時はまだ、俺も与一も、この言葉の意味を知らなかった。


──そして、誰も、与一がこの数ヶ月後に命を狙われることになるとは。


4️⃣メデジンの街へ


数日後、俺は与一の許可を得て、パコ隊長の招きに応じてメデジンを訪れた。


都市の中心部は驚くほど洗練されていて、高層ビルが立ち並び、ショッピングモールやクラブがにぎわっていた。だが、タクシーで数ブロック外れただけで、街の表情は一変した。


丘陵に沿って無数のレンガ造りの掘っ立て小屋が広がる──いわゆる“バリオ”、貧民街だった。


「ここでは、選択肢は三つしかない」とパコが言った。「強盗になるか、コカインの運び屋になるか……あるいは、殺し屋になるかだ」


メデジンでは、多くの少年たちが10代前半でギャングに加入し、命を懸けた“仕事”に手を染めていく。その中でパコのような元兵士が、わずかながら“別の道”を教えようとしている現実。


「与一のように、合法なビジネスで稼ぐ男は珍しい。だからこそ狙われる。エメラルドはな、コカインより足がつきにくくて、換金性が高い。……それを奴らが放っておくと思うか?」


俺は初めて、与一がどれだけ危うい場所で戦っているかを理解した。


そしてパコは言った。

「もし何かあった時は、ここへ来い。お前に教える準備は、もうできてる」


その眼差しに、冗談の余地はなかった。


★次回予告:第9話『地図の奥へ』


地下水脈の先に広がる空洞


最初の“本物”との出会い


レオの運命と、俺の決意

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