序章2 そもそも出会いが悪いよ


「リリース」



目の前がまた自然な世界に戻る。聞こえた可愛らしい声は、私の視界を簡単にも暗闇に落とし、そしてあっけなく元の世界に戻す。



「ごきげんよう、、。朝から元気すぎるね。」



私の身体中に手を伸ばす彼女達。腕も足も首も…逃がさないようにかな。抱えるように抱きしめられてたりする。


そんな状況にうんざりしてか分からないけど、無事逃走率は下がったようだ。首元に巻き付いた細めの輪っか。自分じゃゲージを見ることはできないけど、丁度目の前にあった鏡がゲージが2メモリであることを教えてくれる。

だから、今の逃げたいゲージは20%ぐらいってこと。そんなに上がることはなかったんだけどなあ。だから最近の私の頑張りを見て一人部屋で寝せてもらったというのに…はあ、、さっきは興奮して100%に3回もなってしまった。


そんなこんなで目の前の彼女達はしがみついて私を離さないって訳。なんで彼女が私を離さないかって?


私が彼女たちの運命(笑)らしいのよ。

バカらしいね!


運命っていうのは、言葉通り【運命の相手】つまり…子作りしたいらしい。



私達は女性だよ。そう、女性のみのパーティなんだ。しかし、結婚はできるんだってさ。

ちょっとだけ説明すると、女性、男性、両性と身体的変化によって分ける事ができるがあまり気にされていないんだ。それはどの性別だとしても子供を携える事ができるからだ。


心と魔力とか色々なものがね通じ合えば…奇跡だって起こるんだ。詳しくは私の後ろの聖女に聞けばいいよ。首をネチネチと触ってる奇跡の聖女さんにさ!



私がそんな思いと共に後ろを振り向くといつも通り機嫌の良さそうな顔でニコニコと笑いかけてくる聖女様。今日はまだ制服には着替えてないらしい。白いワンピースは寝巻きのカッコだろうか。いつもキッチリと整ったスタイルはまだ崩されなままだ。いつもは白いレースの被り物から口元を隠したり、そしてまた白の布を肩に掛けて…立派な白の服を着てる。ちゃんと見てないから分からないけど…。

でも寝巻きまで白いんだなって気づく。


私がジロジロって見たのにも関わらず、少女らしい可愛らしい笑みを浮かべて楽しそうに微笑む。私は全体的に黒いから…正反対だな。


でも腹黒いんだぜ?この話は積もらせる事が出来ちゃうから…





「ねえねえ、こっちを向いて????撫でてよ??」



グリグリ…

足元になんか動いてる。くりくりとしたふわふわの何か。話しかけてきたのは可愛いやつだよ。ケモ族の中でも犬種のようで…匂いを私につけるように動くのは辞めてほしいんだけどね。

諦めたように布団に沈んでいた重い手を持ち上げて撫でようと手を伸ばす。あと数センチでもふもふの耳に…




ぐらっと身体が揺れた。

その手をぎゅっと掴まれて、痛い。

指と指が挟まるように、、そんな掴み方は絶対に逃さないって言っているようで、苦しささえ感じる。目の前で真っ赤に目を染めて…私を怒ったように見つめる勇者がいた。まだ怒ってるのか、二人は機嫌直したと言うのに。困るよ。


浅い感情と反比例するように指の間が折れるように痛い。馬鹿力め。爪が手の甲に食い込むのがわかる。







…3人とも昔は可愛かったんだけどなぁ。


幼い頃からの付き合い。でもいつしか関係も立場も変わってしまった。いや、最初からそうなる運命だったのかもしれない。









______________

【10年前】



「ああ…これで終わりでいい。お姉様は来てるんだろう?お前は役割があるらしいじゃないか…まあ、行っておいで。」


「はい。ありがとうございました。」


立派な服を着て、だらしないやつだ。吐き気がする。


さっきのやつが立ち去ったのを見届けてから、そこら辺にある立派な柱に寄りかかり疲れた身体を少しだけ癒す。

ぺっ…クソみたいだ。口の中を洗い流したい強い感情に見舞われるもどうしようもない。そんな鬱憤した気持ちがこの綺麗な綺麗な建物の中を少しでも汚してやろうと唾となって出る。

白い大理石でできた床は私の唾で少しだけ汚れた。でもこんな立派なところに住んでいる奴らは私達を汚す。何も言えない私と大好きなお姉ちゃんを汚すから大っ嫌いだ。



少しだけお姉ちゃんを心配になったけど、いつもの事だし、私はお姉ちゃんが汚れるのを見たくなかった。

だから、言われた通りに前に進む。いくつもの柱が並ぶ廊下は広く綺麗で、真ん中に赤い絨毯が引かれている。小さい身体の私にはそれが果てしなく遠くまで広がっているように見える。少し歩くと待ってたかのように燕尾服を着た男の人とメイドらしい女の人が私を出迎えた。

…ああ、待ってたのか。


彼らは私に「お待ちしておりました」と深々と頭を下げて歩き出す。私の歩幅に合わせたゆっくりとした歩調で助かった。面倒なやつに捕まった私はやっぱり疲れていて、早く寝たい。寝て忘れてしまいたいぐらい精神的に限界だったから。




長い廊下を少し歩くと、下に続く階段があった。私には少し大きく感じていたが、それに気づいたように燕尾服の男が私を上に持ち上げてくれた。…歩かなくて済むことに気づいた私は体を委ねたんだ。

いつのまにか立派な扉に近づいていた。メイドが扉を開けて、私たちは中に入る。すると、お父様、そして女性が2人、男性が1人いた。


そして私は床に足をつける。

お父様は私に気づくと、眉を少し傾けたから焦って…私は王国式の挨拶をしてお父様のもとに駆け寄る。



「…終わらせてきたか。ご評価頂けたか?」


「はい。いつも通りです。お姉様はまだのようで…」


「いや、お前だけでいい。話を聞きなさい。」



小声でお父様が話しかけてきた。業務的に答えたところで、円形のテーブルらしきところの奥にいた女性が声を出したんだ。


「ここにいる者たちは国の代表となる存在です。ゆくゆくは力を合わせて世界を救うことになるでしょう。」




なんだこれは?率直な感想だった。××歳近くになった私、この歳にしては色々嫌な事や驚くことを経験させられたけど…流石に世界を救えって言われると思ってなかった。男性に連れられたくるくる髪の女の子は泣きそうな顔をしている。女性に連れられた女の子は聡明そうだ。しかし表情なく…少しだけ親近感。


そして急に子供達だけを残して、大人四人は円形のテーブルで話し込むように集まってしまった。



置いてかれたクルクル髪の子は怖がるように蹲ってしまう。なんだこいつって思ったが…頭の上についた耳がピクピクと動く…。は、初めて見た…これは…



「ケモ…族??」


「…ぇ……ぁっうん。」


驚いたようにこっちを見上げる女の子。よく見たら可愛い顔をしている。涙が溢れそうな目は大きな瞳をしていて、可愛げがない私の細い目と比べたら天と地の差があった。



会話中もぴこぴこと犬のような耳が動くものだから思わず触ってしまったんだけど…意外と心地よかったのか、私の手に擦り寄るように頭を擦ってきて可愛かった。癒されるような…気分でボケっとしてたら、側から見てた女の子が邪魔するように口を挟む。


「あの風の国の王女ですか。共和国の王女に触れるほどの立場ではないはずなのはご存知で?」



きつい瞳。さらさらの美しいブランドが逆に生意気そうに見えてくるのは目の前のこいつがイケメンだからだろうか。

でもちょっとおかしくて笑っちゃったんだ。



「な、何を笑ってるんだ!失礼だぞ!!」


「ふふふ、ごめんあそばせ。小さい身体で王女を守るなんて本物の王子様みたいね。かっこいいわね。」


「私が…本物の王子…?」



さっきまでの勢いはどこに行ったのか、私の言葉に腹を立てるでもなくきょとんと受け止められてしまう。私としては嫌味を言ったつもりだったんだけど、こう素直になられてしまうと困ると言うものだ。


張り合いがない…。そんな冷めた思いと共に、止まってしまったイケメン王子を片手に犬耳っ子をなでくりたおしていると…。私の目の前に美少女が立ち止まった。あっ、無表情美少女だ。


いや、正確には無表情ではない。目は微笑んでるように半月型だが、でも表情がない。そう感じる顔をしてた。

そんな彼女が私の前で立ち止まる。


…何…。いや、本当に何がしたいの?

そう思ったけど、何となく聞けなかった。表情で読む事が得意だった私も流石に読み取れなくて。


困った私は目の前の犬耳っ子と同じようにその無表情美少女の髪もボサボサにしてやる。髪グジャグジャにしたら何か表情に変化出るかなってそんな浅い考えだったんだ。


そしたら意外にも思ったとおりに行く。

キョトンとした顔で驚いたようだった。

可愛い子たちだなって思ったよ。綺麗で…大切に育てられて…愛されてそうだなって。



汚れてない。



ずるいよって。


お父さんから呼ばれて、私はすぐ向かう。今日は帰ることになりそうだ。でもまた何度か来ることになるらしい。



馬車に戻ると、死んだように眠るお姉ちゃんがいた。お姉ちゃんの綺麗な黒髪をそっと撫でた。

お姉ちゃん起きなかった。

でも起きなくてよかった。ゆっくり寝ててほしいって思ったから。














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