死神聖女と夢見る魔女
三谷一葉
第1話 悪夢
あの夢を見たのは、これで9回目だった。
十代半ばの少女が死ぬ夢。
硬い石の床の上に、少女が仰向けに倒れている。
銀色の長い髪が床に広がり、光を失った青い瞳が天井を見つめていた。
その左胸に、短剣が深々と突き刺さっている。
少女の目は何かに驚いたかのように、大きく丸くなっていた。
口元には、淡い笑み。
何故自分が殺されなければならないのか、彼女はまるでわからぬままに息絶えたのだろう。
彼女のすぐ近くに、返り血に塗れた男が立っている。
若い男だ。まだ二十歳を少し過ぎたあたりだろう。
綺麗に整えられた金髪が汚れるのも構わずに、両手で頭を抱え、淡い水色の瞳は退路を探すネズミのように落ち着き無く左右に動いている。
「これでいい、これでいいんだ」
彼は、己に言い聞かせるように何度もそう繰り返していた。
「僕が正しい、僕は正しいことをしたんだ、だって、だって」
そこで、男が顔を上げる。
血走った目で、
「だって! 魔女は生きてちゃいけない! 殺さなきゃいけないんだ!」
────そこで、目が覚めた。
「────ッ!」
声にならない悲鳴と共に飛び起きる。
全力疾走をした後のように、額や背中に汗が滲んでいた。
早鐘を打つ心臓を宥めるために、深呼吸を繰り返す。
何度かの深呼吸の後、落ち着きを取り戻したローズマリーは、すぐに隣の部屋へと走った。
「リリアン!」
「───んぇ?」
半ば蹴破るような勢いで扉を開ける。
寝台の上で、寝ぼけ眼の少女がのんびりと上体を起こした。
寝癖がついた銀色の髪、まだ眠いのか半分閉じた目は晴れ渡った空の色、白い寝間着は白いまま、血の染みなどどこにもない。
(生きてる⋯⋯)
ローズマリーは、へなへなとその場に座り込んだ。
「な、なに? どうしたの?」
「⋯⋯あんたが突然死してないか、確認しに来たのよ」
「うぇえ!? 突然死!? なにそれ怖い!」
夢の中で死んでいた少女───リリアンが元気に叫んだ。
彼女はちゃんと生きている。
ローズマリーは、深々とため息をついた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます