模造品のきみへ
只石 美咲
序章
彼女が髪を指で分けただけ。
それだけの仕草が、私の心をつかんで離さなかった。
胸辺りに揃えられた髪は、私とお揃いだ。
いや、お揃いというか私が彼女のマネをしているだけ。
でも、どんなにマネしても自分の髪にこんな感情は抱かない。
「お、
春香は眩しそうにこちらを見ている。
「終わったよ」
私は胸が弾んでいるのが、気取られないようにいつも通りの私を演じるのだ。
「じゃ、帰ろうか」
はるかは首を傾げてほほ笑む。
その微笑みに包まれたいと願いながら、はるかに対する罪悪感が私の胸の奥に渦巻いた。
私ははるかを騙している。
はるかのことが好き。
世界中の誰よりも、はるかのことが好き。
でもその好きは親友として、友情としての好きとは違う。
もちろん、それは幼稚園からの彼女との付き合いでとっくに育まれている。
でも、今の胸の奥にある、どろっどろに粘度の高いこの感情は、違う。
性愛として恋愛として、私ははるかが好き。
彼女が動くたびに、腕のしなやかさを目の当たりにするたびに、私の胸は締め付けられる。
こんな感情を親友には抱いてはいけない。
想いを押し殺していたある日の放課後、私のスマートフォンに知らない番号から着信があった。
詐欺かなと思い、とりあえずかかってきた番号を「アスカ」に送信。
「アスカ」からは
『確認しました。この番号はオープンアンドロイド社が個人情報保護契約(PPA)に基づき正式に取得したものです。同社は2030年に設立されたベンチャーで、二足歩行型AI「コンチネンタル」の開発で注目されてます。詐欺じゃないよ、かなで。どうする?』
アスカ――私のスマホに住むAIアシスタント。幼い頃から頼りにしてる、半分友達みたいな存在だ。とりあえず電話をかけてみる。
「オープンアンドロイド社です。
……は?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます