夢漫才「カクヨムは9周年」

@2321umoyukaku_2319

第1話 二人の紳士が夢を語り合う

「あの夢を見たのは、これで9回目だった。」

 突然そんなことを言い出したケー氏を凝視して、エル氏は言った。

「何だい何だい、驚くじゃないか、藪から棒に。」

「だから、あの夢を見たのは、これで9回目だった、と。」

「そっかそっか、そうか、そりゃあ凄いな。ところで」

「待て、話を変えるな。」

 そう言うケー氏を呆れた顔で眺め、エル氏はボヤいた。

「他人から夢の話を聞かされて喜ぶ人間はいないよ。話題を変えようぜ。」

「いや、そういうわけにはいかんのだ。付き合ってくれ。」

「何で?」

「これはカクヨムが9周年を迎えたことを記念するお祝いイベントのお題なのだよ。」

「ふ~ん、それで?」

「それで、このお題に合わせた夢を9回見て、それを投稿することになっているのだ。」

 ケー氏の説明を聞いて、エル氏はウンウンと何度か頷いた。

「そのおめでたい祝賀行事に合わせた夢を見て、その内容を書いてカクヨムに送れば、何か貰えるんだな?」

「ああ、そういうことだ。」

「何が貰えるんだろう?」

「対象者全員にKAC特製コレクターズカード(全10種セット)を授与とあったな。」

「おお、それは素晴らしい!」

「高山一実賞というのもある。Amazonギフトカード30,000円分、高山一実サイン入り『トラぺジウム』(角川文庫/宛名・日付入り)だそうだ。」

「それは嬉しいな!」

「【チャレンジ賞】【ぴったりで賞】【トリの降臨賞】【皆勤賞】がある。」

「凄い!」

「だが、それを貰うには9回見た夢の話を書いて送らないといけないのさ。」

「そうか、それで夢の話をしたがっているのだな。」

「そういうことだ。」

 説明を聞いて了解したエル氏は尋ねた。

「それで君は、どんな夢を見たんだい?」

 ケー氏は残念そうに首を横に振った。

「それが、まだ見ていないんだよ。」

「おいおいマジかよ! 締切はいつなんだ?」

「今日だ」

「ああ、そりゃ困ったな! 今から夢を9回も見るには時間が足りないぞ!」

「そうなんだ。でも、実際に夢を見る必要はない。9回見た夢の話を創作すればいいんだよ。だから手伝ってくれないか?」

「何を?」

「あの夢を9回見た話を、一緒に考えよう。」

「そうか、それなら、こういうのはどうだろう?」

 エル氏は「同じ夢を最近9回連続で見た。」と言い出した。

「そりゃ凄いね。」とケー氏は目を丸くする。エル氏はニヤッと笑った。

「9回続けて見た、あの夢の話を聞かせてやろう。それが案外、面白いんだぜ。」

 是非とも聞かせてくれ! とエム氏が思った次の瞬間、彼は夢から醒めた。舌打ちをする。

「くそっ、いいところだったのに! あと少しだったのに!」

 エム氏は寝床から飛び起きた。顔も洗わずパソコンに向かう。カクヨムの編集画面を出す。書きかけの文章が表示された。

<あの夢を見たのは、これで9回目だった。>

 指定された書き出しの一文以外は白紙である。エム氏は頭を抱えた。何の話も思い浮かばないためである。ぼやく。

「同じ夢を何度も見ているのに。いつも肝心のところで目が覚めてしまう!」

 実はエム氏は、二人の紳士ケー氏とエル氏がカクヨムに投稿する内容について語り合う同じ夢を、これまでに8回見ていた。しかし毎回、エル氏が「9回続けて見た、あの夢」について語り出す前に目覚めてしまうのだった。

 ほぼ真っ白な画面の中心と、その右下に表示される時計の間を、エム氏の視線が何度も往復する。時間が刻々と過ぎていく。彼は唇を噛みしめて立ち上がった。

「良いネタが何も出てこない! こうなったら、一か八かの勝負だ!」

 エム氏は寝床に飛び込むと布団を頭から被った。

「あの夢の続きを見よう! それしか手はない!」

 締切間際になっても何も書けないので、ケー氏とエル氏が夢を語り合う夢の続きを見ようと、エム氏は思い立ったのだ。時間がないにもかかわらず寝ようという発想が現実逃避であり、非現実的な夢物語そのものなのだが、切羽詰まっている彼は、それしか考えられなかった。

 愚かとしか言いようがない……しかしエム氏には、彼なりの確信があった。呟く。

「勝算はあるぞ。あの夢を次も見たら、ちょうど9回目になる。お題にぴったりの、区切りの数字だ。カクヨム9周年と同じで、縁起の良い数だ。だから、きっと、今度こそ最後まで夢を見られるはずだ」

 布団の中で固く目を瞑り、エム氏は睡魔の訪れを待つのだった。

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