名前負けしてるモテない王子様、無自覚に王子様ムーブして美少女達から迫られる
さばりん
第一章 手助け王子の新しい出会いと日常編
第1話 白いワンピースの少女
春のポカポカとした陽気が漂う四月中旬。
この春から高校一年生になった
自転車を漕いで川沿いの道に出ると、穏やかな生暖かいそよ風がそよぎ、王子の頬を撫でていく。
堤防沿いの桜並木は葉桜に彩りを変え、新緑の青々とした草が生い茂り始めた。
太陽が東の空から陽射しを注ぎ、春の晴天に恵まれ、青々とした空が大きく広がっている。
しばらく川沿いの整備された道を走り、川に掛かる幹線道路の大橋近くで王子は一度自転車を止めて、そのまま護岸代わりの草むらを駆け下りていき、橋の下まで向かっていく。
「ニャァー」
すると、突如として一匹の白猫が鳴き声を上げながら、王子を待っていたかのように橋の下から姿を現した。
黄色い眼差しをこちらに向けつつ、王子の元へと近寄ってくる。
「ほーら、ニャン
王子がポケットから猫用のチューブ状の餌を取り出すと、ニャン汰は嬉しそうに前足を上げて手招きしてくる。
ちなみに、『ニャンニャン鳴く太郎』から、この白猫に『ニャン汰』という名前を王子は勝手に付けていた。
何故ニャンニャン鳴く太郎なのかというと、最近視聴しているVtuberが、よく○○+太郎という語尾を使っているため、それをもじらせてもらっただけというしょうもない理由である。
チューブの口を開き、しゃがみ込んで中身をニュっと出して差し出すと、ニャン汰はスンスンと一度鼻先で臭いを嗅いでから、ペロペロ美味しそうに舐め始めた。
王子はこの白猫を見つけてからほぼ毎日、こうして学校に向かう道すがら、エサをあげるのが日課となっている。
「あらぁー。綺麗な白猫ちゃんですねぇ」
ニャン汰にチュールをあげていると、不意に後ろから声を掛けられる。
後ろを振り返ると、そこには白いワンピースに身を包んだ美少女が、こちらを微笑ましい様子で眺めていた。
飾り気のない純粋な眼差し。朝日を浴びて、真っすぐに伸びた艶のある黒髪がキラキラと輝いており、まるでおとぎ話の世界から飛び出てきた女神のような神々しい雰囲気を纏っている。
仮にもし、彼女が麦わら帽子をかぶっていたら、ひまわり畑の中心にいても何ら不思議ではないほどに、清楚可憐な少女にその白いワンピースが似合い過ぎていた。
「おはようございます。早朝のお散歩ですか?」
「はい、そんな感じです。そしたらたまたま白い猫ちゃんにエサをあげている姿が見えまして。差し支えなければ、そちらの猫ちゃんを触ってもいいですか?」
手を合わせながら、ニャン汰へ視線を落として遠慮がちにお願いしてくる少女。
「えっ、あぁ……別に構わないけど、多分こいつ野良だから触らせてくれないと思うぞ?」
「おいでー」
白ワンピースの少女は王子の忠告を無視してその場にしゃがみ込むと、優しい声音でニャン汰に対して呼びかけながら、両手を広げて母性たっぷりの笑みを浮かべる。
「ニャァー」
すると、ペロペロおやつを舐めていたニャン汰も、白いワンピースの少女に気が付き、挨拶代わりに鳴き声を上げる。
柔らかな物腰で手を広げる少女に、ニャン太は多少警戒しながらも一歩、また一歩と、白ワンピース少女の元へと近づいていく。
そして、ニャン汰は少女が広げている手の先の香りをスンスン嗅ぐと、危害を加えることがないと分かったのか、足元へとすり寄ったのだ。
「わぁーっ、いい子だねぇー!」
白ワンピースの少女は可愛がるようにして、ゴロゴロと喉を鳴らすニャン太の顎と胴を優しく撫でまわす。
「……マジか」
その光景を目の当たりにして、王子は思わず感嘆の声を上げてしまう。
王子が驚くのも無理はない。
なぜなら、王子でも一度しか触れたことのないニャン汰の身体に、白ワンピースの少女は出会ってたった数十秒で、いとも簡単に触れてしまったのだから。
あっという間にニャン汰の心を開かせてしまった白いワンピースの少女。
ニャン汰がつい甘えたくなってしまうほどに圧倒的母性の持ち主。
何より、撫でられて満更でもなさそうなニャン太の表情がそれを証明していた。
「驚いた。ニャン汰に初対面で触れた人、初めて見た」
王子は驚きのあまり、感心した声を上げてしまう。
「ニャン汰っていうんですか、この猫ちゃん?」
「あぁいや、俺が勝手に名付けただけだ。『ニャンニャン鳴く太郎』略して『ニャン汰』」
「ニャンニャン鳴く太郎?」
「俺の中でのマイブームみたいなものだから、名前については気にしないでくれ」
ここでわざわざ、Vtuberについて深入りする必要はないだろう。
王子は適当にはぐらかして、美少女の足元で撫でられているニャン汰の方へ視線を注ぎながら言葉を紡ぐ。
「この辺りに住み着いてる野良猫で、俺が会った時はすごくやせ細って衰弱しきってたんです。今にも餓死しそうで可哀そうだったので、猫用のエサをあげたら、それ以降懐かれちゃったんですよ」
「そうなんですね。もしかして、いつも毎朝エサをあげに来ているのですか?」
「まあ基本は。家では飼えないのでせめてもと思って、こうして学校に行く前にご飯をあげに来てるんです。学校がある日限定ですけどね」
両親が猫アレルギー持ちであることや、そもそも既に
似た者同士、意気投合して仲良くなる可能性も否定はできないけれど。
「小さい命を慮ることが出来る優しさ、恐れ入ります。ニャン汰もこんな素敵なお兄さんに助けて貰えて幸せですねー」
白いワンピース少女は、足元で撫でられたままのニャン汰に向かって語り掛ける。
ニャン汰はご機嫌な様子で、王子が手元に持ったままのチューブ状のお菓子に首を伸ばしてペロペロ舐めながら、「ニャーッ」と返事を返した。
そんなニャン汰の反応を見て、くすっと微笑ましい笑みを浮かべる少女。
「あなたみたいに、何気ない優しさを当たり前のように出来る人って中々いないですから。素敵な方なのですね」
「そういう君こそ、ニャン汰と遊んでくれてありがとうな。凄く喜んでるみたいだ」
「いえいえ、この子、物凄く人懐っこいですから。私も遊べて良かったです」
そう言って、白ワンピースの少女は、
後ろからそっとニャン汰を抱きかかえて持ち上げると、前足を手招くように動かした。
「ご飯をくれてありがとうニャー」
某ポケットのモンスターに出てくる猫キャラクターみたいな声真似をしながら、ニャン汰の心情を代弁する少女。
ニャン汰は少女にされるがままだが、嫌がる素振りも見せずに大人しくしている。
初対面でここまでニャン汰を手懐けてしまうとは、少女は何か不思議なセラピー効果の持つ能力者なのかもしれない。
「そう言えば、まだ君の名前を聞いていなかったんだけど……」
「あっ、ごめんなさい! 申し遅れました。私の名前は――」
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