夢を見たら、その内容を書きます。短編集なので、それぞれ続いてません。
金貨珠玉
26日 病院の夢(というか、再現だこれ)
きっとここは病院のベッドの上だ。
解るのだ、ずっといたから。
ベッドの硬い感覚とペラペラの掛け布団ともいえないタオルケットのような薄い生地が、かかっている。
肩が寒い。
何故、看護師さん達はいつも肩まで掛け布団をかけてくれないのだろう。
寝たきりになった祖母にもそうだった。
いつも、いつも、空調が効いた部屋で、肩だけが寒い。
頭寒足熱とはいうけれど、自分は肩まで布団にくるまるのが好きなのだ。
一番好きな寝姿は、左側を下にして、家のふかふか羽毛布団にくるまって頭の先と顔だけ出して、後頭部と肩がぬくぬく暖かい状態なのだが、こんな病院ではそんな幸せとは縁遠い。
何しろ、手足に枷が、そしてご丁寧に腹にまで布製の枷が付けられてるのだ。
枷が布製なのは、きっと怪我をさせないためだろうが、しかしそれにしても、寝返りも打てないし腕も足も動かすとガンガンうるさい。
ふくらはぎには、多分血栓防止の白色のストッキングのようなものが付けられていて、それが上の方からくるくると巻いていかれちゃって腹が立つ。
これは、きっと太ましい人間にしかわからないだろう。
今何時なのか、それだけが判るのが幸せだと思う。
隔離室の、プラスチックの小窓のような所の外に、時計があって、この位置からでも見えるのだ。
夜は暗くて見えないが、今は朝になってきた。
今日は何月何日だ?
自分が頭が良ければ、夏至の日との差で日の出と日没が予想出来るのに。
脳を、脳が融けている。
自分の頭の中で、虫がニュルン、どろん、と耳から出ては繁殖してる音がする。
何度も看護師さんに脳の検査をしてくれ! と言ったのに。
脳に巣食う寄生虫のせいなんだ。
されるのは、おざなりな心臓の検査ばかりで、なんの進展も無い。
ヤクルトが飲みたい。
早く朝ごはんになってくれ。
今が、5時34分だから。
6時には、朝ごはんだ。
「おーーーーーーーーい」
「あーーーーーーーい」
あっ! またもあのベトナム人だかブラジル人? だかが起きてきたな?
あの人は、あまり喋れない代わりに、毎朝(どころかいつでも)発声練習をしているんだ。
あーやって、自分には肺活量があるんだと誇示してきて、腹が立つ。
しかも、奴は自分の顔を見ると、ニヤリと笑ったり、手を振ったりしてくるのだ。
やめてくれ! 仲良くしたくない!
早く病院から出たいのに!
『あーーーーーーー! い』
自分も、発声練習だ。
奴よりも長く発声するぞ!
『あぉーーーーーーー! お』
喉が痛い。
早く朝ごはんが食べたい、水が飲みたい。
もう6時を30分も回ってる。
いつもこうだ、看護師の中で自分の優先順位は低いみたいで、いつも後回しにされる。
こうなりゃやけだ、来るまで発声練習してやる!!
そう思ってたのに、
「はいー。アリさん、ご飯ですよー。今日も元気ですねー」
なんでだよ!! 奴の方が先かよ! 自分が一番最後かよ!!
理不尽さに、更に「うわーーーーーー!」
と叫んでると、ようやく自分の番が来た。
「遅いよ!! ストッキング直して! 枷外して!」
「はいはい、まずは採血からですよー」
ちくしょう。こんな、毎日採血したって何の意味も無いだろ。
もう自分の腕は、右も左も注射跡だらけだ。
ベッドの下に看護師が頭を下げると、がこんぐるぐると音がして、自分の上体が上がって座位になり、目の前にテーブルがかけられる。
看護師が注射器に、針をつけて、二の腕に止血用のようなゴム性のチューブをくくりつける。
これだけでも、もう痛い。
でも、まだこれからだ。
アルコール消毒綿で自分の右腕の肘の裏側の、線がある部分をゴシゴシとして、手袋をした手でトントンする。
「相変わらず、わかりにくい血管ですねー。適当に刺しますねー」
「やめて! やめて! 時間がかかってもいいからちゃんとして!」
自分の言うことなど少しも聞かずに、本当に適当にぐさっと刺した。
「痛い! 痛い!」
「ありゃー。また失敗しちゃいました。ちょっと探りますね〜」
これが地獄の痛みなんだ。
注射針を刺されて、その後で血管を探るために針が入ったままでぐりぐり探られる。
「痛いってば!」
「はいはい、終わりますよー。うるさくするとご飯抜きですよー」
あくまで、こちらに非があるという態度の看護師に腹が立つ。
でも、ご飯抜きは嫌なので、うー、うー、うめきながら耐える。
血を抜かれてる時も痛い。
でも、そんなの無視している。
いつものことだと思っているのか、隔離されてる精神病患者など、時間をかけるに値しないからか?
「はい、終わりましたー。じゃあ右手だけ外すので後は自分で食べてくださいねー」
「はい……」
ぶん殴ってやりたいが、そんなことをしてもこちらが不利になるだけだ。
やるなら、本当に殺せる時を狙わなければ。
「あ、トイレ……」
「オムツにしてくださーい」
結局。足の不愉快なくるくるも直してもらえないで、便は垂れ流しだ。
尿は、カテーテルを挿入されて、袋に繋がっている。
尊厳など無いのだ。
隔離室からは、いつ出れるのだろう。
せめて、暴れないから枷だけでも取って欲しい。
そう思いながら、おにぎりを食べる。
箸でキャベツをつまむ。
食べてる時だけは幸せだ。
たまに虫が混じっててギョッとするが、ゴキブリでないだけマシだと思う。
もぐもぐしてる間に、右腕だけでも腕を回したりする。
足はグーパーしているが、そろそろ歩きたい。
腹枷があるのだから、両手両足の枷を外してくれたっていいのに。
ベッドに寝転がって上体を起こしたままだと、どうしてもずり下がる。
腹筋と右手を使って位置を調整するが、これが大変なのだ。
ご飯を少しでもこぼしたく無いし(ベッドが汚れたら1週間はそのままだから)、腹枷が左腕に絡まると、動けなくなる(一敗)。
デザートのマンゴープリンを食べて、早々とご馳走様だ。
あぁ、もっと食べていたかったのに。
早く退院して、猫に会いたい。
夢だったらよかったなぁ。
こんなのが、現実だよ。
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