幻覚と幻聴

 オレはそっと身を引いて…心愛さんの幸せを願うばかりです。

 

 

 土曜の夜、オレは幻覚をみました。

 

 長風呂から上がり、めっちゃいい汗をかいてリフレッシュした…と思っていたのに…

 

 全然脳みそがリフレッシュしておりませんでした。

 

 暗い廊下の先に心愛さんが見えました…。

 

 幻覚をみるなんて…

 

 

 オレはどんだけ心愛さんを好きだったんでしょうか?

 

 あー今なら、わかるわー…

 

 心愛さんは、彼氏にフラれた時めっちゃ辛かっただろうなー…。

 

 オレは心愛さんとイチャイチャしたりしてないけど、心愛さんは彼氏とイチャイチャしていた挙句に、いきなり彼氏から別れを告げられたんだもんな。

 

 彼氏の温もりとか…思い出の時間とか…思い出したら辛いよなー…。

 

 一刻も早くより戻せることを願う。

 それか…今日告白してきた誰かと、お付き合いすることになってたりするのかな…。

 

 心愛さん…幸せになってください‼︎

 

 もう、大丈夫…

 

 大丈夫だから…

 

 次こそは、幸せになってほしい。

 

 そんなことを考えていたら、オレはいつのまにかその幻覚の心愛さんを抱きしめていた。

 

 

「辛かったよね。もう大丈夫だから」

 って言いながらさ。

 

 

 そしたら…

 

「うん、嬉しい。いつも助けてくれてありがとう」

 って、聞こえたんだ。

 

 …

 

 幻覚と幻聴やん。

 

 

「心愛さん…心愛さーん♡」

 

 …やっぱりオレ心愛さんが好きでしたー‼︎

 

 

 どうせ幻覚なんだからって思いっきり抱きしめたよね。

 

「あ、このモコモコの服の肌触り最高〜♡めっちゃいい匂いするし♡心愛さん、心愛さ〜ん♡」

 

 スリスリ♡

 

 オレは、もうヤケクソのやりたい放題だった。

 

 

 すると…

 

「あんた…犬なの?なにしてるのよ?」

 って姉貴の声がした。

 

 

 ⁉︎

 

 姉貴…

 

 風呂上がりなのに一気に興醒めです…

 

 湯冷めするくらい興醒めしました。

 

 

 廊下が薄暗くてオレは…オレはてっきり幻覚かと思ったけど…

 

 まさかオレは姉貴を抱きしめていたなんて…

 

 キモっ‼︎

 

「なんでだよ‼︎なんでこんなとこいるんだよ…紛らわしい…よ。でも…ごめん、姉貴」

 

 …

 

「いや、心愛ちゃんに謝りなよ」

 

 …

 

 こ、心愛…さん?

 

 あ、そうか。

 

「…そうだね。心愛さん…オレは心愛さんの幻覚をみてキモいことしました。ごめんなさい」

 と、天を仰いだ。

 

「いや、ちゃんとさ…心愛ちゃんみて謝ろうか?」

 

 廊下の電気をパチリとつける姉貴。

 

 …

 

「えっ⁉︎」

 

 

 …

 

 え…

 

「な、なんでっ⁉︎なんなん…なにっ⁉︎」

「今日、心愛ちゃんうちにお泊まりだってお母さんから聞いてない?」

 

 …

 

「いえ…存じ上げませんで…」

「また、適当にお母さんの話をうんうんって流したんでしょ?」

「…はい。」

「ふふ、やっぱり塩崎くんは面白いね。急にお邪魔しちゃってごめんなさい。嫌…だよね?」

「えっ、いえ…もしろ喜んで」

「もしろって…りょうさ、長風呂して脳みそ溶けたかもよ?冷たいお茶飲んできな。心愛ちゃんごめんね。わたしの部屋行こっか」

「はい!」

 

 

 

 

 心愛さんがうちにいるー‼︎

 

 お泊まりだってさ♡

 

 夜中、姉貴の部屋と間違えてオレの部屋来ちゃったりするんかな⁇

 

 オレはいつでもウェルカムっすよ〜♡

 

 って…喜んでいる場合ではない‼︎

 

 オレさっき…心愛さんに…

 

 …

 

 あー‼︎

 

 オレのバカタレーーーッ‼︎

 

 風呂上がりなのに…なのに…めっちゃ震えたよね。

 

 オレ…キモっ‼︎ってさ…。

 

 心愛さんに抱きついたり…クンクンしたりしてさ…

 

 オレって…最低ー…

 

 

 心愛さん、絶対鳥肌もんだよね…。

 

 いくらオレが、風呂上がりでキレイとはいえ…

 

 好きじゃないやつからスリスリとかされたら…普通ビンタモンだよね…。

 

 それも往復どころの騒ぎじゃないよね…

 

 なん往復しても足らんよね…。

 

 ご、ごめんなさーい…。心愛さん…ほんっとにすみませんでした‼︎

 

 

 姉貴と一緒に部屋に向かう心愛さんに、謝り続けた。

 

 

 続く。

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