第4話 仕返し 後編
私は「あはっ」と笑い声を上げた。
「なんだぁ?」
男が
私はそのまま、作った笑顔でもっと笑う。
「おいっ! なんなんだよ!」
ほぼ
「ふっ……おっかしい。まず私を巻き込んだのは貴方達じゃないですか?
それに、貴方がたをボコボコにしたのは桜華組では? ……もしかして、桜華組が怖いから私を痛めつけようとしたんですか。それはそれは、どうしようもない腰抜けですね」
私は笑顔で、でも強い口調で、男を煽り続ける。
すると、予想通り男は怒りに顔を赤くした。
「こっの……! 馬鹿にしやがって!!」
ドゴッ!
思いっきりお腹を蹴られ、激痛が走った。
「ゔ、っ……!」
地面に倒れ込みそうになったが、歯を食いしばって踏ん張る。
「は?」
男は倒れると思っていたのか、困惑した表情で私を見る。
それに対して、私はニヤリと笑ってやった。
「……これで、正当防衛です、よっ!」
私は男の袖を掴んで、右足で相手の足を引っ掛ける。
――そして、地面に叩きつけた。
「うぐっ!!」
「……残念でしたね。柔道黒帯なんですよ、私」
男が痛がっているうちに、手を離して走りだす。
走るたび、蹴られたお腹がズキズキと痛むけれど、とにかく走る。
……段々見慣れた建物が見えてきて、ホッと息をついた。
後ろに男がついてきていないことを確認して、『Ruo』に入る。
カランカラン……
「いらっしゃ――って、お前か」
「っ理希さん、こんにちは」
安心して、ふっと肩の力が抜けた。
「あ! 鈴来た! やっほ~!」
「……」
「見たらわかるだろ」
『Ruo』には優弥、静弥、伊織もいて、それぞれ座ってくつろいでいた。
「みなさん、こんにちは」
軽く挨拶をして、定位置と化しているカウンターの端の席……伊織のとなりへ座る。
「なんか飲むか」
理希さんが、洗い物をしながら私に聞く。
「いえ、大丈夫で――」
「鈴、レモンティー好きだったろ。メニューにあるけどいいのか」
断ろうとしたら、伊織がニッと笑って私を見た。
(レモンティー……!)
自分の瞳が、キラキラと輝いていくのがわかった。
「じゃ、じゃあレモンティーでお願いしますっ」
「わかった」と、理希さんは冷蔵庫の方へと歩いていった。
私は伊織の方を向いて、お礼を言おうとした時。急に伊織の目が鋭くなった。
「……鈴、その手首どうした」
え、と自分の手首を見る。
すると、さっき男に掴まれていた手首が、くっきり赤くなっていた。
「触ってもいいか」
「い、いいけど」
伊織がそっと手首を触る。
……でも、痛みはない。
「痛む?」
「いや、大丈夫」
「そうか」
伊織はホッとしたように表情を和らげた。
(……あ)
そういえば、とふと思い出す。
さっきの男にさらわれそうになったことは言ったほうがいいのだろうか。いや、でも言ったは言ったで面倒くさそうだな。
……でも、しっかり
しょうがないか、と伊織の方を向く。
「伊織」
「……ん?」
「さっき『Ruo』に来る前に男に拉致られそうになった」
「ごほッ!!」
飲んでいたコーヒーをぶちまけそうになる伊織。
「伊織きたなーい! え? なんで吹き出したの?」
優弥もこっちに寄ってきて、伊織を見る。
「だっ、大丈夫?」
「っおい、それどういうことだ」
伊織は怖い顔でキッと私を睨む。
私はあはは……と苦笑いしながら答える。
「ここに来る時に前私のほっぺ切った男と
煽ったら蹴られたし、正当防衛で柔道技で仕返した。それで逃げてきた」
「えぇ!? 鈴って柔道できるの!?」
「はい。小学生からやってて、中学生で黒帯になりました」
「すごぉ……!」
優弥が驚いた声を上げる。
伊織はまだ厳しい顔のままだ。
「――今、”蹴られた”ってどういうこと」
ピリッと、空気が凍る。
ちょっと低い声。流石に威圧感があって怖い。
「そのままだよ」
「どこを蹴られた?」
「
まぁ、嘘だけど……。
変な心配はかけたくない。別に、少し痛むくらいだし。
まだ納得いかなそうな顔をした伊織だけど、「大丈夫」を
心配してくれる伊織には申し訳ないと思う。多分毎回、私が嘘をついているのを分かって黙ってくれてる。
(ごめん……本当に、ごめん)
心の中で、謝罪の言葉を繰り返す。
……チリチリと、罪悪感に胸が痛んだ。
「ほらよ」
私は暗くなった気持ちをごまかすように、目の前に置かれたレモンティーを
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