模造品のきみへ

只石 美咲

序章

彼女が髪を指で分けただけ。

それだけの仕草が、私の心をつかんで離さなかった。

森山春香もりやまはるかは教室の窓辺に立っていて、春の風がセミロングの髪を揺らしてる。


胸辺りに揃えられた髪は、私とお揃いだ。

いや、お揃いというか私が彼女のマネをしているだけ。

でも、どんなにマネしても自分の髪にこんな感情は抱かない。


「お、かなで終わったの?」


春香は眩しそうにこちらを見ている。


「終わったよ」


私は胸が弾んでいるのが、気取られないようにいつも通りの私を演じるのだ。


「じゃ、帰ろうか」


はるかは首を傾げてほほ笑む。

その微笑みに包まれたいと願いながら、はるかに対する罪悪感が私の胸の奥に渦巻いた。


私ははるかを騙している。

はるかのことが好き。

世界中の誰よりも、はるかのことが好き。

でもその好きは親友として、友情としての好きとは違う。

もちろん、それは幼稚園からの彼女との付き合いでとっくに育まれている。


でも、今の胸の奥にある、どろっどろに粘度の高いこの感情は、違う。

性愛として恋愛として、私ははるかが好き。

彼女が動くたびに、腕のしなやかさを目の当たりにするたびに、私の胸は締め付けられる。


こんな感情を親友には抱いてはいけない。

想いを押し殺していたある日の放課後、私のスマートフォンに知らない番号から着信があった。


詐欺かなと思い、とりあえずかかってきた番号を「アスカ」に送信。

「アスカ」からは


『確認しました。この番号はオープンアンドロイド社が個人情報保護契約(PPA)に基づき正式に取得したものです。同社は2030年に設立されたベンチャーで、二足歩行型AI「コンチネンタル」の開発で注目されてます。詐欺じゃないよ、かなで。どうする?』


アスカ――私のスマホに住むAIアシスタント。幼い頃から頼りにしてる、半分友達みたいな存在だ。とりあえず電話をかけてみる。


「オープンアンドロイド社です。白百合奏しらゆりかなでさんですよね?コンチネンタルAIの被験者に選ばれました。おめでとうございます!」


……は?

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