屍拾い

第1話

 人は死ぬ。

 老いも若きも、男も女も、富める者も貧しき者も、死は万人に平等だ。

 つまり何が言いたいかというと、人が集まる場所には必然的に多くの『死』があるということだ。

「お、いたいた」

 暗く湿った通路の中、反響する自分の足音を聞きながら進むおれの視界に映ったのは、身じろぎすらせずに横たわる男の姿だ。カンテラで照らしてみると、男が着込んだ鎧には大きな亀裂が入り、胸から流れた血が半身を赤黒く染めている。

「これはダメだろうな」

 呼吸や脈拍を確かめるまでもなく男の命が失われて久しいのは明白だった。おれは知り合いの神官から聞いた祈りの言葉を唱えると、男の所持品を検めた。

「しけてんな」

 思わず罰当たりな言葉が口を突いて出たが、男が持っていたのは刃こぼれした短刀と夕食代にも足りない硬貨が入った薄い財布だけ。溜息を吐いたおれを誰が責められよう。

「ま、仕方ないか」

 男の所持品を片付けようとしたその時、おれは背後に向かって短刀を投げつけた。乾いた音を立てて短刀が床を跳ね返り、カンテラに照らされた黒い獣が飛び退ったのが見えた。

「おいおい、荒事は専門外なんだよ」

 おれは腰に差した剣を抜き、黒い獣に向かって切っ先を向ける。黒い獣の方はというと、どうやら手負いらしく体のあちこちから血を流していた。

 おそらくここで倒れていた男の命を奪ったのはこいつだろう。こちらに向かって飛び掛かる隙を窺っているようだが、残念ながらそれに付き合う義理はない。

「じゃあな」

 おれはカンテラをベルトに付けたカラビナに接続すると、懐から取り出した握りこぶしほどの大きさの丸薬を床に投げつける。

瞬間、強烈な閃光が炸裂した。

「さ、帰りますか」

 おれは背負っていたカバンから皮袋を取り出すと男の死体を手早く収め、ベルトに付けたワイヤーロープを使って自分の体に固定すると、全速力で逃げだした。

 背後では視界を奪われた黒い獣が不明瞭な叫びを上げて出鱈目に暴れているが、最早知ったことではない。というよりも振り返る余裕もないのが正直なところだ。

 カンテラの頼りない灯りだけが照らす闇の中を走り続けて、どれくらい経っただろうか。

そろそろ息が切れて足元がおぼつかなくなった頃、視界に光が射し込んだ。

「ようやく……」

 出口だ、と言葉にする余裕はなかった。

 おれは崩れかけた石の階段を駆け上がって陽光の中に飛び出すと、地面に膝をついて荒い息をつき背後の闇の中に目を凝らす。幸いにして追いかけてくる敵の姿はない。

 だがこれで仕事は終わりではない。

 疲労困憊の我が身と物言わぬ死体袋を引きずっておれが向かった先は、『冒険者保険協会』という胡散臭い看板のかかった立派な建物だ。

 厳めしい鉄の扉を開くと、小奇麗な格好をした受付の女が俺の姿を見て手元のベルを鳴らした。その途端、どこからか現れた数人の保険協会の人間が袋から男の死体を取り出して検分を始める。

 その中でも一番偉そうな中年の男が、あごひげを撫でながら口を開いた。胸元の名札にはバロウと書いてある。

「この死体の名前は分かるか?」

「カーダ・ブラン。財布に書いてあった」

「カーダ、カーダ……。ああ、あった」

 バロウは手元の書類の中に死体の身元を見つけると、小さな紙きれをこちらに差し出した。

「ご苦労。報酬はいつも通りに」

「まいど」

 おれは紙切れに書かれた金額を一瞥すると、さっさとその場を後にした。哀れなカーダ・ブランの死体は、冒険者保険協会の手で帰りを待つ家族の下に還されるのだろう。

 ああ、そういえば名乗っていなかった。

 おれはシイル。職業は屍拾いだ。



 人々からは『魔洞』と呼ばれるその巨大な迷宮は、いつから存在するのか、どこまで潜れば底があるかも分からない。巨大な魔獣がそこかしこを闊歩し、深い階層まで行けば炎を武器にする竜が巣食うと噂される。

 一方で、多くの宝物や強力な魔法の道具が眠り、一攫千金と名誉を求める冒険者たちがその深淵に挑む。

 その『魔洞』こそがおれが屍を拾う職場であり、『魔洞』の入り口を取り囲んで広がった冒険者たちの町がヴィエシュだった。

「はあ」

 そのヴィエシュの外れにある食堂で遅い夕食をとるおれの口から我知らずため息が漏れた。なにせ今日の稼ぎは期待の半分にも満たなかったのだ。

「まさか素寒貧の外れを引くとは」

 『魔洞』に関わる連中の暗黙の了解として、屍拾いは回収した死体の持ち物をいただいてもよい事になっている。しかしそもそも命の危険がある場所に大金を持ち歩く人間はいないし、貴重な武具などを持つ熟練の戦士は死ぬこともない。つまり大した儲けは期待できない。

 冒険者保険協会から死体回収の出来高払いはあるが、追加の実入りが硬貨数枚というのは流石にがっかりだ。おかげで夕食も豪勢さとは無縁の寂しさではないか。

「せめて肉が食いてえ」

 おれがしょぼくれた顔でちまちまと細切れの野菜をつついて口に運んでいると、誰かが目の前の席に荒々しく腰を下ろした。

 顔を上げてみたが、全く見知らぬ男だった。はてどこかで会ったかと記憶の糸を手繰り寄せていたが、その答えを見つけるより先に男が口を開いた。

「お前、屍拾いだな」

 嫌な予感がした。経験上、こういう形で会話が始まると碌なことにならない。

「だったら?」

「俺はお前らが死ぬほど嫌いなんだ。ちょろちょろと『魔洞』を駆け回って、やることは死体の追い剥ぎ。ドブネズミ以下のクソどもだ」

 酒臭い息を吐きかけてくる男の言葉に、遠くのテーブルの取り巻きらしく数人がニヤニヤしながら頷いている。なんて暇な連中なのだろう。

「で、用件は?」

「お前らに用なんかあるわけねえだろ!」

 男は大声を上げてテーブルを叩いたが、そんなことを言われても困る。こちとら生きている人間は専門外なのだから。

 食べかけの夕食を置いて逃げるべきか、この酔っぱらいを椅子で殴って黙らせるべきか。おれは数瞬だけ考えて後者の方が良さそうだと椅子に手を伸ばした。なにせ夕食代はもう払ってしまった。

「待った」

 だが、おれが椅子を振り上げるより先にさらなる闖入者が現れた。

「ケンカはよそう。晩飯くらい静かに食べさせてくれ」

 割って入ったのは柔和な笑みを浮かべた細身の女だった。こちらもやはり見知らぬ顔だったが、どこぞの舞台役者と言われたら信じてしまいそうな顔立ちで、その活力に満ちた目に酔っぱらいも気圧されている。

「ほら、一杯おごるよ。どうせ飲むなら楽しい酒が良い」

 細身の女は有無を言わさず酔っぱらいに金を握らせると、その背中をぐいぐい押して退散させてしまった。

 去り際にこちらを振り向いて片目を閉じたが、気障な仕草も嫌味にならないから不思議だ。

 そう思って食事の続きに取り掛かると、なぜか細身の女がすぐに戻ってきた。手には水の入ったグラスと串に刺さった肉を持っている。

「さっきは災難だったな。私はキディアだ」

「シイルだ。さっきは助かった」

 キディアと名乗った女は、テーブルに肘を突くとじっとこちらを見つめた。どうやら割って入ったのは親切心だけが理由ではないようだ。

「ちょっと聞きたいことがあるんだ」

「助け舟の恩返しくらいなら答えるよ」

「話が早い。人を探しててね」

 それなら尋ねる相手を間違っていないか。

「おれが知ってるのは死んでる奴ばっかりだ。生きてる奴はさっぱりだよ」

 だがおれの答えにもキディアは表情を変えずに肩をすくめて見せた。

「死んでる可能性もそれなりにあるから、見覚えがあればと思って。この男なんだが」

 キディアが懐から差し出したのは、くたびれた人相書きだった。顔の横には『ストラン』という名前が添えられている。

「知らないな。少なくとも死体を回収した記憶はない」

「そうか。ありがとう」

 首を横に振ったおれに彼女は残念そうな表情で人相書きをしまうと、手元にあったグラスの水を一気に飲み干した。ほんの一瞬、その表情は苦々しいものに変わった気がした。

「冒険者保険協会に行けば分かるかもしれない。『魔洞』に入る時は届け出ることになってるから」

「もうそっちは当たったんだ。どうも偽名を使っているようで無駄足だったけどね」

 キディアは串の肉にかじりつくと、瞬く間に平らげて席を立つ。その腰元には彼女の華やかな雰囲気に似つかわしくない無骨な剣を帯びていた。

「もし見かけたら知らせてくれないか。私はこの通りの先にある大鷲亭という宿に滞在してるから」

 そう言い残すと今度こそキディアは去っていった。視界の端では食堂の看板娘がその背中をうっとりと見送っていた。気持ちは分からんでもない。

 彼女の事情は知る由もないが、助けてもらった恩もある。おれはキディアとストランの名前を記憶の片隅にとどめつつ、皿の上の最後の人参を口に運んだ。



 ヴィエシュという町はその成り立ちが特殊なこともあって、町の中で一度会った相手と再び会うことはあまりない。やって来る冒険者たちは元々流浪の身の上の連中が多い上に、そのうちの少なくない割合が冒険の途中に死ぬのだから仕方ない。

 そんなわけでおれもキディアのことを思い出すことは無かったのだが、一週間ほど後に彼女とは意外な場所で出くわすことになった。

「おや、奇遇だね。こんなところで会うとは」

 キディアがおれの顔を見て口にした言葉は、まさにおれが抱いた感想と同じものだった。というのも、彼女が立っていたのは『魔洞』の中だったのだ。しかもその足元には斬り捨てられた魔獣が倒れている。

「話には聞いていたけど、物騒なところだね」

 キディアは右手に持った剣を慣れた手つきで血振るいし、冷ややかな目で魔獣の死骸を一瞥した。やはり、と言うべきか彼女もなかなかの手練れのようだ。

「探し人はまだ見つからないのか?」

「残念ながらね。ま、気長に探すよ」

 肩をすくめて見せたキディアは、おれの方を見て何事か思い出したとばかりに通路の奥を指さした。

「そういえばシイル、君は屍拾いだったね。さっき死体を見たよ。突き当りの角を曲がったあたりだ」

「ほう、それは助かる」

「もうほとんど骨だったが、やっぱり回収するのか?」

「もちろん」

 キディアは怪訝そうに尋ねたが、おれに言わせれば疑問の余地はない。ランタンを掲げて歩を進めると、彼女の言葉通りに骨だけになった死体が落ちている。

 おれはその骨を持参した皮袋に手早く放り込むと、口を堅く縛る。肉がなくなっても人一人分の骨となるとそれなりの重量がある。

「本当に死体を拾うんだな」

「そりゃそうさ。屍拾いなんだから」

 感心したような表情で後ろをついてくるキディアに答えながら、ついでとばかりに彼女が斬り捨てた魔獣のところに戻ると、その死体を検める。見惚れるほど綺麗にすっぱりと斬られた傷口がキディアの腕前を表わしているが、重要なことはそこではない。

「これは売れそうだな。これもよさそうだ」

 おれは魔獣の牙と爪を短刀で切り離し、これも別の皮袋に放り込む。拾う屍は何も冒険者のものばかりではない。

 腕組みをしてそれを見ていたキディアが呆れたように肩をすくめた。

「割と節操がないんだな」

「そんなものさ。金に色はない」

 これだけあれば今日の稼ぎには十分だろう。おれは皮袋を肩に担ぎ、『魔洞』の出口に向かって歩き出した。

 そしてしばらくそのまま進み続けて、背後から響く足音に後ろを振り返る。

「どうしてついてくるんだ?」

 なぜかキディアがついてきている。もうおれに用は無いはずだが。

「別に理由はないよ。目的も無くてね」

「探し人はどうしたんだ。ストラン、だったか」

「町中を聞いて回ったところ『魔洞』に来たらしいという目撃情報はあったんだけど、何分それ以上の手がかりが無い。もう何日も散々歩き回ったしそろそろ帰るよ」

 こちらには拒む理由はないし、魔獣に襲われても彼女がいれば心強い。おれたち二人はそのまま『魔洞』の出口を目指して歩き続けた。

 話題も無いので黙々と歩を進めていると、やがて沈黙に耐えかねたようにキディアが口を開いた。

「そういえば君はなぜ屍拾いをやってるんだ?」

「生きるためだ。それ以外にない」

「本当に?」

 彼女の問いの意味するところが分からずに怪訝な表情で見返すと、キディアはちらりと俺の担いでいる皮袋に目を遣った。

「『魔洞』の中が危険なのは冒険者も屍拾いも変わらないだろう。それならば冒険者たちのように富や名声を求めて『魔洞』の深みを目指しても良さそうじゃないか」

「そういうのは命知らずに任せるよ。おれには向いてない」

 おれの答えにキディアが納得したかは分からないが、彼女からそれ以上の追及はなかった。それならばと、今度は俺が疑問を口にした。

「そっちこそどういう事情で人探しなんてやってるんだ?しかもわざわざ『魔洞』の中まで踏み入って」

「仇討ちだよ」

 わずかにうつむいた彼女の顔に、カンテラの揺れる灯りがわずかに陰を作った。あまり踏み込んだところまで事情を聞くつもりもないので、おれは続きを促すこともなくそのまま歩き続けた。

「あまり胸を張って言えるものじゃないな」

「別にいいんじゃないか。目標があるなら生きる理由にもなるだろ」

「目標と呼ぶにはちょっと後ろ向きだけどね」

 自嘲するキディアにおれも苦笑を返し、そのあとはひたすら歩き続けた。

 道中で出くわす魔獣の類は瞬く間にキディアの剣の錆に変わったこともあり、特に危険もなくおれたちは『魔洞』を出た。

 そのまま別れるのかと思ったが、特に何も言わないままキディアは冒険者保険協会までついてきていた。よほど暇なのか、単なる興味本位か。

「言っとくけど、屍拾いは登録してる人間以外に報酬は出ないぞ」

「安心してくれ。君の稼ぎを分けろなんて言うつもりはない」

「そりゃ良かった。晩飯抜きになるところだ」

 おれたちは軽口を叩きながら協会に入ると、回収した骨を受付の男に引き渡す。受付は袋の中を覗き込むと、渋面を作って肩をすくめた。

「骨だけですか。他に身元の手がかりになるものは?」

「残念ながら」

「これじゃあ誰だか分かりませんね」

 受付は溜息を吐きながらカウンターの中の金庫を開いて小切手を取り出すと、乱雑なサインをしてこちらによこした。案の定、そこに書かれた報酬金額は『魔洞』に踏み入る危険に到底見合うものではなかったが、おれは今更文句をいう気力もないのでそのまま踵を返す。

 と、そこで背後から呼び止める声がかかった。

「ああ、ちょっとお待ちを。あなた宛てに手紙を預かってますよ」

 受付が整然とした書類棚から封筒を取り出し、こちらに手渡した。差出人には『キーラ・ブラン』とある。

「どうも」

 形だけ会釈して手紙を受け取ると、おれは封筒をそのまま懐に入れて冒険者保険協会を後にした。それまで後ろをついてきていたキディアが早足でおれの横に並び、わずかに首を傾げる。

「さっきの封筒は開けないのか」

「開けなくても大体分かる。気になるならどうぞ」

 執着も無いので彼女に封筒を押し付けると、おれは夕食をどこで食おうかと通りを眺めた。生憎と馴染の店の前には人だかりがあって、少し待たされそうだ。

「なになに、『拝啓、シイル様』」

 隣でキディアが手紙を読み上げる。果たしてその内容はおれの予想通りのものだった。

「『夫を連れ帰っていただきありがとうございます。生きて再び会うことが叶わなかったことは残念でしたが、あなたのおかげで葬儀を上げることができました』……」

 近しい家族を失った者からの感謝の手紙は、この仕事をしているとあまり珍しくはない。もちろん感謝の言葉をもらって嬉しくないわけではないが、死体ばかり見ているとそこに大した感慨を抱かなくなるのも事実だ。

 だがキディアの抱いた感想は異なるものだったようだ。

「私は『屍拾い』というものを誤解していたようだ。謝りたい」

「別に謝る必要はないだろ」

「いや、正直に言えば死体漁りのついでに死体を換金する不埒な輩たちだとばかり思っていた。故人の尊厳を守るためにも、遺された者たちが心に一つの区切りをつけるためにも、君の仕事は重要なようだ」

 キディアは手紙を封筒に収めながら神妙な顔でこちらを見つめていたが、それこそ誤解がある気がする。

「そんな大したもんじゃない。おれは金のためだし、持ち帰る死体の家族だって打算がある」

 もちろん愛情もあるだろうが、それだけが理由ではない。

「どういう意味だ?」

「保険って、いつ下りると思う?」

 おれの問いにキディアは小さく首を傾げた。この仕草はどうやら彼女の癖らしい。

「死んだ場合は死体が出た時。行方不明の場合は、『魔洞』に入った届出の日から三年後」

「……ああ、そういうことか」

 冒険者の稼ぎを生活の頼りとしている家族にとって、いつ保険が下りるかは文字通りの死活問題だ。そして『魔洞』の中に転がる死体をわざわざ持ち帰るのは屍拾いくらいのものだ。

「死んですぐに見つかるか、行方不明で三年待たされるか、大きな違いだ。今まで見てきた死体の中にも、大けがを引きずって『魔洞』の入り口に一歩でも近いところで斃れようとした奴や、せめて見つけられやすいようランタンを掲げて斃ていた奴が結構いた。死んだ後も金勘定だよ」

「それでも、大切なことだよ。君を尊敬する」

 キディアはおれの言葉にかぶりを振るとこちらに微笑みを向けた。なんというか、面と向かって褒められることがないせいで妙に気恥ずかしい。

 おれは顔を見られないように少し早足に歩き、すぐに入れそうな食堂を探した。ちょうど右手にいくつかテーブルの空いた店がある。

「それよりも夕食にしよう。さすがに腹が減った」

「ふふ、そうだね。……ああそうだ、一つ提案があるんだけど」

 あっさりとおれに追いついたキディアが、人差し指を立ててウインクを飛ばしてきた。おれに言わせれば、ここまで気障な仕草が似合う人間こそ尊敬に値する。

「君の仕事を私に手伝わせてくれないか」

「どういう風の吹き回しだ?」

「言っただろう、尊敬に値すると。どうせ私も人探しで『魔洞』に入るのだから、それなら君と行動を共にしたい。正直に言えば、仇討ちなんて後ろ向きなことばかりでなく人の役に立つこともしたいんだ。どうだろう?」

「どうもこうも……」

 キディアに用心棒としてついて来てもらえるなら歓迎だが、大きな問題がある。

「給料は出せないぞ」

「なに、高望みはしないさ。今日の夕食をおごってもらえば十分だよ」

 彼女の太陽のような笑みを向けられると断る理由も思いつかない。『魔洞』の暗闇で生きる者が陽光の下に引き出されて、抵抗などできようはずもない。

 おれはキディアから顔を背けると、すぐ近くにあった食堂のドアに手をかけて答えた。

「一番安いメニューなら」

「十分だ」

 乾いた音を立ててドアベルが鳴り、老境に差し掛かろうという店主が威勢の良い声でおれたちを歓迎した。

 正直に言えばもっと静かな店の方が好みだが、たまにはいいだろう。

 向かいに座る新しい相棒はお気に召したようだから。

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屍拾い @ao-12

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