恋野さんの依存癖
守山ちひろ
第1話
私の大好きな彼氏は、年上で頭が良くて、かっこよくて、みんなが私のことをうらやましいって話す。今日だって、この後教室まで迎えに来てくれるって言うから髪を結びなおしてこの間プレゼントしてくれたリップを塗りなおして最高の自分で彼の隣を歩く。
ブブ…と机の上に置いていたスマホが鳴る。
『今日は話したい事があるからここのお店に行こう。』
嫌な予感がしたけど、この間付き合って1年でプレゼントを送りあって次は2年記念は少し遠出をして旅行しようって約束したし、今日まで毎日一緒に登下校して可愛い可愛いって言ってくれてるし、別れるなんて、絶対ないと思う。
「結衣ちゃん!彼氏くん来たよ~!」
教室の後方扉にいた友達が廊下で待っている彼氏を指さしながら私を呼ぶ。はーい!と返事をしてカバンを肩にかける。スマホの反射で最終チェックをして廊下へ急ぐ。私より少し背の高い彼の腕に手を伸ばして腕を組むといつもは私に笑いかけてくれるのに、今日はスマホに夢中になっている。今日だって最高に可愛くしてきたのに、一目もかけてくれないなんて、可愛いって言ってくれないなんて彼氏失格だよ。
ぐるぐると嫌な気持ちを消化できないまま、彼氏の指定したお店へ向かった。
絶対別れることなんてないと信じて疑わなかった数十分前の自分を取り戻してしまいたいくらいには嫌な鼓動が止まらない。
飲み物を頼み終わった彼が気まずそうな顔をしながら、言葉に詰まっている。頭を掻き、あーとかうーんとか悩んでて、そんな彼の姿に手汗が止まらなくなってしまった。改めて私に向き直った彼の発する言葉に耳を塞ぎたくなった。
「ごめん、別れよう。結衣といると疲れるんだよね。」
わかっていた。さっき頼んだ飲み物だって、私の分しか頼んでいなくて、喉乾いていないからなんて言っていたけど、この別れ話が終わったらすぐに帰るんだろうなって思った。思っていたけどそんなことないって思う自分を否定したくなかった。
「……デートの回数が多かった、とか?」
「まあ、そんな感じ」
なんでそんなそっけないの。
そんな感じって、適当過ぎるじゃん。
別れる気なら、最後に私のことを責めてくれればこっちだって吹っ切れるかもしれないのに、最後でさえ曖昧で嫌になる。言葉の出てこない私より、スマホのほうが気になるらしい彼の目線は一向にこちらを向かない。
もう、私のことなんて好きじゃないんだろうなって雰囲気に耐えられなくなった私は『わかった』って言葉をこぼす。
そんなか細い声は拾ってくれるらしい彼はじゃあ、なんて言って足早に店から去っていった。彼の背中なんて追えなくて、じわじわと目に涙が溜まって視界が不透明になる。どれだけ拭っても止まってくれない涙は私の後悔の数かもしれないな、なんて考えた。
「お待たせしました。アイスティーになります」
ひとりでに泣いている私によそよそしく店員が話しかける。申し訳ないなとは思うけど、止まらないものはしょうがないから涙でぐしゃぐしゃのまま笑顔でありがとうございます!って答えた。
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