第7話 リリスの研究
リリスの研究が一段落してから数日が経った。相変わらず魔王城での雑用に追われる日々だが、最近はリリスに呼び出されることが増えていた。彼女の魔法研究に付き合うことが条件で、俺も魔法の技術を教わるという形になっている。
「火よ、焼き広がれ........《グランドファイア》!」
俺の詠唱とともに、燃え盛る炎が空間を満たす。熱気が肌を刺し、空気が歪むのが見えた。
「おおっ!これって、すごいんじゃないか」
「....大した事じゃない。範囲も絞れてない....出力魔力も少ない....」
このようにして、リリスは俺の魔法がどのようにすれば上手くいくかの指導をしてくれている。
ただ――
「........揺らさないで」
背後から冷静な声が飛んでくる。俺の背中にぴったりとくっついたままのリリスが、淡々と指摘する。
「いや、だから無理だって! なんで毎回俺の背中に張り付いてくるんだよ!?」
リリスは俺の肩に腕を回し、腰に足を絡めるような体勢で密着している。これではまともに魔法を制御できるわけがない。
「........観察中」
「観察なら横でやれよ!」
「近くの方が、魔力の流れがよく分かる」
そう言うと、リリスは俺の首筋にそっと指を這わせた。ひんやりとした指先が皮膚をかすめ、思わず身をすくめる。
「うわっ!?」
「........動かないで。もっと分かりづらくなる」
「ならせめて、首筋を触るのをやめてくれ....」
「....大丈夫、魔力を確認してるだけ」
「大丈夫じゃない!そもそも、 人の背中に張り付いたまま、魔力をどうこう言うのやめてくれ!」
リリスは俺の訴えを完全に無視し、再び静かに命じた。
「........もう一回」
「いや、その前に降りてくれない?」
「........ダメ」
即答。ため息をつきながら、俺は再び詠唱を始めた。
「火よ、焼き広がれ........《グランドファイア》!」
しかし、やはり炎の動きが不安定になる。俺の魔力の操作が悪いせいか、それともリリスが密着しているせいか、はたまたその両方か。
「........揺らさないで」
「だから無理だって言ってるだろ!?」
「ダメ」
「俺にどうしろと!?」
「揺らさない....」
「....はい」
理不尽すぎる。これじゃあまるで、魔法を学ぶどころか拷問を受けているようだ。
「........いつになったらここを出られるんだよ....」
思わず零れた言葉に、リリスの指がぴたりと止まる。
「........なんて言った?」
静かだが、どこか冷たく、鋭い声だった。背筋に悪寒が走る。これは........やばい。
「あ、いや、お腹減ったなーって思って....」
俺は適当な言い訳を口にした。リリスは少しの間沈黙し、それからゆっくりと腕をほどく。背中から感じていた体温がすっと消える。
「........そう」
「そ、それじゃあ俺、雑用の仕事があるから!」
俺はこの場から逃げるように足を動かした。
しかし、歩き出す直前、小さく囁く声が聞こえた気がした。
「........ユウキ、一生........ここ」
ーーー
廊下を歩きながら、俺は大きく息を吐く。
「ふぅ、なんとか誤魔化せた........ここでは裏切り者は死あるのみだからな」
リリスの研究室での時間は決して悪いものではない。魔法を学べるのは貴重だし、彼女の知識は確かに有用だ。でも....彼女の目が時々、怖くなることがある。冷たく、感情が見えない瞳。それがふと、獲物を見定めるように鋭く光る瞬間があるのだ。
「ま、今は深く考えるのはやめよう」
そんなことを呟きながら歩いていると、遠くから怒声が聞こえてきた。
「もっと力を込めろ! その程度じゃ人間一人倒せないぞ!」
アイシャの声だ。
(近づかない方がいいな。)
足早に通り過ぎようとしたが、運が悪かった。
「ユウキ! ちょうどいいところに来たな!」
鋭い視線が俺を捉える
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