貴族令嬢の普通(自称)の執事だったのに、いつの間にか神々に振り回されてる件

よるかる

プロローグ「ルーチェ、貴族社会の"監視対象"となる」

ここはジール大陸とドヴィル公国


この物語の舞台は、ジール大陸に存在するドヴィル公国。


…おおっと「げっ、またややこしい舞台設定かよ」と思った読者諸君。

すまない、ちょ〜っとややこしいが頑張って読んでほしい。お願いします。



 ここは中世風の建築や文化が残る一方で、現代社会に匹敵するほど文明が発展した国である。


 だが、この国には現代社会と決定的に異なる点がある。

それは──魔法の存在だ。


 魔法は、使用者の持つ魔力を消費して発動される。

魔力の大小は生まれつきの遺伝でほぼ決まるが、特殊なトレーニングを積めば、より強力な魔法を扱うことも可能となる。


 しかし、魔法は戦闘向きではない。

火球や雷撃を生み出すことはできるが、消耗が激しく、長時間の戦いには不向きだ。

本気で相手を仕留めるなら、剣や槍や銃といった武器を使うほうが早く、効率的である。


 そんな「そこそこ便利なまあまあ平和な国」──ドヴィル公国。

しかし、ここに

**莫大な規模で引っ掻き回す災厄の執事"**がいた。


彼の名は──ルーチェ。



──究極完全変態執事ルーチェ、貴族社会へ


 ドヴィル公国の中心に位置する、ノラム・ダッチェス(公爵)家の屋敷。

その格式高い門をくぐる一人の青年の姿があった。


「はぁ……今日も美しい女性がたくさんいるなぁ」


 銀灰色の髪を靡かせながら、彼──ルーチェは屋敷の敷地内を悠々と歩いていた。

彼の身につけた執事服は完璧な仕立てで、どこから見ても貴族に仕える者として遜色ない。


 中性的で整った顔立ちを持ち、男性・女性どちらにも見える美しさ。

透き通る白い肌に、光の加減で青みがかる銀色の瞳。

やや吊り目の鋭い視線が印象的な、美貌の持ち主である。


──だが、彼の発言と行動だけが"致命的"だった。


「さぁて、レディ達の履いてるパンツでも予想するか。最近の貴族界隈のトレンドのパンツは──」


 その瞬間。


「はぁ……本当に学習しないわね、あなたは」


 背後から冷徹な声が響き、次の瞬間には"鉄の手"が彼の襟首を掴み上げる。


「っぐ、ノラム様!? ちょっと優しく──」


「何度言ったら分かるの? この屋敷の名誉を傷つけるなら、即刻"消去"も辞さないわ」


 彼を掴んでいたのは、ダッチェス家の当主──ノラム・ダッチェス。

黒髪のロングストレートと深紅の瞳を持つ、美しくも威厳ある貴族令嬢である。

深紅の瞳が鋭く光り、まるで裁きを下す裁判官のような威圧感を放っていた。


「うーん、こんなに美しい女性に怒られるのもまた乙──」


 ノラムはため息とともに、無駄のない動きでルーチェの首を絞めた。


「がっ!? ノラム様、落ち着きませんか!? これは親愛の表現で──」


「あなたの中での"親愛"の定義をマシなやつに変えなさい。いい加減にしないと、本気で物理的に拘束するわよ?」


「いやぁ……いいですねぇ、僕を縛りつけようとする美女が存在するなんて……最高の環境じゃないですかぁ♡」


「はぁ……」


 ノラムは何を言っても響かないルーチェに頭を抱えた。

執事としての能力は勿論、彼の戦闘能力、魔法の才覚、そして驚異的な適応力を持っていながらも、致命的な欠点──"変態"であることが、彼の価値を損なわせている。


──ルーチェは貴族社会最大の"問題児"だった


 監視対象となった理由?

それは遡ること半年前。


 ルーチェは元々ただの一般人……ではなく、超一流の執事としての才能を持つ問題児だった。

彼の料理は一級品、屋敷の管理能力も抜群、戦闘技術も暗殺者レベル。

しかし、本能的な(主に性的欲求による)行動が、彼の信用を地の底まで貶めていた。


 そんな彼が、なぜ貴族社会になんとか受け入れられているのか?


それは──


「この男は貴族社会、もしくはそれ以上の規模に厄災を引き起こす可能性がある。"適切な管理下"に置かなければならない」


 貴族会議で、ノラム・ダッチェスが監視すると決まったとき、彼女は本気で貴族の地位を捨てようかと考えた。

こうして、ルーチェは"監視対象"としてノラム・ダッチェス家の執事に収まり、ノラムによる厳重な監視のもとで生活することになったのだった。


 そんな彼が今日も屋敷でセクハラ問題を起こしていると、屋敷の門前に一人の騎士が現れた。


「ノラム・ダッチェス殿、話がある」


 現れたのは、ドヴィル・プリンセスの騎士団長──長身の女性の騎士だった。顔はヘルムで隠されていたが。


 ノラムは心当たりがあるものの、一応問いかけた。

「騎士団長、何か問題でも?」


「……あの変態に話がある。」


 ノラムはルーチェを一瞥した。ルーチェはきょとんとしながらも、すぐににやりと笑う。


「いやいや、騎士団長様……そんなに僕に会いたかったなんて、照れますねぇ♡」


「貴様……!!」


 騎士団長の手が剣の柄にかかる。殺気が漂う。しかし、それを制するようにノラムが静かに口を開いた。


「一応理由を聞かせてくれるかしら」


「……この変態が、我が騎士団の兵士に"無礼な言葉"を浴びせた」


「はぁ…それで、どんな?」


「……『筋肉が美しいですね! もっと近くで触れてみても?』……と」


「…………」


 ノラムの視線が、ルーチェに向けられる。


「ルーチェ?」


「くっ、睨まれてるだけでダメージが……でも美女に睨まれるのも悪くないなぁ♡」


「もう救いようがないな……もういい、この変態の処罰はノラム・ダッチェスに任せる」


「ノ、ノラム様?えっと、その、いや〜僕はあの、女体のその素晴らしさが気になってその〜…」


「黙りなさい、あと恥も知りなさい」


 ルーチェは言い訳がめっちゃヘタクソだった。



 こうして、ルーチェは"監視対象"としてノラム・ダッチェスの専属執事となり、

そこそこ便利でまあまあ平和だったドヴィル公国は、彼によって莫大な規模で引っ掻き回されることとなる──

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