虚飾のガレージ 〜黒い月の精霊に愛されてチート級の最強再生能力を手に入れたけど、世界を救う契約が面倒すぎる件〜

虚空のよしりん

序章【第一次幽幕災害】

第0話 月が生まれた日[表]

父さんの手は、いつも温かかった。母さんの声は、優しくて大好きだった。俺はその時小さくて、何も分からない子供だったけど、家族と一緒にいると幸せだった。毎日笑ってた。


でも、その日は全部燃えて、灰になって消えてった。


街が急にうるさくなって、父さんが「早く!」って叫んだ。

母さんが俺の手を強く握って、走り出した。

そこら中が燃えてて、息が苦しくて、「待ってよ」って心の中で思った。人がいっぱい叫んでて、嫌な音がずっと響いてきた。「ジジジジ」って、耳が痛くなる嫌な音だった。


紫の霧が地面から湧いてきて、冷たくて気持ち悪かった。


地面がドンって揺れて、建物がガラガラって崩れた。霧がどんどん濃くなって、紫の影が街を包んだ。


「こっちだよ!早く!」


母さんは必死に叫んでた。母さんの服が泥と血で汚れてて、顔が真っ白だった。人が逃げてて、誰かが倒れて、血が地面に広がった。


「逃げろ!」


父さんが鉄の棒を持って、漫画に出てくるみたいな黒い怪物と戦ってた。牙がギザギザで、赤い目がこっちを睨んでた。変な翼が生えてたけど、飛ばなくて、ズルズルって地面に引きづってた。

でも、父さんが背中に爪を刺されて、血がドバッと出て倒れた。


「父さん!!!!!」


って、俺は必死に叫んだ。母さんが泣きながら俺を抱き抱えて走ってた。でも、霧が追いかけてきて、怪物がまた来た。母さんが俺を庇って、お腹に爪が刺さった。


「お母さん!やだ!やだ!」


俺は泣いたけど、お母さんはすぐ動かなくなった。

血が顔にかかって、生あたたかくて、すごく怖かった。


1人になってしまった。


霧がグルグル回って、怪物がたくさん出てきた。怪物は俺をいっぱい攻撃してきた。俺、這って逃げようとしたけど、手の感覚が無くなって、足も動かない。見たら、両腕も、片足も、いつの間にか無くなってた。

必死に助けてって叫ぼうとしたけど、霧を吸い込んだのか、声が上手く出せなくなってた。


(あれ…?)


いっぱい血が流れ出たけど、急に体が熱くなって、気付いたら腕も足も元に戻ってた。びっくりして見たら、紫の模様が腕に浮かんでた。


泣きながら地面に這った。でも、怪物は止めてくれなかった。爪がお腹に刺さって、血がドロドロ流れ出た。


「痛いよ、痛いよ、痛いよ、痛いよ」


叫んでたら、また熱くなって傷が治った。怪物が次に首を切り裂いて、ちゃんと息ができなくなった。でも、すぐ元に戻った。紫の模様が体中に広がって、俺、何度も死んだのに、何度も生き返った。


夢を見てるのかと思った。


怪物が爪を振り下ろすたび、血が飛び散って、痛くて、熱くて、でも死ねない。霧の中で怪物が何匹も俺を囲んで、切り裂いて、噛みついてきた。腕が千切れて、すぐ生えてきた。足が潰されて、また元に戻った。


うずくまって、ただ怪物がどっかに行くのを待ってた。


どれくらい時間が経ったか分からない。街が壊れて、人がいなくなって、霧が俺を包んでた。怪物がまだ俺を襲ってたけど、もう叫ぶ力もなくなった。地獄ってこの事なんだなって、子供ながらに思ってた。


そしたら、静かな声が聞こえた。


「泣かないで」


って、霧の中から、紫の光が近づいてきた。ちっちゃい女の子が立ってた。髪が長くて白くて、目が紫でキラキラしてた。服はボロボロで、足元が透けてて、お化けみたいだった。顔は冷たくて、感情がぜんぜん見えなかった。


「誰…?」


俺が聞くと、女の子がこっちを見た。冷たい目だった。


「エル。あなたを守る。」


エルが手を伸ばして、俺の頬に触れた。冷たいのに、心が少し軽くなった。紫の模様が体中で光って、心臓がドクドク鳴った。怪物が俺を襲おうって近づいてきたけど、エルが怪物に触ると霧に溶けて消えていった。


「これは、あなたの月。あなたのもの。」


エルが空を見上げてた。一緒に見たら、空に紫の霧が集まって、それがでっかい黒い塊になった。

月みたいで、キレイだけど怖かった。


「いつかきっと思い出す日が来る。」


エルが俺の手を握ったら、頭がクラクラして、目の前が真っ暗になった。


俺の名前、リンって言う。

父さんと母さんが付けてくれた大切な名前。

でも、もう家族はいない。




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