【超読切版】勇者(志望)やけど仲間の蘇生代が払えないからネクロマンサーに転職するで!

森山沼島

とある勇者(志望)の悪夢



「あの夢を見たのは、これで9回目だった。」



 とある有象無象の中の無名の冒険者が今朝もまた、最悪な気分で目を覚ましたんや。


 宿泊費を数日分延滞している宿屋のベッドのシーツはその冒険者ファウルの大量に掻いた汗で…それは誰得や?と聞きたくなるほどベチャベチャのグッチャグチャやった。


 それに枕からは、飼ってから一度も洗って貰ったことがない昭和の外飼い犬のような臭いがするもんやから、自分で嗅いでおいて「オエッ」って嘔吐いとったわ。



「ここ最近、ずっと同じ夢ばかりだ。……危うく、漏らすところだった。」



 実はな? 顔を手で拭っているこの冴えない冒険者のファウルはここ数日、続けて同じ夢ばかり見ているんやで。


 その夢の内容とは――


 明後日の王様との謁見の場で周囲からの嘲笑の的にされてまう可哀想なファウル。


 それも、そのはずやで。

 両隣のホンマの勇者パーティと違うて、ファウルは三人分の仲間の棺桶を引き摺っとるんやから…。

 

 だが、突如としてそこへ悍ましい死者の群れがなだれ込んでくるっちゅうとんだバイオハザードや! 自分、ピコピコのやり過ぎやで!?



「しかし、困った。仲間を早く生き返らせてやりたいが……蘇生代が足りない。」



 この世界の中央にある大陸(言ったもん勝ちや)アリエヘンデ。


 その世界を魔物を使おうてぎょーさん悪いことばっかしよる魔王をシバきに行くために各国は挙って腕の立つ冒険者を“勇者”として囃し立ててるっちゅーわけやな。


 一応、このファウルもその勇者(志望)のひとりなんやで?



「ファウル出て来い! 今日こそ滞納してる宿泊費を払え! 後、地下の冷蔵室にいつまでお前の仲間の死体を置いておく気だ!? いい加減にしないと衛兵を呼ぶぞ!」


「…………。(窓を見るファウル)」



 ま。すこぶる成果は出てへんけどな。

 支援金も打ち切られて、仲間の蘇生代どころか宿代も払えず風呂にも入れへん始末や。 



  @1



「お前にもうギルドから金は貸せん! それに死んだお前のパーティも実に厄介な連中だったし、いっそこのままの方がギルドとしては助かるくらいだ。」



 確かに。そもそも華のない冒険者と組んでくれる奴は基本的にろくでもない連中ばかりやで。


 盗賊寄りの前科百犯の戦士という完全に見た目もアウトなトカゲ人。

 魔法の腕はあるが、酒乱と淫売で魔法学院を追放された常にビキニ姿の遊び人。

 魔法使いに憧れて修行を続ける超物理系のやや痴呆気味の老ドワーフ。


 だが、ファウルにとってはかけがえのない大事な仲間やったんや…!



「…………。」


「…おい。武器をしまえ、武器を。そんな白昼堂々ギルドで強盗する気概があるんなら、賞金首を捕まえて蘇生代にしろ。あ。借金もちゃんと返済しろよ?」



 ファウルが剣を鞘に納めると、カウンター横に貼ってある手配書を引っぺがしおったんや。



「コラ!? 勝手に手配書を剥がすな!」



 さては、ファウル……やる気やな?



   @2



「なるほど。ここ近日、旧教会の墓地に死霊術師が出現する、と。」



 賞金首の情報を無抵抗の一般市民から物理的に訊き出しよったファウルは夜中の墓地に張り込んだんや。


 死霊術師っちゅうのは、言わば教会の商売仇や。

 …まあ、死人を生き返らせるってのは同じやけれども。


 結果として、プロセスとコミットとかその辺が結構ちゃうねん。

 後、単純に蘇生はモグリが殆どで、大概はゾンビとかのアンデッドになってまう。


 だから、教会側も舐められんようにごっつい賞金を懸けてるんやろ。


 墓守が不在なことを良い事に、供え物を失敬して小腹を満たしたファウルに抜かりはあらへんぞ!



「む!」



 そんな折にこれまた都合よくこんな夜更けの墓地に人影や!

 賞金首め、まんまと姿を現しよったで。


 さあ、一攫千金のチャンスや!

 いてまえや!ファウル!


 仮に人違いやったとしても――運良くここは墓地や。

 適当に穴掘って埋めといたらええねんっ!


 そこはファウルとて、冒険者の端くれや。

 一瞬の内に背後から襲い掛かり、その不審者の首を刎ね――



「いやああああ!! 命だけは勘弁してクレメンス!?」




 しもうた! 賞金首の人相書きとちゃうぞ!?

 しかも相手はほぼ裸にローブ一丁の幼女やと!?


 まごうこと無き、児ポや! 捕まってまうぞ!?



「お前…死霊術師なのか?」


「うぅ…何でもするから、許してクレメンス…。」


「……何でも?」



 あかんぞ!ファウル!?

 児ポだけはコンプライアンス違反以上に世を敵に回すぞ!?



    @3



 結局、ファウルは懸賞金を手に入れることは無かったようやで?


 せやから、定期的な王様との謁見で登城した現在も――



「ハン! 棺桶を三つも引き摺っているとは滑稽だね? 今日もまた御偉方の靴でも舐める気かい。」


「全く、カッコ悪いわね…。」



 同じギルド出身でありながら、現在最も勇者に近いと持て囃される後輩。

 片や、そこまでとは及ばずとも高評価を誇る幼馴染の女勇者パーティ。


 後輩からは格好の嘲笑の的にされ、かつて甘酸っぱい青春を共に過ごした女勇者からは冷ややかな視線を浴びせられる可哀想なファウル…。


 その額にはこれでもかと脂汗が滲み出て、身体を伝おうて足元の絨毯に染みができてしもうとるくらいや。



 …けど、羞恥心からやないで? 不安やったんや。


 この光景はまるで何度も見たあの夢そのものやったからや――



「王様! 発言をお許しください。この場に相応しくない者、いえ。相応しくない者達が――」



 そう言ってあのいけ好かない若僧がファウルを指差すんや。



「恐らく同情を誘う気だったのでしょう。態々、王の御前に仲間の死体など持ち込んで…恥を知らせるべきでは?」


「くっ…。」



 ファウルは思わず歯を軋ませ、身じろいでしまったんや。


 けど、後輩坊主にオコしたからやないで?


 後ろの棺桶が――僅かに動いたことを誤魔化す為に皆の気を引いたったんや!



 そうや! この男!遂にやりおったんや!!


 捕まえたネクロリマンサーに死霊術のやり方を訊き出して仲間を蘇生したんや!


 ……そやけど、結果はファウルの予想と違おうてしもうた。

 そして、下手に仲間の棺桶の“中身”がこの場でバレてまう危険性に今更気付いて焦っとるんやでコイツ!?



(ガタガタガッガタッ!)


「うん? ちょっと…ファウル。今、棺桶が動いたわよ? まさか…生きてる仲間にわざと死んだフリをさせているんじゃないでしょうね?」



 惜しい! いや、惜しくはあらへんな? その真逆や!



「確かに僕も見ましたよ? 借金を踏み倒す為にそこまで…おい!戦士! 棺桶の蓋を開けてみるんだ。」


「や、止め…」


「大変です!王様!!」


「何事だ? どいつもこいつも騒がしい」



 そこへ慌てて兵士の一団が謁見の間に駆け込んできたんやな。

 よう見ると、他の兵士達は何やら必死に扉を押さえてるで?



「突然ゾンビの軍団がこの城へ殺到しております!」


「何だと! まだ昼間だぞ!? アンデッドが出歩いて良い時間帯ではないぞ!」


「そ、それは、そうなのですが…って王様早くお逃げうわあああああああ!?」



 兵士達の抵抗も虚しく、謁見の間にゾンビの群れが大量になだれ込んできよった!



「しまった!? 昨晩の練習台にした死体達が――」


「ゲンゼイ! ゲンゼイ!」

「キゾク ガ ナンダ コノヤロー!」

「イケメン シスベシ!」

「ぎゃああああああ!? ガブガブされぇぎぃえええええ~!!」

「ママあああああああああああ!?」



 怒りに燃える旧墓地の死者たちがまるでピラニアのように肥え太った悪徳貴族へと群がり、その場は一瞬にして身の毛もよだつ地獄へと――




     @4



「っ!?」



 勢いよくガバリとベッドから身を起こしたファウルが目を覚ますと、そこは見慣れたあの宿屋の部屋やったんや。



「また、夢だったのか…。はぁ。これで、あの夢を見たのは、これで10回目――」


「おい、ファウル。やっと起きやがったのか?」

「もぉ~…何かお肌がドロドロなんですけどぉ~? どうなってんのよぉ~」

「おいおい。儂なんて骨だけだぞい? ファウルよ、儂の杖を知らぬか?」


「…………。」



あかん! 大変気の毒やが――ファウルは脱糞してしもうた!(※SE)

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