第2話 リアライズスキル

『名前を 古のエンシェント忍者ニンジャ 佐藤に変更しました』


 グローワールド初回ログイン直後、蛍の手により俺の見た目と名前は忍者風に変えられた。


「いいねいいね、盛り上がってきました! さて、次はお待ちかねのリアライズの確認だね! あー、ドキドキしてきた」

「リアライズ? あー、さっき言ってたやつか、現実の特技をゲームのスキルとして持ち込めるとかってやつ」

「そうそう、現実でできる技とかが超絶強化されたり特殊効果が付与されるって感じ。グローワールドはレベルの概念がないから、スキルが超重要だよ」

「いまいちパッとこないけど、とりあえずどんなもんか見てみるのが早そうだな。ついでに一緒に見てくれ」


 コンソールの共有を継続して、蛍にリアライズスキルとやらをチェックしてもらうことにする。


「リアライズがある人ってあんまりいないんだけど、お兄ちゃんはマジもんの忍者だから、絶対あると思うよ! っていうかあって下さい!」


 蛍が興奮気味に身を乗り出して、慣れた手つきで俺のコンソールを操作する。


「蛍はどうなんだ?」

「あはは、私は一個もなかったよ。職人さんや、武術、スポーツなんかを本気で取り組んでる人とかは結構持ってるんだけどね。そういう人がいてくれるから、観る側も凄い盛り上がるんだよ」

「なるほどな、確かにそれはちょっとわかるかも」


 もしも格闘技のプロや金メダリストが、ダンジョン攻略をするとしたら話題性は抜群だし、実際どこまてやれるのか見てみたい。


「グローワールドのスキルって、リアライズ関係なく全部強いし、性能面であんまり嫉妬することはないんだけどさ、やっぱりリアライズのスキルって映えるんだよねぇ。固有だし効果や演出も特殊だったりしてね、いや、本当マジでカッコいいんだから! あ、想像したらよだれが」

「うげッ、汚ねえなぁ。服についたじゃねえか」


 蛍の口からキラリと糸引いた唾液が、忍装束に付着する。反射的に拭いたが、染みになって残っている。

 なんてもの作り込んでるんだこのゲームは。


「失敬失敬、まあこういうこともあるよ。ほら、それよりみてみて、注目! リアライズスキル解放するよ? オープン!」


 蛍が俺のコンソール上の『リアライズの解放』をタップすると、特に焦らされることもなく、表示はすぐに切り替わった。


 祈るように目をつむっている蛍が「どう、きた? きた?」と袖を引っ張ってくる。そして、俺が答える間もなく、目を見開いた。


「きゃあああ! きたああああ! って、嘘!? 3個!? すごっ! え、ホントに?」


 忙しい奴だな。


 蛍が3つしかないリストをわざわざ指で数えている。素なのか、わざと大袈裟に振る舞っているのは微妙なラインだが、なんとなく前者な気がする。


「それで」

「——ちょっと待ってて! 今見てる!」


 く、こいつ……。


 真剣な表情でリアライズスキルを一つづつ確認していく蛍。


リアライズスキル

跳躍 : 一度だけ跳躍力が飛躍的に向上する。30/30

危険察知 : 危険な気配を察知し、視認する。20/20

隠密 : 闇を纏い影に潜む。1/1


 そんな難しいことが書いてるわけでもないと思うんだけどな。

 ってか、説明が少なすぎて、実際に使ってみないとわからないだろ、こんなの。


「攻め手に欠けそうだけど、リアライズを外すのはさすがにもったいないよね。じっくり研究したいけどそんな時間もないし」


 蛍がブツブツと呟く。


 攻め手に欠ける、か。言われてみりゃそうだな。

 逃げたり隠れたりに特化してる気がする。


 偏った修行ばかりしてたからかなぁ、実際に誰かを闇討ちするわけにもいかないし、戦闘訓練なんて野生動物と親父くらいしか付き合ってくれなかったもんな。


「よし、決めた!」


 パンと蛍が手を叩く。


「お兄ちゃんのスキルセットはリアライズの3つでいこう! 細かい検証は時間的に無理だから、今から本番前日までお兄ちゃんは別行動で、ひたすらダンジョン攻略の練習だよ!」

「え、別行動? リアライズとやらのことはもういいのか?」


 まさか別行動とは。急展開すぎる。


 めちゃくちゃ気にしてる様子だったし、てっきり『見せて!』とくると思っていたのに。


「時間がないからね。ここで首を突っ込んだら、抑えられなくなるってことは自分でもわかってるつもり」


 ドヤ顔で語る蛍。


「イベントは3日後だろ? 色々忙しいのもわかるけど、いきなり放り出されるのも厳しいぞ」


 スキルのことは置いとくとしても、他にも知りたいことは山ほどある。というか、わかることの方が少ない状態だ。


「うん、本当ごめん! でも、イベントの応募締め切りが24時間切ってて、本気の本気でピンチなの。予備メンバーと合わせて5人必要だから、あと2人集めないと。って、うわっ、もうこんな時間!?」

「は? あと2人!? まだメンバーも決まってなかったのかよ!」

「これには深い深い事情があるの! とにかくそういうわけだから私行かないと。ごめんねお兄ちゃん! まずはチュートリアルダンジョンがおすすめ! 終わったら野良マッチングでパーティープレイの経験積んどいて!」

「あ、おい!」


 引き止める間もなく蛍が姿を消す。

 ここに来た時と同様、ワープ的な機能だろう。


 こんな展開ありかよ。

 どうしたもんか……。


 とりあえずコンソールを開いて、色々触ってみる。


「あ、スキルって装備しないとダメなのか。ん、いや、最初から装備されてる? しかも3つが上限っぽいな」


 スキル枠が3つしかないってのは、ゲーム初心者の俺にはありがたいな。


 昔スマホアプリでゲームをやった時には、次から次へとレベルが上がり、新しいスキルが増え続けて、ついていけなかった過去がある。


「どうやって外すんだ? あー、付け外しは専用の場所でしかできないっぽいな。今回は空き枠があったから、勝手に装備されたってことかな?」


 コンソールに表示された説明を見る限り、スキル関連は各街の図書館に行けば、付け外しができるらしい。

 蛍がスキルはこれでいいとか言ってたし、多分このままで問題ないだろう。


「お、チュートリアルダンジョンってのもあるな。蛍が言ってたやつか」


 マップを開くと、複数のダンジョンを選択できるようになっており、その中にチュートリアルダンジョンもある。

 また、中央には黒塗りされた大きな島があり『coming soon』と書かれている。これが目的のイベント用ダンジョンだろうか。


 よかった。マップからタップするだけで移動できそうだ。

 金もないし、街行っても何すればいいかよくわからないからな。大人しくチュートリアルダンジョンに行ってみるか。

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